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本を売ろうとしたら、一週間で疲れ果てた

今月末に、本を出版する。

先週の金曜日に情報公開して、一週間経った。

疲れ果てた。死にそう。


情報公開直後の土日は、SNSでの報告、リプライへの返信、知り合いへの宣伝、そして近所の本屋さん12軒への飛び込み営業。

はじめは楽しかった。みんなが好意的に反応してくれて、おめでとう、本出すんだね、すごいね、買うね、サインしてね、そうやってたくさんの人に応援されて夢中で走り抜けた。

しかし、そもそも営業なんか得意ではない。人に物を頼むのが得意でない。相手の顔色を窺いすぎる。作品に自信はあるから色々と動き回るくせに、いざ声をかける時にはあらゆることを心配しすぎて無駄に神経を使ってしまう。

それでも頑張った。発売後、結局大して読んでもらえなかったらそれこそ目も当てられない。今頑張らなければ、この数年間苦しみながら書いてきた意味が無くなってしまう。何より、自信がある。別にこの本でお金儲けをする必要なんてないから、印税を全て営業費に充ててでも読んでもらわなきゃいけない。良いものを書いたら自動的に売れる時代では、決してない。自分が動かなきゃいけない。

色々な人に声をかける。色々な人がアドバイスをくれる。

「営業って、相手にメリット与えれることが何かを明確に示さないと、自分だけが売り込んで自分だけが儲かるためにゴリゴリ行ってるって思われるよ!! 」

「エッセイって生きるテクニックとか世の分析じゃなくて思想そのものだから、平気でゴマするような人の思想も、知らない人の思想も読みたくない」

「僕はこれまで、過去のツテを当てに営業はしなかったよ!それやっちゃうと先々は広がらないで!」

みんな、ありがたい言葉をくれる。僕が思いもしなかったことを考えている。みんな、親身になって相談に乗ってくれて、みんなよく分かっていて、僕はいつも何もわかっていない。人に頼りきれないから、自分で全部できるような顔をして、結局何にもできない。

僕は、いつもこうだ。

僕は、ダメだ。

いつまでこんなことを続けるんだろう。

そうしてさっきカレンダーを見て衝撃を受けた。

まだ一週間しか経ってなかった。

もう眩暈がするくらい頑張ったような気がするけど、まだ何も始まっていなかった。なのにもう死にかけている。まずい。もう何もやりたくない。何も動きたくない。人に話しかけたくない。人のアドバイスを受容するキャパがない。


何をすればいいのか、全く分からなくなってしまった。

僕が書くものは、エッセイだ。筆者の独自の世界観を表現するものだ。それが他の人にはない世界観だから、孤高の存在だから、他人に迎合しないから、表現として価値があるものだ。

けれどこれまで、他人に迎合せず表現したものが読まれることはなかった。6年間書き続けてきたけれど、僕が書いたものがバズったことは一度もなかった。どの作品も精一杯の熱量を持って、読んだ人の世界をガラリと変えられる自信を持って書いたものだったけれど、勇んで発表した作品には毎回「いいね」がパラパラと10個ぐらい付くだけだった。

だからせめて、読んでくれた人にペコペコお礼をするしかなかった。読んでくれる人が、ありがたかった。「久保の文章、長いんだよねー」と言われたら、ごめんね、と言った。申し訳なかった。時間を取ってしまってごめんなさい。誰に頼まれたわけでもないのに書いてごめんなさい。

売り方が分からないから、限界まで安売りして買ってもらうしかなかった。けれど、そんな態度の人間の作品なんか、魅力的に映るわけがなかった。


そもそも、何のために本なんか出すんだろう。

僕は、表現をしたかった。それは、僕が表現で救われたからだった。高校生の頃、Radioheadに、ザ・クロマニヨンズに、神聖かまってちゃんに、ゆらゆら帝国に、NIRVANAに、ジミ・ヘンドリックスに救われたからだった。「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」に、「印象・日の出」に、「正しい生き方なんていらない」に、「レインボーペインティング」に、「ジョゼと虎と魚たち」に、「おやすみプンプン」に、「クワイエットルームにようこそ」に、救われたからだった。

そういうものを、僕もこの世の中に残したかったからだった。生きるということはあまりに儚くて虚しいから、僕の生々しい感情はどんどん通り過ぎて行ってしまうから、今この瞬間に書く必要があったのだった。

「営業って、相手にメリット与えれることが何かを明確に示さないと、自分だけが売り込んで自分だけが儲かるためにゴリゴリ行ってるって思われるよ!! 」

そうだなあ。そうだよなあ。伝わってないよなあ、そんなこと。


お金を儲けたいから、この本を出すわけではありません。

売ることが目的ではありません。ただ、良いものが書けました。僕が、僕を救うために書いたものが、この本には書かれています。優しく慰めるということはしません。ただ僕が思ったことをありのまま書いています。退屈しないように、宇宙の話も丁寧に織り交ぜています。何気なく宇宙の話を読んでいるうちに、いつの間にかあなたの隣で小さく体育座りで佇んでいるような、そういう距離感の本です。みんなを救えるかは分かりませんが、一緒に苦しむことはできると思います。

NIRVANAもそうでした。ゆらゆら帝国もそうでした。おやすみプンプンもそうでした。そういうものが、僕は好きでした。

試し読みもできるので、気に入らなかったら忘れてください。


手に取ってもらえたら、またお会いしましょう。


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