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私だけの詩領域

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詩の価値なんて知らないよ これは私だけの空だ
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記事一覧

終末の恋人たち

終末の恋人たち

「明日さ」

「うん」

「デートしよう」

「いいよ どこで?」

「きみがいれば どこでも」

「そういうことじゃないでしょう」

「ごめん」

………

「もう夜になるね 夕ごはん どうしようか」

「わたし なにかつくるよ なにがいい?」

「きみがつくるものなら なんでも」

「それが いちばん困るんだって」

「ごめん」

………

「ねえ」

「うん」

「明日 どうしようか」

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SNSに疲れたくせに、つぶやきじみたものを書き残したい夜だ

自分のことを安心して話していいのだと、思える場所は多くない。相手を気持ちよくするのが会話のコツだと、就活のとき教わった。目を見る、相槌を打つ、続きを促す。よく笑い、よく食べ、決して怒らない。そうしていれば人は自分を嫌わない。自分はここにいてもいい。そうしないと生きていけない。

でもあるとき、ぐしゃんと崩れた。運ばれる前に崩れたホールケーキ。返信する前に充電が切れたスマートフォン。くるしい言葉ばか

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あなたを迎えにいく日まで

あなたを迎えにいく日まで

年末、というのはどうしてこんなにも、
人生を直視せざるを得ないんだろう。

あの頃のわたしが生きていた部屋で、
ひとり呆然と、時計を眺めている。

人間がつくりだした概念の手のひらで、
私たちは否応なく、
「来年」というものに向かわされている。

小説家になりたかった。
小説家になれなかったら、
私の人生に意味などないと思っていた。

書いて書いて書いて書いて、
40分に一本しかない電車を待って、

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夜道に咲く花

夜道に咲く花

夜道は危ない、と知ったのは大学生になってからだった。それ以前の私にとって、夜道は単に恐ろしく孤独なものであるだけで、危険なものではなかった。
街灯の少ない空にはぞっとするほど星が光っていて、隣に恋人でもいれば「綺麗だね」なんて言ってキスなんかできちゃうくらいの雰囲気で、でも私はたったひとりで、世界中の孤独を全部背負ったような顔をして、夜を徘徊していた。

実際、そんなに頻繁には徘徊していなかったは

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孤独を優しく象る|米津玄師2023TOUR『空想』備忘録

孤独を優しく象る|米津玄師2023TOUR『空想』備忘録

米津玄師さんは私にとって、「誰にも言えない絶望を見つけてくれる」人でした。

私は幼い頃からずっと、頭のなかに文章が流れていました。それは、過去と未来が入り混じったものであったり、現実と空想の合間のようなものであったり。かなしいとかうれしいとか、今存在する言葉で形容できないものばかりでした。

いつからか、救われたい、と強く願うようになりました。でも、自分を救えるのは自分しかいないと知ってしまった

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恋文の花吹雪

恋文の花吹雪

桜の花びらが美しいのは、神様が破り捨てた恋文の破片だかららしい。

数多の恋で星は汚れて、清掃業者は日々過労。

恋を失ったような顔で、恋に恋して恋い焦がれる、少女たちの向かう地獄。花が咲き乱れる地獄。

「愛してる」のエネルギーで自転は起こる、と唱えた研究者が死んだ。遺書の代わりに残されていたのは、未投函のままの恋文だった。相手は10年も前に、別の男と愛し合い、一人で死んでいた。

「尚、愛して

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東京未遂

東京へ逃げたい、と一度でも思ったことがある人とは、深い関係になれると信じている。

行きたい、ではない。
逃げたい。
正確に言語化するなら、「ここではないどこかで救われたい」。

家出しても、行き場所なんてどこにもなかった頃。ネカフェは徒歩圏内にはなくて、コンビニすら遠くて、泊めてくれる人もいなくて。街灯のない夜道を、涙を流すのも忘れて徘徊していた頃。私は東京に行きたかった。ほんとうに行きたかった

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きっとそれでも愛だった

愛だった
愛だ愛だだ愛だった
愛だ 愛だだ るんたったった

秋の真夜中に
ただ
なんの意味もなく
愛の定義すら
見つけられないまま
書き連ねた短歌を
そっと焚火で燃やす


きみは愛でしたか
今年も愛でしたか
愛は地球を
救いましたか

ぼくは愛でしたよ
きっと愛でしたよ
血も涙も傷もすべて
きっと きっと愛でした

私を忘れてくれたひと
このたびはどうも ありがとう
私を憶えててくれたひと

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【散文詩】金曜日のパン屋の隅

「悪いけど君の不幸を背負うことはできないよ」、そう言われたあの夏から、私の雨はずっと止みません。止みません、もう病みません。二度と泣いたり致しません。

私はあなたに何も背負わせるつもりなどなかった。一度だって「わかってほしい」なんて言ったことなかった。人はよくわからない、相変わらずよくわからない。昨日も明日も明後日も、何が何だかわからない。

止まない雨はないというポップスを、ぼろぼろのスニーカ

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【追憶】あなたという概念

【追憶】あなたという概念

私ね、かなしくって詩を書いてしまうような人間なんです、泣きながら深夜徘徊して、濡れた髪を乾かさずに眠っちゃう人間なんです、ごめんなさい。

素直にかなしいよって言える人間から先に幸せになっていく気がする。よければあなたの結婚式には呼んでください。お手紙など書かせていただけたら嬉しい。

なんて、斜に構えてみたところで、世界は目まぐるしく変わり続ける。年下の女優さんが増えて、戦争は今日も終わらない。

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【作詞】夜未満

【作詞】夜未満

1

PM5:23
ブルーライトに沈んだ目
私の心は汚れちゃって 
処女喪失した日を覚えてない

ほしいメッセージが届かなきゃ
機種変したって意味がない
最新型のスマートフォン
動悸と同じバイブ音

*

給湯室
窮屈そうなキス
見ちゃったの
あいつとあいつの蜜

「生まれつき文学と既婚なんで
愛とかいらないタイプなんで」

そうやって掲げた免罪符に
苦しんでんの自分でしょ

**

もうつらいや

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N回目の春の歌

N回目の春の歌

1

「桜が咲く度君想う」
「桜降る度君想う」

歌い尽くされた春の歌
どこかで聴いた恋の歌

桜散る前にチル前に
何かを生もうと空仰ぎ

空っぽの青に浮かぶのは
音符の逃げ出した五線譜

「唯一無二なんてもんは
実はどこにもありはしない」って
満員電車の片隅で
吊り革広告が嗤った

*

それでも君は歌ってよ
そのままそこで歌ってよ

君が桜を歌わなければ
春は枯れていくだけだろう

桜が美しい

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三日月型テロリズム未遂

東京駅で夜に浸る時間が好きだ。
誰かを待っていたことを忘れてしまうくらい、
ただひとり静かに佇む時間が。

ここにいるひとたちには
帰る場所と向かう場所と
大切なひとがちゃんと存在している気がする。

だから無駄に声をかけられることがない。
みんな満ち足りているから、
迷い子の私など気にも留めない。
だから安心してひとりでいられる。

欠けたままの月を抱えて
光る駅舎をぼんやり眺める私は

誰にも

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illumination.2021

illumination.2021

きらきらきらきらきらきら

ひとひとひとひとひとひと

幸せ幸せ、あなた今幸せ?

恋人恋人恋人恋人多分恋人

ぎらぎらぎらぎらぎらぎら

欲望欲望欲望欲望欲望欲望

食欲愛欲承認欲求孤独哀欲

きらきらきらきらきらきら

「聖なる夜は大切な人と」

きらきらきらきらきらきら

ひとひとひとひとひとひと

幸せって何幸せって何幸せ

愛藍哀Iあいあいあいあい愛

きらきらきらきらきらきら

ひとひ

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