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漂流日記

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人生迷子の旅路の記憶
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復職前日、夜Q時

復職前日、夜Q時

「仕事と恋愛は似ている」理論に則るなら、復職は復縁と似ていることになる。

実際そうだと思う。

「この人と離れよう」と決めたけれど、時間が経ったり状況が変わったり思うことがあったりで、「もう一度一緒にいよう」と決めること。

一度別れた相手ともう一度一緒にいることを選ぶのに必要なのは、「別れた原因となったことを変える」覚悟だ。

「一度だめだと思った相手のことを、時間の経過と共にもう一度好きにな

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復職前日 破

復職前日 破

収まらない動悸と穏やかに持続する吐き気をなだめながら、コメダ珈琲に来た。

休職中、ひとといる予定のある日以外は大抵Dead or コメダのような生活を送っていた。今までは土日のどちらかしか姿を見せなかったくせに平日の昼間からやってくるようになった私を見て、店員さんは「職でも失ったか」と思っていたかもしれない。半分正解、半分不正解です。

日曜に来るのは久しぶりだった。甘いアイスコーヒーを飲みなが

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復職前日 序

復職前日 序

復職前日、朝。

朝5時、吐き気で目が覚める。
胃薬を水で流し込む。

不安要因1。

帰りたい場所と帰りたくない場所が
ぶれた円のように重なっていること。

不安要因2。

どんな顔して元の部署の方と
新しい部署の方に会えばいいかわからないこと。

不安要因3。

何かを選択して
何かを発信する時に
言われてつらかった言葉を思い出して
動悸が止まらなくなること。

不安要因4。

小説を形にした

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電車にさえ乗ってしまえば

電車にさえ乗ってしまえば

世に蔓延る不安を数えていたら、東京で電車になんか乗れない。

通り魔に刺されるかもしれない。硫酸をかけられるかもしれない。感染症に罹患するしれない。東京ではそんなことを考えていたら、一生電車に乗れないまま、不安症で死んでしまう。

昨日、久しぶりに電車に乗った。乗ってみたら、何てことはなかった。乗り換えもちゃんとできた。刃物も劇薬も目にすることはなかった。運がよかった。今日を生きるということは、そ

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憂鬱はだし巻き卵とともに

憂鬱はだし巻き卵とともに

心を落ち着かせたいときは、だし巻き卵をつくる。

学生の頃からの、私の小さな習慣。

卵焼き器を買ったのは、大学一年の夏。
一人暮らしで自由になって、何かひとつの料理を極めたかった。お店で食べただし巻き卵があまりに美味しくて、私も美味しいだし巻き卵をつくれるようになろうと思った。

卵を割る。入れるのは、醤油、砂糖、みりん、だしの素。分量はいつも感覚。不味くなったことはないから、私は自分の感覚を信

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小説家で在ること

小説家で在ること

「本を作りたいなら金を用意しろ」
「本を売りたいなら身体を売れ」

どちらも
物書きのはしくれとして生きてきて
浴びた言葉だ

何かを為すにはリスクを背負う覚悟が要ること
それはわかる
痛いほどわかる

何かを得るには何かを捨てる勇気が要ること
それもわかる
苦しいほどわかる

でも私は
自分の思いを
お金を払うこと
身体を売ることで

汚したくなかった
守りたかった

たとえ
覚悟がないだけだ

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ベーコンをバターで炒める日

ベーコンをバターで炒める日

今日は、「ベーコンをバターで炒める日」と決めていた。

体調が悪いと何も出来なくて、何も出来ないことに落ち込んでしまうから。せめてひとつ、したいことを決めようと思って。

昨晩は一人暮らしの部屋に帰ってきて、そのまま床で寝落ちしてしまった。煌々と電気が灯る部屋で起きた瞬間挫けそうになったけれど、いやまだ朝だ、これからだと思い直してシャワーを浴びた。

久しぶりに近所のスーパーへ行き、ベーコンと野菜

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実家の自室で言葉を綴る

実家の自室で言葉を綴る

雨と流行病のおかげで、実家に軟禁状態が続いている。
2日で少し痩せた。This is 実家ダイエット。

外に出たい。友達に会いたい。雨がやまない。

不意に、米津玄師は実家の自室で絵を描いていたという話を思い出し、私も実家の自室で小説を書いてみた。だからといって米津玄師にはなれない。夢ならばどれほどよかったでしょう。私は玄米よりパンが好き。

半ば物置と化した部屋で、蹲るようにして言葉を綴った。

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お盆、雨、傘屋の夢

お盆、雨、傘屋の夢

お盆はずっと雨みたいですね。
夏なのに変な感じです。

8月も漂流が続いています。
時々溺れたり岸辺で息をしたりしながら
大きな川を泳いでいます。

生活って何だろうって時々考えます。
日々が穏やかに流れていくことかなとか
ものごとをひとつずつ許すことかなとか。

誰かと生きるって何だろうって時々考えます。

髪の毛が同じ匂いになることかなとか
朝ごはんを一緒に食べることかなとか。

そういえば実

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高速バスと琥珀糖

高速バスと琥珀糖

休職になって2週間経った今日。
漂流の旅から、ひとりぐらしの部屋に帰ってきた。 

バスで3時間半。立ちっぱなしで電車に揺られること1時間弱。最寄り駅から徒歩15分。重いキャリーケースと気温32度。疲れた。

この街に、ただいまを言ってくれるひとはいない。

仕事帰りにいつも寄っていたスーパー。ぼやけた色の夕空。この街で私のことを知っているのは、私と、野良の三毛猫だけ。

この圧倒的な寂しさを、心

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会社説明会と東京オリンピック

会社説明会と東京オリンピック

社会不適合という刻印が
痛んで仕方ない水曜日

思慮深さとか
感性とか
資本主義社会では
邪魔らしい
忌み嫌われる
ものらしい

そんなことないと
誰かに言ってほしい
でもそんなことも
ひとつの真理なの
知ってるんです

邪魔でごめんね

そんなことないよと
姿見の前ひとりごちて
正気を保つ
ふりをする

ひどい顔ね
あなただれ?

溺れていく
見えなくなる
水面の方向

病名、傷心恐怖症
重度、

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灼熱のベンチでバスを待つ

灼熱のベンチでバスを待つ

早く帰らなきゃ、と思う夢ばかり見る。
どこにいても誰といても、早く帰らなきゃ、と言って泣いている夢。

でも路上に放り出されたところで、どこに帰ればいいかわからない。
途方に暮れて夜を彷徨う、夢。

帰らなきゃと思う場所は、帰りたい場所ではない。

会社に戻れる気がしない。
でも戻れなかったら生きていけない。
現状。

私を経済的に守ってくれているのは会社なんだと気づいて絶望する。月に一度振り込ま

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仕事に行く友達を見送る

仕事に行く友達を見送る

7月18日。日曜。夏。

机の上のグラス。頭の奥の靄。隣で眠る友達。窓。空。蝉の声。

昨晩の記憶。人生の断片。ガトーショコラと赤ワイン。どんなに酔っても覚えているのは、それが忘れたくない時間だから。

並んで食べるパスタ。遠い夏のフラッシュバック。真っ白な模造紙と原稿用紙。読書感想文が好きだった。

私の友達は皆優しい。恩返しがしたい。まだまだ人生が足りない。

大きなキャリーケース。ワンピース

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漂流はじめました

漂流はじめました

7月17日。土曜日。夏。
友達の家。出勤した友達を見送って午前。午前だけど午後ティーを飲む。頭が重くて少しうたた寝。友達の家。
PCを開いて文章を書く。一銭にもならない文字。でも書く。書きたい。綴る。紡ぐ。繋がってく。
働きたいひとと一緒に働きたい。ここで働かせてください。千と千尋。夏のジブリが好き。

昼過ぎ、好きな街に行く。古き良き映画館。初めて会うひとと待ちあわせ。夏の日差し。まだサマーウォ

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