妊婦詐欺 (1分ショートショート)
息子の妊娠と同時に、旦那の死に面した私は、その後8年間、旦那の遺産で暮らしていたのだが、今年になって、いよいよ使い果たしてしまい、人生で初めて働くことになった。
「あんたがお腹に入ってた時は、みんな電車の席を譲ってくれたのに、今は全然よ」
慣れない仕事に疲れ果て、息子の部屋で、つい愚痴ってしまった。
「もう一回、妊婦さんになってみたら?」
・・・それは、ナイスアイデアだ。
息子と、ベージュの布に綿を詰め、クッションを作る。
マタニティを着て、お腹の中にクッションを入れる。妊婦マークをカバンにぶら下げ、ペタ靴を履く。
次の日から、ラッシュ時でも、席を譲ってもらえるようになった。
ある日、お腹に手をやりながら、サラリーマンの席の前に立った。
その時、お腹の中で何か動くものを感じた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
着席すると、今度は脚がかゆい。ひたすらかゆい。
「キャー、カマキリの子だ」
「孵化してるぞ」
何百、何千匹ものカマキリの子が、私の脚から這い出ている。
車内は騒然。急いで、次の駅で降りる。
「あんた、クッションの中に、カマキリの卵を入れた?」
息子にLINEを送る。
「うん。ボクからも聞きたいことがあったんだ。メスのカマキリって、オスを食べるらしいね。ボクのお父さん、本当は、なんで死んだの?」