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ウクライナ戦争・私見メモ 烏賀陽弘道

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京大卒の元朝日新聞の記者。烏賀陽弘道さんの記事です。 実は軍事学を米国で学んでいる人。
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#戦争

ウクライナ戦争を理解する歴史知識1  異民族支配と抵抗の歴史       大陸ど真ん中「ウクライナ」の歴史は     朝鮮・インドシナ・バルカン半島に似る  ウクライナ戦争に関する私見14   2022年7月29日現在

ウクライナ戦争を理解する歴史知識1  異民族支配と抵抗の歴史       大陸ど真ん中「ウクライナ」の歴史は     朝鮮・インドシナ・バルカン半島に似る  ウクライナ戦争に関する私見14   2022年7月29日現在

<前置き ウクライナの民族問題を理解するヒント>

2022年2月に始まった「第二次ウクライナ戦争」は、ロシア軍の侵攻以来5ヶ月が経過した。ウクライナは軍事大国ロシアに抵抗を続けている。彼の国の国民がかくも頑強にロシアに抵抗する姿を見て、その背景を知りたいと思った。そこにはウクライナ人が共有する「民族の記憶」があるはずだ。その歴史を知らずに現在の「ウクライナ」を理解することはできない。そう考えた。

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ウクライナ戦争を理解する歴史知識2  第一次大戦で近隣強国すべて瓦解      ウクライナ初の独立国家樹立するも         ボルシェビキ・ポーランド・ドイツに潰され              ソ連統治下で死者500万人の大飢饉  ウクライナ戦争に関する私見15   2022年8月4日現在

ウクライナ戦争を理解する歴史知識2  第一次大戦で近隣強国すべて瓦解      ウクライナ初の独立国家樹立するも         ボルシェビキ・ポーランド・ドイツに潰され              ソ連統治下で死者500万人の大飢饉  ウクライナ戦争に関する私見15   2022年8月4日現在

第二回目の本稿は、20世紀に入ってからのウクライナの歴史を述べる。

まずは20世紀前半、第一次世界大戦とロシア革命から。

20世紀になってからのウクライナ史はテンポが早くなり、そして陰惨な出来事が連続で起きる。血なまぐさい。第一次世界大戦が始まった1914年から、第二次世界大戦が終わる1945年の31年間のウクライナは、数百万単位で人が死ぬ戦争、殺戮、破壊、飢餓の連続である。悲惨としか言いよう

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「ウクライナ」という国の文化的多様性 国内東部と西部はほとんど別の国   ロシアが攻め込んだ東部「ドンバス」に    親欧米キエフとは正反対の親露住民   ウクライナ戦争に関する私見13    2022年7月8日現在 

「ウクライナ」という国の文化的多様性 国内東部と西部はほとんど別の国   ロシアが攻め込んだ東部「ドンバス」に    親欧米キエフとは正反対の親露住民   ウクライナ戦争に関する私見13    2022年7月8日現在 

現在の「ウクライナ」という国は、現代日本のような民族的あるいは文化的な均質性が高い国ではない。その多様性は日本人の想像を超えている。

いま私たちが「日本人」と呼ぶような、文化的あるいは民族的に均一な「ウクライナ人」が存在すると誤解すると、この国の歴史と文化、多様性は理解できない。ゆえにウクライナ戦争の原因も理解できない。

なぜそれほどの文化的多様性がウクライナにあるのか。それを日本人読者に説明

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ロシアが考える「勢力圏」はどこまでなのか 旧ソ連構成国は主権国家とみなさず   繰り返される軍事介入        独特の「主権国家」観は欧米とは異文化     ウクライナ戦争に関する私見12    2022年6月11日現在

ロシアが考える「勢力圏」はどこまでなのか 旧ソ連構成国は主権国家とみなさず   繰り返される軍事介入        独特の「主権国家」観は欧米とは異文化     ウクライナ戦争に関する私見12    2022年6月11日現在

「ロシアがウクライナに侵攻した。きっとすぐに隣国のフィンランドや日本に攻め込んでくるに違いない」。そんな恐怖が日本や国際世論に流れている。今回の論考は、その可能性を検討してみる。

2022年2月24日にロシアが隣国ウクライナに軍事侵攻したとき、国際社会の反応は「驚愕」を通り越して「パニック」に近いものだった。その反応のひとつが「ウクライナに攻め込むなら、わが国にもロシアは攻め込んでくるのではない

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ウクライナ戦争で世論はパニック   「非核三原則」「国連中心主義」「専守防衛」  すべて捨てよのショック・ドクトリン      ウクライナ戦争に関する私見11   2022年5月19日現在 

ウクライナ戦争で世論はパニック   「非核三原則」「国連中心主義」「専守防衛」  すべて捨てよのショック・ドクトリン      ウクライナ戦争に関する私見11   2022年5月19日現在 

(注)今回は「核シェアリング」はじめウクライナ戦争を契機に出てきた「日本の安全保障政策を転換せよ論」について検証してみた。本来はまったく別の原稿「ロシアが考える勢力圏とは何か」の「まえがき」として書き始めた。ところが、書いているうちにどんどん内容が膨らんだ。あまりに長いので、独立させることにした。本文に入る前にお断りしておく。
(冒頭の写真:NATOで核シェアリングされている米軍のB61-12核爆

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ガス輸出で「戦争経済」が回転     ロシアに経済制裁効かず       戦争は「月」「年」単位に長期化     ウクライナ戦争に関する私見9    2022年4月21日段階 

ガス輸出で「戦争経済」が回転     ロシアに経済制裁効かず       戦争は「月」「年」単位に長期化     ウクライナ戦争に関する私見9    2022年4月21日段階 

前回の投稿から約20日が過ぎた。本稿では、その間に起きた出来事と流れを概観してみようと思う。

2022年3月29日にイスタンブールで開かれたロシアとウクライナ代表による対面の第4回停戦協議で、両者が合意の道筋に乗ったかと私は思った。開戦後約1ヶ月を経て、ウクライナ戦争が終結する光明が差したかと思いきや、戦闘はかえって激化した。

ロシアは懸念された国債デフォルトに陥らなかった。ドイツ、イタリアな

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ウクライナがロシアの要求を受諾    両国は戦争終結のコースに入った    ロシア国債の返済期限は4月4日    欧米日vsロシアはチキンゲーム大詰め  ウクライナ戦争に関する私見7     2022年3月31日時点

ウクライナがロシアの要求を受諾    両国は戦争終結のコースに入った    ロシア国債の返済期限は4月4日    欧米日vsロシアはチキンゲーム大詰め  ウクライナ戦争に関する私見7     2022年3月31日時点

2022年3月27日、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアの独立系(ロシア政府の報道規制を受け入れない)メディアの記者4人とZOOMで会見して質疑応答した。交戦当事国の元首が相手国のメディア(しかも記者たちはラトビア、グルジアなどバラバラの遠隔地にいる)の取材に応じる、それを全世界に流すというのも、ネット情報環境時代の戦争として誠に興味深い。

(巻頭写真:1916年の帝政ロシア発行国債)

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ウクライナは欧米の軍事介入を諦め   ロシア経済の息切れを待つ      ロシアは世界経済を人質に瀬戸際戦略 ウクライナ戦争に関する私見6     2022年3月27日時点

ウクライナは欧米の軍事介入を諦め   ロシア経済の息切れを待つ      ロシアは世界経済を人質に瀬戸際戦略 ウクライナ戦争に関する私見6     2022年3月27日時点

巻頭写真:2017年、ロシア債権への投資を勧誘する楽天証券ウエブサイトより。

ゼレンスキーの国会演説(2022年3月23日)の文面を精査したついでに、その各国での演説の内容をインターネットで見て回った。各国議会にどういう言葉を話したのかが東京にいながら全部わかるのだから、これもネット時代の戦争の興味深いところである。

すると、あることに気がついた。イタリア、フランス(同22〜24日)など欧州各

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ウクライナ戦争の今後         キエフ包囲戦はあるのか?       2022年3月4日時点での私見メモ  Twitterへの投稿まとめ

ウクライナ戦争の今後         キエフ包囲戦はあるのか?       2022年3月4日時点での私見メモ  Twitterへの投稿まとめ

2022年2月24日、ロシア軍が国境を越えて隣国ウクライナへの侵攻を開始した。以下の本文は、それから1週間が過ぎた同年3月2日〜3日にかけて、個人的な備忘録として書いたものだ。一部をTwitterで公開した。

僭越ながら、私はコロンビア大学の国際公共政策大学で修士課程を終了していて、国際安全保障論の心得が多少ある。昨年12月に「世界標準の戦争と平和」(悠人書院)という初心者向けの国際安全保障の本

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