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憂鬱はだし巻き卵とともに

心を落ち着かせたいときは、だし巻き卵をつくる。

学生の頃からの、私の小さな習慣。

卵焼き器を買ったのは、大学一年の夏。
一人暮らしで自由になって、何かひとつの料理を極めたかった。お店で食べただし巻き卵があまりに美味しくて、私も美味しいだし巻き卵をつくれるようになろうと思った。

卵を割る。入れるのは、醤油、砂糖、みりん、だしの素。分量はいつも感覚。不味くなったことはないから、私は自分の感覚を信用している。

心に沈殿した憂鬱と一緒に、卵をとく。
これからのこと。家族のこと。生きる場所のこと。深刻に考え始めると本当にどうにもならないことばかり。一旦思考を止めたい。

自分が好きな人たちのそばで生きたいな。

否定される場所にい続けたら、心なんて簡単に壊れる。

「逃げなさい。あなたを苦しめる場所からは逃げていい。幸せな場所は、あなたがつくればいいの」

高校生の頃、先生がくれた言葉の意味を、もう少しで受け入れられそうな気がする。

私も苦しかったからあなたも苦しめではなく、苦しかった時にしてほしかったことを施せる人間になりたいと強く思う。負の連鎖は、誰かが歯を食いしばって止めなきゃだめなんだ。

優しいひとになりたい。
そのためには、自分にも優しくできるようになりたい。

たまご、いい感じ。

卵焼き器に流し込む。2,3回にわけてゆっくりと焼き、巻いていく。

今までで一番美味しかっただし巻き卵は、青森の市場で、朝一番に食べたやつ。びっくりするほど、とろとろじゅわじゅわだった。あれはどうやってつくるんだろう。また食べに行きたいなぁ。

うまく巻けた。

お皿に盛り付けて、お盆にのせて、手を合わせていただきますを言う。

調子が悪いと食事をうまく摂れなくなるからこそ、ちゃんと食事のかたちをつくることが、今の私には大事なことな気がする。

今日のは良くできた。
程よく甘じょっぱくて、丁度よくとろとろだった。

ほんとは誰かと一緒に食べたいな。
おんなじ味は二度とつくれないけど。

いいか、それでも。人生みたいで。

語尾に「人生みたいで」をつけると、何でもそれっぽくなる。

とろとろじゅわじゅわで生きたい。

考えてもどうにもならないことは考えすぎない。
考える自分のことは、たぶんそんなに嫌いじゃない。でも考えすぎてショートする前に、ちゃんとシャットダウンしたい。そこらへんうまくなりたい。

おつかれさま水曜日。
また明日ね木曜日。

眠れない夜のための詩を、そっとつくります。