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【追憶】あなたという概念

私ね、かなしくって詩を書いてしまうような人間なんです、泣きながら深夜徘徊して、濡れた髪を乾かさずに眠っちゃう人間なんです、ごめんなさい。

素直にかなしいよって言える人間から先に幸せになっていく気がする。よければあなたの結婚式には呼んでください。お手紙など書かせていただけたら嬉しい。

なんて、斜に構えてみたところで、世界は目まぐるしく変わり続ける。年下の女優さんが増えて、戦争は今日も終わらない。同級生が会社をつくっただのやめただの、あの人は海外にいるだのあの人は子供を産んだだの、色んな噂が飛び交って、いつまで経ってもFacebookにログインできずにいます。

救われなさを抱えながら揺られる電車は不規則性のゆりかごのようで、このままどこかに行けたらなって、同伴者がいてくれたらなって、夢見心地に考えて、結局大人しく終点で降りちゃって。どこにも行けない私をゆるして。

そういえば、学生の頃、よく行っていたコンビニが潰れていた。飲みに行った後、何度もここで水を買った。ここで買う水が結局一番美味しかったよね、なんて回想しても、あの頃の私たちはもういなくて、でも本当はまだどこかで飲んでいるような気がする。愛とか幸せとか哲学とか、答えのない問いを永遠に話し続けていた、最高に美しい日々の断片が、今もどこかで光を失わずに在る気がする。

細胞が入れ替わり続ける身体のどこかに、まだあの日取り入れた水が残っているとしたら、それはきっと救いという名前をしている。

止まんない動悸とさみしい預金通帳、不安と絶望とすこしの夢、全部抱えて海にでも行こうかなとか思った。海の場所がわからないから、小さな一眼レフを持って深夜の街を徘徊してばかりだ。同じようにこの世界で彷徨っている誰かとすれ違えたら、ただどうでもいい話がしたい。あなたの知り得ない私の人生を聞いてほしい、私の知り得ないあなたの人生を聞かせてほしい。

小説にもならない日々の断片を集めたら綺麗なんじゃないだろうか、と呟いたら、でも何にもならないじゃん、と殴られた。でもそれはそれでいいんじゃないの、何にもならなくたって綺麗なものは綺麗でいいじゃん。誰かに隣で一緒に綺麗だねって言ってもらえたら安心するんだろうか、と考えて、乙女かよ私は、と笑う。Wikipediaに書き足しておいてくれ。私は乙女、あなたが好きだ。その日までどうか、あなたはあなたとしてそこで生きていてほしい。

瞬きでシャッターを切る刹那、その夜すら既に過去の一部。

月が綺麗とかほざくな。好きなら今すぐ会いに行け。とかほざいている私が一番狂ってたりして。嘘、あなただって狂ってんじゃん。お揃いだね、ずっといい感じに狂っていたいね。

詩を書くことしかできなくってごめんね、大丈夫だよ、大好きだよ、私はここにいる、あなたもそこにいる、だから全部大丈夫。

2022.05.19

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