夕空しづく/小説家・詩人

小説と詩を つくっています。/寄稿『ココア共和国』『100回継ぐこと』/著作『トワイエ…

夕空しづく/小説家・詩人

小説と詩を つくっています。/寄稿『ココア共和国』『100回継ぐこと』/著作『トワイエ』『藍空断片集』『降り積もる孤独はすべて花になる』… 連絡先:yuzorashizuku@gmail.com

マガジン

ストア

  • 商品の画像

    トワイエ

    無理しなくていいとか、どうせ世界は救えないとか、生きるのはくるしいことだとか、いろいろ、言われているけれど、 とはいえ、私たちは生きていかなければならない。 かつて救われなかったあなたにも、別の世界線を生きるあなたにも、等しく救われる瞬間があるように。祈りながら、ちいさな物語を書き留めました。寝る前、電車の中、誰かを待つ数分間。ふとしたとき、ただ隣に在れますように。 A5サイズ 全100ページ。第一版のみ、手書き修正部分があります。明るいところだと青が強めの紺、暗めのところだと、限りなく黒に近い紺に見えます。
    1,320円
    夕空の本棚
  • 商品の画像

    トワイエ

    無理しなくていいとか、どうせ世界は救えないとか、生きるのはくるしいことだとか、いろいろ、言われているけれど、 とはいえ、私たちは生きていかなければならない。 かつて救われなかったあなたにも、別の世界線を生きるあなたにも、等しく救われる瞬間があるように。祈りながら、ちいさな物語を書き留めました。寝る前、電車の中、誰かを待つ数分間。ふとしたとき、ただ隣に在れますように。 A5サイズ 全100ページ。第一版のみ、手書き修正部分があります。明るいところだと青が強めの紺、暗めのところだと、限りなく黒に近い紺に見えます。
    1,320円
    夕空の本棚

最近の記事

  • 固定された記事

「夜のコンビニへ、何をしに来たんですか」

***** PM9:05 26歳女性 購入品:500mlパックのイチゴ牛乳 ***** 「見たら分かるでしょう、飲み物を買いに来たのよ。今?彼氏と会ってきた帰り。青山の地下レストランで、シチリア料理を食べたの。二人で白ワインを一瓶開けたわ。結構いい銘柄だったんじゃないかしら。名前は忘れたけれど。 そのあと彼のマンションに行って、定められていたことのようにセックスをした。彼の背中は煙草とジンジャーエールの匂いがして、いつも噎せ返りそうになる。どっちも私は好きじゃないの。

    • 終末の恋人たち

      「明日さ」 「うん」 「デートしよう」 「いいよ どこで?」 「きみがいれば どこでも」 「そういうことじゃないでしょう」 「ごめん」 ……… 「もう夜になるね 夕ごはん どうしようか」 「わたし なにかつくるよ なにがいい?」 「きみがつくるものなら なんでも」 「それが いちばん困るんだって」 「ごめん」 ……… 「ねえ」 「うん」 「明日 どうしようか」 「……もういいよ 考えるのめんどくさいし プランがないなら家にいようよ」 「いや

      • こぼれ落ちていく4月

        葉桜の頃、東京へ行った。 ビルを背景に、散りかけの桜を見た。 人がたくさんいて、にぎやかくて、あざやかだった。 生まれたての本を背中に抱いて、私は歩いた。 人生の匂いが濃くて、すこしくらくらした。 先日、本をつくったことを発表した。 いろいろな方からことばをいただいた。 動悸がしばらくやまなかった。 ようやっとすこし、深呼吸できるようになった。 本をつくることは、生きる覚悟を決めることだった。 この世界で、死ぬまで生き抜く覚悟を。 そうして、私のなかで死んでいくはず

        • 生きるための遺書【書籍『トワイエ』を発売します】

          「とはいえ、私たちは生きていかなければならない」 止まらない不景気。匿名の悪意。伝わらない感情、無責任な格言。終わらない戦争と果てのない孤独。救いのない満員電車。前向きなことばばかり光を浴びて、弱音や孤独は沈殿して。幸せになりたいのに、幸せの定義すら曖昧で。 とはいえ、 私たちはこんな世界で、 死ぬまで生きていかなければならない。 だから、 本をつくりました。 *** むかし、遺書を書いたことがあります。 あの頃の私は、今でも到底言語化できない、おそらくこれからも

        • 固定された記事

        「夜のコンビニへ、何をしに来たんですか」

        マガジン

        • 私だけの詩領域
          25本
        • つれづれなるままに呟く
          31本
        • 漂流日記
          14本
        • 東京でOLをしながら小説を書いていた頃
          43本
        • 共犯
          0本
          ¥500
        • 【小説】神様の囀り
          11本

        記事

          SNSに疲れたくせに、つぶやきじみたものを書き残したい夜だ

          自分のことを安心して話していいのだと、思える場所は多くない。相手を気持ちよくするのが会話のコツだと、就活のとき教わった。目を見る、相槌を打つ、続きを促す。よく笑い、よく食べ、決して怒らない。そうしていれば人は自分を嫌わない。自分はここにいてもいい。そうしないと生きていけない。 でもあるとき、ぐしゃんと崩れた。運ばれる前に崩れたホールケーキ。返信する前に充電が切れたスマートフォン。くるしい言葉ばかり並ぶSNS。ぐしゃん。ぐしゃん。ぐしゃん。中学校が廃校になった。色褪せていく青

          SNSに疲れたくせに、つぶやきじみたものを書き残したい夜だ

          いつか、全部おわるとして。

          東京にいたころ、発狂する勢いで文章を書いていた。 一銭にもならない、かたちにもならない、誰からも求められていない、でも切実な文章だった。 私はたぶん、ずっと泣き叫んでいた。 満員電車のなかで、汚い駅の構内で、オフィス街の牛丼屋で、朝方のマクドナルドで。私はここにいると、こんなことを思っていると、世界に向かって叫んでいた。一銭にもならない、かたちにもならない、顧客ニーズも世の流れとか一切考えない、ただの痛々しい吐露。小説にも詩にもなれない、とはいえエッセイと呼ぶにはあまり

          いつか、全部おわるとして。

          あなたを迎えにいく日まで

          年末、というのはどうしてこんなにも、 人生を直視せざるを得ないんだろう。 あの頃のわたしが生きていた部屋で、 ひとり呆然と、時計を眺めている。 人間がつくりだした概念の手のひらで、 私たちは否応なく、 「来年」というものに向かわされている。 小説家になりたかった。 小説家になれなかったら、 私の人生に意味などないと思っていた。 書いて書いて書いて書いて、 40分に一本しかない電車を待って、 家出して絶望してへらへらして、 泣きながら書いて書いて書いて書いて、 ここま

          あなたを迎えにいく日まで

          推しを推すことは、人生を見つけ直すことだ

          土曜日、初めて三軒茶屋を訪れた。 駅構内に貼られた舞台の広告と、空を突き刺すキャロットタワー。制服を着た小学生がふたり、改札に向かって走っていた。ドライフラワーを直で持った女性が、横断歩道を悠々と闊歩していた。まぶしかった。 キャロットタワー地下1階は、地元と既視感があり混乱した。でもここは地元のどのビルよりも高く、3階には劇場がある。日常と非日常の距離が近い街。 三軒茶屋に来たのは、『推し』の出演する舞台を観るためだった。マギーさん脚本『OUT OF ORDER』のマ

          推しを推すことは、人生を見つけ直すことだ

          恋文

          春未満の今日、きみを攫いにいく #小牧幸助文学賞

          「来世に期待する」なんて、

          来世に期待する、ということばをよく耳にする。当たり前のように、「生まれ変わる」という概念が信じられている。現世よりも来世のほうが幸せに生きられると信じている。行き詰まったゲームをリセットすれば、次は必ずうまくいく、と考えるのと同じで。 私には前世の記憶がない。だから、前世というものが存在するのかどうかは確かめようがない。ただ、もしそれがあるのだとしたら、前世の私は、たくさんの後悔を残して死んだのだと思っている。現世に託されたように、私にはやりたいことがたくさんあって、何も諦

          「来世に期待する」なんて、

          日記6/17

          鼓動と合わせて痛む心臓を、抱きしめるように寝込んでいる。クーラーの調子が悪い。冷や汗が止まらない。お給料が入ったら病院に行ける。左手がぴりぴり痛む。 久しぶりにパニック発作を起こした。どうして、傷を負ったほうだけが、いつまでもいつまでも苦しまなければならないんだろう、くるしくてくるしくてどうしようもなくて、泣きながら床で気絶するように眠る。書きかけの小説の数行を削除し、鮮度が高い一文をいれる。 いのちをかけて小説を書いても、AIに取って代わられてしまうとしたら、この世界に

          幸せを目指しちゃだめですか

          病院。お医者さんにしか話せないことがたくさんある。あなたはヘヴィな人生を生きている。よくやっている。本当に。そう言われるたびに、心の堤防が不安定に揺らいで、涙があふれてくる。 言えない。みんな、自分の人生で忙しい。私の悩みや恐怖は、世の中の大多数が抱かない種類のもの。話しても、理解されないという現実に打ちのめされるだけ。私が幸せになるハードルはおそろしく高いんじゃないか。絶望する。階段を見て、ここからなら終わりにできるかな、と考える。自殺予防ダイヤルみたいな画面をぼんやり眺

          幸せを目指しちゃだめですか

          土曜日の午後、『ザ・ホエール』を観た

          『ザ・ホエール』を観た。思考がまとまらない。ベッドの上で見ていたのに、気づくと机に向かって台詞を書き綴っていた。まとまらない。まとまっている文章を期待している人は、ここから先は読まないほうがいい。作中にもあった、「エッセイなんかやめろ、正直に書け」というチャーリーのメッセージを受け取って、断片的に、思考を綴りたい。あとでまとめる、では意味がない。今書かなきゃ。評価されるとかしないとかじゃなく、感じたことを、純度高いまま、書き残さなきゃ。何のために?そうしなければいけない気がす

          土曜日の午後、『ザ・ホエール』を観た

          夜道に咲く花

          夜道は危ない、と知ったのは大学生になってからだった。それ以前の私にとって、夜道は単に恐ろしく孤独なものであるだけで、危険なものではなかった。 街灯の少ない空にはぞっとするほど星が光っていて、隣に恋人でもいれば「綺麗だね」なんて言ってキスなんかできちゃうくらいの雰囲気で、でも私はたったひとりで、世界中の孤独を全部背負ったような顔をして、夜を徘徊していた。 実際、そんなに頻繁には徘徊していなかったはずなのに、毎晩彷徨い歩いていたような気がする。あの頃私は、精神的にはずっと夜道に

          孤独を優しく象る|米津玄師2023TOUR『空想』備忘録

          米津玄師さんは私にとって、「誰にも言えない絶望を見つけてくれる」人でした。 私は幼い頃からずっと、頭のなかに文章が流れていました。それは、過去と未来が入り混じったものであったり、現実と空想の合間のようなものであったり。かなしいとかうれしいとか、今存在する言葉で形容できないものばかりでした。 いつからか、救われたい、と強く願うようになりました。でも、自分を救えるのは自分しかいないと知ってしまった。その孤独に、私は耐えられませんでした。 救われたくて救われたくて、必死で文章を

          孤独を優しく象る|米津玄師2023TOUR『空想』備忘録

          過去の発作と未来の救い

          発作はいつも、過去からやってくる。 心臓を握られるような痛みと、ひどく激しい動悸。息の吸い方がわからなくなり、体温が下がり、絶望感に襲われる。未送信のSOSを、何度消去しただろう。 暗くて閉鎖的な場所に、ひとりで行けなくなった。人と会うことがこわくなった。エッセイを書くのがこわくなった。人を信じるのがこわくなった。パニック状態というらしいと知っても、頭と心がちぐはぐで、壊れたように笑うことしかできなかった。大丈夫の盾で武装して、ぎりぎり立っていることしかできなかった。

          過去の発作と未来の救い