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弱さと向き合う ガールズバンドクライ#8

ついに残すところは最終回13話のみになった。#8-#12各話ごとの感想を連続してあげる。6月28日の13話オンエアには間に合わせるつもり。
タイトルは手島nari先生のツイッター(@_17meisai23)から

桃香の瞳に映るのは ガルクラ#1-#3

歩むべき道を示すもの ガルクラ#4-#7

8話

7話で失いつつあった、桃香を取り戻す回である。冒頭は、桃香の回想からはじまる。CGではなく、手書きアニメーションであったことも新鮮だ。桃香は20歳だから、高校生ころとすれば現在からすると、およそ3年ほど前ではあるが、このころは制作側もCGでアニメを作っていない。つまり、劇中の3年前が現実の3年前と同期しているとすれば、3年前の回想は手書きで描かれるのである。巧妙に、かつメタ的に、現実とアニメをシンクロさせている。俳優が、アニメ放送前にデビューしてバンド活動をするなど、アニメをリアルに重ねやすい構造は、ガルクラのモチーフでもある。

回想では校庭に、「めざせぶどうかん」と白線が引かれる。当時の初期ダイダスも、トゲトゲと同じ目標を掲げていたことになる。武道館をめざすというのは、桃香の中では特別な意味があるのだろう。6話では、メンバーで武道館を訪れた。ここで仁菜も、武道館を目標とするようになった。12話で桃香が一人、武道館前を訪れている。なぜ武道館なのか、まだ劇中では示されていない桃香の音楽的原点に関連するのだろう。

桃香が仁菜に自分の過去を重ね合わせている。本気だったら、退路を断って挑むべきなど、仁菜のセリフは、桃香がかつて初期ダイダスのメンバーに語っていた言葉であった。それは桃花自身の口からも語られている。
「あのときの仁菜は、私が好きだった私なんだ、あの頃の私なんだよ」
と桃香の直接的に語られている。これが、桃香がトゲトゲから脱退を表明する理由でもある。過去の自分を重ね合わせ、自分のような傷つき方をしてほしくない、という。
これは桃香のエゴである。あたかも、仁菜のためを思っているように見えて、実際に守りたいのは自分自身なのでである。傷つくらいなら見たくない、それが脱退の理由でもある。仁菜を保護するように見えて、自分の思い出を守りたい、再び傷つきたくない。この思いそのものは全く否定されるものではない。だれでも、自分自身を守る権利がある。桃香の迷いはそこにある。自分の記憶の再現としてバンドを続けたいという思いと、再び失いたくないという恐怖。

しかし、守りに入ることは、ロックではない。仁菜も桃香の所有物ではない。桃香は仁菜の保護者ではない。
桃香の頬を張る仁菜。談合坂での喧嘩では、殴りかかる桃花に対し、殴ればあいつらと同じ、軽蔑してやるとまで言ったのに対して、自分は暴力を手段とする。「私はあなたの思い出じゃない」という、仁菜の叫びは、仁菜の自立への叫びでもある。
「なに怖がってんですか」ともいう。これは、仁菜の自立であると同時に、桃香の自立へのエールでもあるのだ。

ダイダスのメンバーと遭遇し、桃香は軽トラで逃げ出す。軽トラの前に飛び出し、桃香を止める仁菜。命がけの狂気である。仁菜は狂犬である。狂気が桃香の心を揺らす。
ダイダスのメンバーに対して、涙をためてののしる桃香。
「アイドルバンドなんだろ、もっと可愛くやってみせろよ!」
第3話で、感情を見せずにダイダスの広告を見上げていた桃香とは対照的に激しく感情をぶつける。ダイダスメンバーに対する負い目もあって、”大人”の対応を強いていた、殻をやぶって、感情をさらけ出す。桃香は、見失っていた”ロック”、鬱屈したエネルギーを持ち、感情を素直にさらけ出すことに、立ち返った。
宣戦布告として小指を立て、桃香と仁菜は軽トラで立ち去る。カーラジオの音量を上げて号泣する桃香。ダイダスと過去の自分に対する思いに、素直ではないものの、率直に立ち返り、仁菜の前であらわにする。保護者然とした桃香は去り、仁菜との関係はより対等なものになったといえるかもしれない。

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