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文学系マジシャン

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電子書籍のメリット&デメリット

電子書籍のメリット&デメリット

 電子書籍のお話です。

 正直、私の周りには電子書籍否定派が多いです。〝昔ながらの本読み〟が多いからかも知れませんが、そのほとんどの理由が「なんとなくなん」です。なんとなく紙がいい、デジタルだと情緒がない気がする、覚えられない気がするとか……。

 それはもったいない!

 やっぱ紙だよね! ではなくて、せっかくなので言語化しましょう。電子書籍のメリット、デメリットはなにか? 本当に紙媒体の方が

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ジョゼと虎と魚たち

ジョゼと虎と魚たち

YouTube解説

 夜ふけ、ジョゼが目をさますと、カーテンを払った窓から月光が射しこんでいて、まるで部屋中が海底洞窟の水族館のようだった。
 ジョゼも恒夫も、魚になっていた。
 ——死んだんやな、とジョゼは思った。
(アタイたちは死んだんや)

はじめに 短編集『ジョゼと虎と魚たち』(以下、『ジョゼ』)には、全部で9つの短編が収録されています。これらはいわゆる恋愛小説にあたりますが、ただただ美

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多和田葉子著『犬婿入り』

多和田葉子著『犬婿入り』

 もう7、8年前ですね、読書会で課題図書になって買った本です。その回には参加できなかったのですが、著者の多和田葉子さんがノーベル文学賞に近い作家ということでよく名前が上がるようになっていたので、今更ながら読んでみました。多和田葉子さんの作品は初めてです。
 読み終わった感想としまして、「もっと早く読んでおけばよかった」。

 本書には表題作の『犬婿入り』と『ペルソナ』という二作が収録されています。

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【児童書】失敗は怖くない! 大野正人著『失敗図鑑』紹介【私の失敗談】

【児童書】失敗は怖くない! 大野正人著『失敗図鑑』紹介【私の失敗談】

 先日、私の誕生日でした。ファンの方々からいろんな誕生日プレゼントをもらったのですが、その中に本が一冊ありました。それが今回ご紹介する大野正人著『失敗図鑑』です。私に本を渡したらすぐに書評にしますよ(リクエストも待ってます)。

 本書は偉人たちの数多くの失敗談が収録されている児童書……かな? 振り仮名とイラスト多めで、小学生から楽しめる本となっています(帯には「十歳から読める新しい心の教科書」と

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【紹介】アゴタ・クリストフ著『悪童日記』【強かな双子に惚れる】

【紹介】アゴタ・クリストフ著『悪童日記』【強かな双子に惚れる】

 知る人ぞ知る? と言っていいのでしょうか、本読みの間では人気の高い作品『悪童日記』の紹介です。

あらすじとか 戦時中、双子の少年たちがおばあちゃんの家に預けられます。そこで双子が目にしたこと耳にしたことが六十数編の短い日記のような形で語られます。戦争中というだけでもすでに悲しいのに、双子の預けられたおばあちゃんが強烈です。〈おばあちゃん〉という章の三行を読むだけでよくわかります。

 ぼくらは

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【苦手な方必見】本の読み方〈五つのルール〉

【苦手な方必見】本の読み方〈五つのルール〉

 今回は「本の読み方」というざっくりしたテーマでお話ししてみたいと思います。「記憶に残る読書法」というテーマでお話をしている方はよくみますが、「そもそも集中して本を読めない」「一冊も読みきれない」という方、いらっしゃるんじゃないですかね?
 私の後輩にも「何ヶ月も前に本を買ったけど読めてないです」というやつがいるので、そんな「本を読めない人」に向けて、私が意識して使っているいくつかのルールを紹介し

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【紹介】相沢沙呼著『medium 霊媒探偵城塚翡翠』『午前零時のサンドリヨン』【マジシャンが再現】

【紹介】相沢沙呼著『medium 霊媒探偵城塚翡翠』『午前零時のサンドリヨン』【マジシャンが再現】

あらすじ 推理小説作家・香月史郎と霊媒・城塚翡翠がタッグを組んで難事件に挑みます。翡翠の霊媒の能力は、死者の言葉を代弁し事件解決をアシストしますが、その言葉自体には証拠能力もなく、また殺害現場に行かなければ発動しないなどの条件があり、香月史郎がその言葉を推理によって現実世界と繋ぎます。しかし、巷を脅かすシリアルキラーの魔の手は翡翠にも忍び寄る——。

非常に説明しにくい! このミステリーがすごい!

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【紹介】山本弘『プロジェクトぴあの』【SFはすごい!】

 天才アイドルがピアノドライブという宇宙船の新型エンジンを開発するお話です。アニメチックな装丁からSF〝風〟ライトノベルを想像される方もいらっしゃるかもしれませんが、なんてったって著者は山本弘先生、相対性理論、タキオン(超光速粒子)、熱力学の第二法則の破る……などがっつりハードSFです。

 ヒロインである、結城ぴあのはアイドルを踏み台にしか考えていません。自分の夢を叶えるためにすべてを捨てている

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ノーベル文学賞と村上春樹

ノーベル文学賞と村上春樹

 現在、世界で最も権威のある賞として知られているノーベル賞を、ダイナマイトの開発で財をなしたアルフレッド・ノーベルが設立したことは有名ですね。面白い逸話としてまして、ノーベルの兄が亡くなった時に、フランスの新聞がこれを本人の死だと誤報、その時の新聞の見出しが「死の商人、死す」だったらしいのです。ダイナマイトが戦争に利用されることをノーベル自身も予期していたそうですが、それにしてもこの書かれようで、

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【紹介】ちょこっと近代日本文学系譜

【紹介】ちょこっと近代日本文学系譜

 前回の武者小路実篤『友情』の終わりに、さくっと近代日本文学の系譜のようなものを話したので、ここに残しておきます。私の覚えている範囲で、かつ細かいことは端折るので正確性にはかけるかもしれませんが、その点はご容赦ください。

 若き日の森鴎外が軍医として赴いたドイツで吸収してきたのがロマン主義と呼ばれる、美や善といったもののを誇張し、輪郭をはっきりと描くスタイルでした。ところが、19世紀の終わりから

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【紹介】ヘッセ『車輪の下』【マジで推薦図書?】

【紹介】ヘッセ『車輪の下』【マジで推薦図書?】

「ごきげんよう、ハンス。正しい道を離れぬように、主がおまえを祝福し護りたまわんことを! アーメン」

はじめに 日本ではもっとも読まれているヘッセの作品。小中高生の推薦図書とかにもよくなりますよね(同著者の『デミアン』も有名です)。しかし、推薦図書とかのことについても一言言わせてください。

著者 ヘルマン・ヘッセ(1877-1962)、ドイツ生まれでその後スイスに移り住んだ、ドイツ文学界を代表す

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【紹介】村上龍著『限りなく透明に近いブルー』【こうやって読むとすごさがわかる】

【紹介】村上龍著『限りなく透明に近いブルー』【こうやって読むとすごさがわかる】

 いいかよく見ろ、まだ世界は俺の下にあるじゃないか。この地面の上に俺はいて、同じ地面の上には木や草や砂糖を巣へ運ぶ蟻や、転がるボールを追う女の子や、駆けていく子犬がいる。
 この地面は無数の家々と山と河と海を経て、あらゆる場所に通じている。その上に俺はいる。
 恐がるな世界はまだ俺の下にあるんだぞ。(作中より引用)

はじめに 村上龍は村上春樹と同時期にデビューした大型新人として、「W村上」なんて

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【紹介】武者小路実篤『友情』【男の友情と三角関係】

【紹介】武者小路実篤『友情』【男の友情と三角関係】

 これまで海外文学を中心に紹介していて、今回も本当はヘルマンヘッセをやるつもりだったのですが、甘いものばかり食べているとしょっぱいものが食べたくなる心理ってやつで、日本の古典文学をやってみたいと思います。私は明治から大正にかけての文学が特に好きで、その中からもっともエンタメ性の高い作品をひとつ紹介したいと思います。

 日本の文学って何となくじめっぽいイメージを持っている方多いんじゃないですかね。

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【紹介】カミュ『異邦人』【もっとも影響を受けた一冊】

【紹介】カミュ『異邦人』【もっとも影響を受けた一冊】

「それはともかくとして、一体被告は誰なんです。被告だというのは重大なことです。それで私にも若干いいたいことがあります」
(カミュ著・窪田啓作訳『異邦人』新潮文庫より抜粋)

人生でもっとも影響を受けた小説
 私はある種の祈りを持ってこの小説を読み返します。今日こそはムルソーが報われますように。刑務所から出て、穏やかな人生を送れますように。マリイと結ばれますように。彼が望むと望まざるとにかかわらず、

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