終末の恋人たち
「明日さ」
「うん」
「デートしよう」
「いいよ どこで?」
「きみがいれば どこでも」
「そういうことじゃないでしょう」
「ごめん」
………
「もう夜になるね 夕ごはん どうしようか」
「わたし なにかつくるよ なにがいい?」
「きみがつくるものなら なんでも」
「それが いちばん困るんだって」
「ごめん」
………
「ねえ」
「うん」
「明日 どうしようか」
「……もういいよ 考えるのめんどくさいし プランがないなら家にいようよ」
「いや ごめん 考える」
「いいって」
………
「たぶんさ」
「なに」
「明日は 世界中の恋人たちが デートするんだろうね」
「そうかもね」
「みんな なにをするんだろうね」
「さあ」
………
「……結局 遊園地だの水族館だの映画だのドライブだの ありきたりなデートをかけがえないって言葉で形容して 身体を重ねて終わりだよ 人間なんてそんなもんだよ わたしたちだっておなじでしょう」
………
「ほんとうになにもしなくていい 僕はなにもいらないんだよ」
「…」
「きみがいてくれればいい 最期に見るのはきみがいい ひとつになれなくたっていい」
「…」
「きみを見つけられてよかったと思う 雑踏のなかで目が合ったのがきみでよかった なにもできない僕でごめん 世界から守れなくてごめん なにひとつ決められなくて 怒らせてばかりでごめん」
「…」
「でも ちがう だから 明日はずっとそばにいてほしい 一緒に さいごまで」
「……きみは ほんとうにずるい人だね」
「そうかな」
「そうだよ」
………
「もしも 明日の先にも世界があるなら」
「うん」
「今度は 僕がデートプランを考えるから」
「ほんとかな」
「ほんとうに あと ご両親にも挨拶行くから」
「やっと?」
「うん」
「遅かったなあ ちょっとだけ」
「ごめん」
「ううん こわかったのは私も一緒 なにかを変えるのがこわかった きみとの日々が 永続的に続けばそれでよかったの ほんとは私もね 何も決められないの だからね おあいこだよ」
「おそろいだ」
「そうだね」
………
「最期だね」
「最期だよ」
「こわくない?」
「不思議と」
「空が落ちてくるね」
「海が崩れていくね」
「きれいだね」
「きみのほうが」
「世界の終わりよりきれいなんて 言われたの世界でわたしだけだよ」
「あいしてる」
「うん」
「愛している」
「わたしも」
「ありがとう」
「絶対に また」
「うん」
「わたしを 見つけてね」
「う」
こうして、一億年前の今日、世界は滅んでいきました。空と海にのみ込まれた恋人たちは、星、あるいは化石となって、今も、永遠の青色のなかを泳いでいるのだそうです。
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眠れない夜のための詩を、そっとつくります。