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復職前日 破

収まらない動悸と穏やかに持続する吐き気をなだめながら、コメダ珈琲に来た。

休職中、ひとといる予定のある日以外は大抵Dead or コメダのような生活を送っていた。今までは土日のどちらかしか姿を見せなかったくせに平日の昼間からやってくるようになった私を見て、店員さんは「職でも失ったか」と思っていたかもしれない。半分正解、半分不正解です。

日曜に来るのは久しぶりだった。甘いアイスコーヒーを飲みながら、同じ部署だった方々に送る復職のメッセージを考えた。

心がすごくすごく痛んだ。申し訳なさとふがいなさと悔しさとがごちゃごちゃになった名もない感情を、豆菓子と一緒に噛み砕いた。

「会社に戻れて嬉しい」も「前と同じ状況で働けなくて悔しい」も「このままでいいのだろうか」も、素直な感情だった。

新卒で右も左も上も下も、銀座方面と日比谷方面もわからないような私の面倒を見てくれた人たちだ。皆いい人で、優しかった。だからこそうまく応えられなくなったことが、悔しかった。

同期には数日前に「音信不通になっててごめんね」とメッセージを送った。黙って休職して黙って音信不通になっていたのに、何も変わらない温度感で返事をしてくれることが嬉しかった。明日顔を合わせた時、私はちゃんと笑えるだろうか。「しれっと復帰する」が目標だけど、明日オフィスにいる自分を想像すると動悸が激しくなる。また遊ぼうと言ってくれる優しさを、今日は素直に受け入れようと思った。ありがとう。

見慣れたコメダの店員さんが忙しそうにしているのを眺めながら、デザートにシロノワールを食べようか否か葛藤する。休職期間中はカフェでデザートを食べるの禁止と決めたのに、精神が不安定になるほどデザートを頼んでしまう傾向があった。お金がない時ほどお金を使うという説は本当らしい。さっき通帳を記帳したけど、来月の存在を思考から放棄して閉じた。

このコメダで、一体いくつの文章を書いただろう。家にいると落ち着かない私にとって、コメダは大切な逃げ場だった。小説も、エッセイも、友達への手紙も、依頼された文章も、全部ここで書いた。かなしみもくるしみもよろこびも希望も、沢山ここで綴った。

休職中、私をいさせてくれてありがとう。
エッグバーガーが私は好きです。

少し前まではあんなに暑かったのに、もう長袖でも全然暑くなくて。
少し前までやっていたカレーフェアみたいなやつは、もう終了していて。

時が流れて季節が巡って、それでも私は、ここで生きているみたいです。

眠れない夜のための詩を、そっとつくります。