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2023/03/24 となりのロット

同級生にあんな子いたな~と思ってボーッと見ていたら、本当にその同級生の子だった。新刊のサイン会の知らせを見て、足を運んでくれたそうだ。中学生以来だったから、十数年ぶりだった。この十数年間、一度も連絡したこともないような仲だったけれど、それだけに自分の意志で会いに来てくれたことがとても嬉しかった。

人間関係というのは、別にこだわらなくてもいいようなものに、それでもこだわることだ。たまたま同じ期間に同じ地域に住んでいたというだけで一つの教室に同居させられて、別に仲良くする義理なんか一つもなかったのに、それでもこだわって誰かと友達であり続けたあの頃がそうだった。

ありきたりな偶然の出会いを大事に抱えて、そう、昔はそういうことを運命と呼んでいたような気がする。偶然が巡り巡って今ここに一緒にいることに、軽々しく神秘を感じていたような気がする。そういうものを、何も疑わずに大事にできた頃があった。意味も理由もなくても、ただ友達であり続けられた頃があった。

部品がロット管理される時、同じ時期に同じ製造ラインで作られたものはほぼ同じ性能を有するとされる。ある部品が不良品だったとしたら、同じロットの隣の部品もまた不良品である可能性が高いとされる。宇宙機の部品の信頼性管理も、そのようにしてなされるらしい。

同じ時期に同じように育った僕たちは、だから、もしかしたらそれだけで何かを共有できているのかもしれない。運命と呼ぶにはあまりに大げさな頼りなさで、それでも繫がる意味があるのかもしれない。意味や理由がないと友達であり続けられなくなった僕たちにも、まだ友達でいるべき理由があるのかもしれない。

彼女は、あの時と変わらない、さらりとした優しい笑顔だった。気取っても気負ってもいないのに、隙あらばスッと懐に入りこんでくるような、心地よい人だった。たくさん話したことがあるわけではなかったけれど、彼女のそういう雰囲気は、なんだかずっと良いと思っていた気がする。

人と会うのはいつまで経ってもこわい。けれど、人と会わないと得られない感情がある。また人に会いたい。

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