白鳥裕貴

大学の教員です。ある意味、保健室の先生。 著書:精神科医の戦略&戦術ノート -…

白鳥裕貴

大学の教員です。ある意味、保健室の先生。 著書:精神科医の戦略&戦術ノート -精神科救急病棟で学んだこと。 精神科専門医。精神保健指定医。博士(医学)。公認心理師も取得しています。茨城県出身。 twitter→ https://twitter.com/YukiShiratori1

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固定された記事

ライターになる夢を諦めた、高校生の私が、精神科医を目指した理由

若いころの夢というのは誰にでもあるけれど、叶えるためには少しの運をつかむことが必要になる。 高校生の頃、ライターになりたかった。本当は小説家になりたかったけれど…

白鳥裕貴
3年前
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桃花の瞳に映るのは ガールバンドクライ#1-#3

桃花は駅前の壁面広告を見上げていた。広告には、ガーリーなユニフォーム的なステージ衣装を着たかつてのバンド仲間<ダイヤモンドダスト>。しかし、桃花の表情は何も映し…

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13日前
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アインシュタインの名言を調べていたら、ブッダを通じてガンジー:ミームの元ネタ

インターネット上にはたくさんのミームがある。 ミームとは、受け継がれて伝播していく情報のことで、遺伝子(gene)のひとまとまりとしてゲノム(genom)ように、情報伝達の…

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白鳥裕貴
1か月前
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問診の正義と溝

短時間で診察し多数の患者を診る方針の先生と、”丁寧”に”精神療法的”に時間をかける方針の先生との間の、正義の溝は深い 長く時間をかけると、結局少数の患者しか診察…

白鳥裕貴
3か月前
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高齢者の医療に関するナラティブ

医療行為の要否とナラティブ 以下のツィートに対する私の反応です。 医療行為の要否には、医学的な要否とは別の観点がある、という指摘をもう一つすすめると、その観点は…

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白鳥裕貴
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美容外科の報酬は消化器外科より高く、トマトの値段は米より高く

美容外科の合併症に誰が対応すべきか美容外科の自由診療で手術を受けた後の合併症が起こることがある。例えば死亡除去術後の脂肪塞栓で、これは、手術の時にはがれた脂肪の…

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エクソソーム治療に思うこと

自由診療で、エクソソームを注射する治療を行っている医師に対する批判がある。エクソームは細胞が、細胞の膜として使われている膜を袋状にして、細胞内に含まれる様々な物…

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1年前
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ディープ・ラーニングと精神疾患

ディープ・ラーニングはあくまでニューロンをモデルにした、コンピューターシステムであり、生物の脳と直接な関係があるとはいえない。あるいは、たとえばバックプロパゲー…

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Goldwater ruleと精神科医の立場

著名人を診察することなしに診断してはいけない、というGoldwater rule、病跡学ではどう考えているのだろう。と、思っていたら、病跡学会のレポート記事にコメントが。 精…

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1年前

ヒトを人たらしむるものはなにか? 私たちはどのように人と出会うのか?

私たちは、人が人であることを忘れやすい。 それはなぜか。人を「モノ」として扱うから。 どのようなとき、人は「モノ」になるのか。人をカテゴリーで分類するとき。 何…

白鳥裕貴
1年前
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プチ炎上の覚書 CBTの限界について

少しまえ、プチ炎上に巻き込まれました(笑)。実際は炎上というほど激しいものではなく穏やかなものでしたが、なかなか気を使いました。内容は認知行動療法;CBTについて…

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1年前

医療人類学から考える反ワクチンの言説

最近復刊された、アーサー・C・クラインマンの臨床人類学を読んだ。 クラインマンによれば、ヘルス・ケア・システムの対象となる”病気”には、疾病と病いがある。疾病は…

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すっかり見なくなった境界性パーソナリティー

境界性パーソナリティ障害という病名があって、ネット界隈では、「メンヘラ」などと呼称されてきた。 繰り返す自傷行為や、不安定な対人関係、性的な問題を含む衝動的な行…

白鳥裕貴
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オープン・ダイアローグはどこに効いているのか?

”オープン・ダイアローグ”という語の表すものオープン・ダイアローグ(OD)という語が広まっているが、その意味するものが複数の次元にまたがることはあまり理解されてい…

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白鳥裕貴
2年前
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ルックバック、Eテレ特集、アリエネ

二つ出来事を通じて、気が重くなっています。 ひとつは、藤本タツキの漫画、ルックバックの修正です。 https://twitter.com/shonenjump_plus/status/1422029631507427331

白鳥裕貴
2年前
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デマ=悪意ではない。医療デマを先導する人、ついていく人。

医療”デマ”を信じている人たちに対して、反応する医療者の中に、過剰な反応をしている人がいるようで心配している。 契約と医療医療デマを信じている人たちはどのような…

白鳥裕貴
2年前
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ライターになる夢を諦めた、高校生の私が、精神科医を目指した理由

ライターになる夢を諦めた、高校生の私が、精神科医を目指した理由

若いころの夢というのは誰にでもあるけれど、叶えるためには少しの運をつかむことが必要になる。

高校生の頃、ライターになりたかった。本当は小説家になりたかったけれど、ちょっと大ぶろしきを広げている感じがあって、とりあえず何か書き物をして、食べていけるのがかっこいいと思っていた。今思えばそれほど読書家というほどではないのだけれど、自分がどうも周囲の友人より本を読んでいることに気が付いて、特に勉強してい

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桃花の瞳に映るのは ガールバンドクライ#1-#3

桃花の瞳に映るのは ガールバンドクライ#1-#3

桃花は駅前の壁面広告を見上げていた。広告には、ガーリーなユニフォーム的なステージ衣装を着たかつてのバンド仲間<ダイヤモンドダスト>。しかし、桃花の表情は何も映していない。怒りも悲しみも、ぶつけるはずの感情を見出すことができなかった。

アニメ的な表現では、無表情は怒りに分類される。この意味で桃花は無表情ではない。うっすらとほほ笑んでいるようにも見える。しかしそれは、本来あっていいはずの、怒りでも憎

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アインシュタインの名言を調べていたら、ブッダを通じてガンジー:ミームの元ネタ

アインシュタインの名言を調べていたら、ブッダを通じてガンジー:ミームの元ネタ

インターネット上にはたくさんのミームがある。
ミームとは、受け継がれて伝播していく情報のことで、遺伝子(gene)のひとまとまりとしてゲノム(genom)ように、情報伝達のおけるひとまとまりをさす、らしい。
先日も高2の息子が、朝寝坊して起きてくるなり、まだ慌てるような時間じゃない、などと言っていた。スラムダンク直撃世代としては、いつの間に履修したのかと、いささか興奮したが、彼は元ネタを知らなかっ

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問診の正義と溝

問診の正義と溝

短時間で診察し多数の患者を診る方針の先生と、”丁寧”に”精神療法的”に時間をかける方針の先生との間の、正義の溝は深い
長く時間をかけると、結局少数の患者しか診察できず、初診の待機が長くなる。これは、受診している患者にとっては利益があるが、不可視化されている待機患者の利益を無視ししているという批判。
一方で、短時間で診察が終えられるのは難しい患者が治らずに診察から離れるからで、簡単な患者しか診ずに金

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高齢者の医療に関するナラティブ

高齢者の医療に関するナラティブ

医療行為の要否とナラティブ

以下のツィートに対する私の反応です。

医療行為の要否には、医学的な要否とは別の観点がある、という指摘をもう一つすすめると、その観点はいかなるものでどこから来るのか?という問いがある。この問いに、アーサー・クラインマンは1970年代にの彼の主著「臨床人類学」で説明モデルという論考を示している。彼は主に、病気を疾病と病いに分割し、その治療が受け入れらるかどうかは、「病い

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美容外科の報酬は消化器外科より高く、トマトの値段は米より高く

美容外科の報酬は消化器外科より高く、トマトの値段は米より高く

美容外科の合併症に誰が対応すべきか美容外科の自由診療で手術を受けた後の合併症が起こることがある。例えば死亡除去術後の脂肪塞栓で、これは、手術の時にはがれた脂肪の小さな塊が、血流にのってほかの臓器の血管を詰まらせるもの。肺の血管を詰まらせれば、換気はできても呼吸ができなくなる。つまり、口から空気は出入りできるけれども、酸素は体内に取り込まれず、二酸化炭素は排出されないため、命にかかわったりする。

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エクソソーム治療に思うこと

エクソソーム治療に思うこと

自由診療で、エクソソームを注射する治療を行っている医師に対する批判がある。エクソームは細胞が、細胞の膜として使われている膜を袋状にして、細胞内に含まれる様々な物質(タンパクや脂質、核酸)などを細胞の外に放出する構造体だ。エクソームには様々な機能があることがわかってきていて、将来的には治療に使われる可能性もある。”将来的に”である。

まだ、安全性も効果の検証も行われていない、この物質を、高額の費用

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ディープ・ラーニングと精神疾患

ディープ・ラーニングと精神疾患

ディープ・ラーニングはあくまでニューロンをモデルにした、コンピューターシステムであり、生物の脳と直接な関係があるとはいえない。あるいは、たとえばバックプロパゲーションは、生物的なシステムでの裏付けはなく、あくまで判別精度を高めるための技術に過ぎない。しかし、ディープ・ラーニングによる判別システムが、精度をかなり向上させてきたことは事実である。仮説としてディープ・ラーニングの構造の各要素が人の脳にも

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Goldwater ruleと精神科医の立場

Goldwater ruleと精神科医の立場

著名人を診察することなしに診断してはいけない、というGoldwater rule、病跡学ではどう考えているのだろう。と、思っていたら、病跡学会のレポート記事にコメントが。

精神病跡学というのは、乱暴に言うと、文学や絵画などの芸術作品の作者について、作品を解釈することで、作者自身の病理性をあきらかにする学問。本人を直接診察するわけではないのに、時に作者に精神疾患があったのではないかと推測してしまう

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ヒトを人たらしむるものはなにか? 私たちはどのように人と出会うのか?

ヒトを人たらしむるものはなにか? 私たちはどのように人と出会うのか?

私たちは、人が人であることを忘れやすい。

それはなぜか。人を「モノ」として扱うから。

どのようなとき、人は「モノ」になるのか。人をカテゴリーで分類するとき。 何らかのより大きな枠組みに、誰かを入れるとき、その人の個別性が失われていく。分類するラベルを張れば張るほど、個別性が失われていく。多くのラベルが張られた「モノ」には、良く説明されて詳しくわかるような気がしてしまうが、それは、人から離れてい

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プチ炎上の覚書 CBTの限界について

プチ炎上の覚書 CBTの限界について

少しまえ、プチ炎上に巻き込まれました(笑)。実際は炎上というほど激しいものではなく穏やかなものでしたが、なかなか気を使いました。内容は認知行動療法;CBTについてです。

このツィートに触発されて、私も下のようにつぶやきました。
このnoteでは私のツィートとその一連の反応から思ったことについて、書き留めておこうと思います。

ツィートの背景と伝えたかった事私が心配しているのは、過大な期待です。そ

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医療人類学から考える反ワクチンの言説

医療人類学から考える反ワクチンの言説

最近復刊された、アーサー・C・クラインマンの臨床人類学を読んだ。

クラインマンによれば、ヘルス・ケア・システムの対象となる”病気”には、疾病と病いがある。疾病はある程度客観的背景をもって認知される機能不全であり、病いは主権的な体験のされ方である。

この考えに立つといくつかの診断について、病いではあるが疾病ではないという状況が生まれてくることがある。

そしてこのような、”病気”に対して、治療も

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すっかり見なくなった境界性パーソナリティー

すっかり見なくなった境界性パーソナリティー

境界性パーソナリティ障害という病名があって、ネット界隈では、「メンヘラ」などと呼称されてきた。

繰り返す自傷行為や、不安定な対人関係、性的な問題を含む衝動的な行動などがあって、ときどき自分の命を人質にとって、要求を通そうとする、周囲の人をコントロールしようとする(ようにみえる)言動が、支援者を疲弊させたりする。パーソナリティー障害は、生物学的な問題でなく、人格的な問題とされ、その行動が患者自身の

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オープン・ダイアローグはどこに効いているのか?

オープン・ダイアローグはどこに効いているのか?

”オープン・ダイアローグ”という語の表すものオープン・ダイアローグ(OD)という語が広まっているが、その意味するものが複数の次元にまたがることはあまり理解されていない。

日本でいうODには、技法、体制、思想の三つの次元がある。

技法とは、システム論的家族療法に基盤を置いた、集団精神療法としての技術である。

体制とは、複数の治療者チームによる自宅等へ訪問による介入と、要請に対して即時(24時間

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ルックバック、Eテレ特集、アリエネ

ルックバック、Eテレ特集、アリエネ

二つ出来事を通じて、気が重くなっています。

ひとつは、藤本タツキの漫画、ルックバックの修正です。

https://twitter.com/shonenjump_plus/status/1422029631507427331

もうひとつは、ETV特集「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」での精神科病院協会山崎会長の発言です。

https://twitter.com/emDA/status/

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デマ=悪意ではない。医療デマを先導する人、ついていく人。

デマ=悪意ではない。医療デマを先導する人、ついていく人。

医療”デマ”を信じている人たちに対して、反応する医療者の中に、過剰な反応をしている人がいるようで心配している。

契約と医療医療デマを信じている人たちはどのような人たちなのだろうか。私は、もともと医療に対して不信のある人が、デマを信じてしまうと考えている。

医療はしばしば不信を生む。不信を持つのは、治療がうまくいかなかった人や不本意な治療が行われた人だ。

治療がうまくいかなかった場合に不信を持

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