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美容外科の報酬は消化器外科より高く、トマトの値段は米より高く

美容外科の合併症に誰が対応すべきか

美容外科の自由診療で手術を受けた後の合併症が起こることがある。例えば死亡除去術後の脂肪塞栓で、これは、手術の時にはがれた脂肪の小さな塊が、血流にのってほかの臓器の血管を詰まらせるもの。肺の血管を詰まらせれば、換気はできても呼吸ができなくなる。つまり、口から空気は出入りできるけれども、酸素は体内に取り込まれず、二酸化炭素は排出されないため、命にかかわったりする。

さてこのような美容外科手術の合併症が起こったときに誰が治療するのか、というのが話題になった。

合併症が起きても、その原因になった手術をし容外科は対応せず、保険診療の医療機関で治療を受けることになる。これに対して保険診療側の医師が、怒りを表明している、というのだ。

自由診療の美容外科に対して、保険診療の主に病院勤務医が怒るのは、簡単に言えば嫉妬だ。自由診療の値段は一般の保健診療の医療と比べて高額で、その分、自由診療の美容外科医の得る報酬も莫大になることがある。一方で、合併症があった際に夜間に受ける救急病院の医師の給料は相対的に安価になっている。つまり、高額な報酬もらう美容外科医が枕を高くして寝ている間に、薄給の勤務医が救急対応しているという構図である。

美容外科医側からすれば、報酬が高いのは市場原理が働いているからであり、報酬に見合った価値を生み出していると考え、また公的な資金が投入される保険診療はいわば半分公務員のようなもので身分が安定しており、リスクを取って美容外科をしているのだから報酬が高いのは当たり前と考えている、のだろう。それほどうらやましいのなら、美容外科をやったらいいのに、などとも思っているのかもしれない。

美容は、通常命にかかわることがない。だから保険がきかず自由診療になるのだが、一般的に考えて、命にかかかわる診療が安く、かかわらない診療が高くなるのは、不思議に感じてしまう。命のほうが大事でしょ、と。

実際には、このような、命にかかわる大切なものの値段が安く、そうでないものが高い、というのはよく起こる、らしい。

トマトの値段は高く、コメは安い

農業でいえば、トマトの値段は高い一方で、コメや小麦は安い。篠原信さんによるとこのような状況である。

そこでトマトの値段とコメの値段を比べてみると、トマト1個(約100g)はだいたいどこのスーパーでも100円くらい。他方、コメは100gに換算すると20円くらい。トマトは5倍も高く売れている。
 カロリー計算をするともっと面白い。トマトは100gで18.9kcal、コメは356.1kcal。もし同じカロリーを摂取しようとしたら、トマトはコメの100倍近くも高くつくのだ。逆に言えば、コメはトマトの100分の1の価値しか認められていないということになる。

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50580

この理由を、篠原さんはアダム・スミスから考察している。

アダム・スミスの「諸国民の富」にとても分かりやすい例が書かれてあった。「水の値段」だ。
 水は足りないと命に関わるから、余分を確保しようとする。余分があるということは、市場原理に従えば在庫がダブついているということだ。すると、価格はタダみたいな値段に下落する。
 とこが水が足りないとなると、金銀財宝を山と積んでもコップ一杯の水が欲しくなる。それを飲まないと死んでしまうからだ。命に関わるから、市場原理に従うと価格が天井知らずに暴騰してしまう。
 このように、水みたいな「命に関わる」商品は、市場原理に乗せるとタダみたいに安い値段か、手が届かないほど高い値段か、極端な価格形成をする。

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50580

今回の美容外科VS救急医療も似た構造になっている。命にかかかわる救急医療が相対的に安く、美容外科は高い。

実際には保険診療には市場原理が働いていない。保険診療の診療報酬は、公的な会議で決定され、医療機関が独自に価格設定することはできない。でも、市場原理は働かないが、命にかかわる医療はできるだけ安く提供したい、金銭的に高いがために治療をあきらめるようなことが出来るだけ少なくしたい、という政治的な動機があると思われる。

外科医はかっこいいから給料が安い

アダム・スミスに倣うとすると例えば救急の外科の先生の給料が相対的に安いのは、需要がだぶついているからだ、ということになる。これはある意味真実かもしれない。

つまり、救急の外科の先生は、基本的にかっこいいのである。

病気の患者を手術して助けるというとき、そこには個人的技能が重要になる。例えば、薬を処方する治療では、言ってみれば、治療の大部分は薬の力であって個人の技能はそう大きなウェイトを占めることはない。見立や薬の選択には技能は絡むけれども、そもそも薬がなければ成立しないのだ。やはり手術をする外科医はかっこいい。外科医を目指す若手は減っているとはいえ、すでに外科医になっている先生方は、やはりカッコよさややりがいなどがあって、給料が安いことをあまり気にしていないのかもしれない。

他の要因でいえば、救急の先生は、あまり、政治的活動ができないのかもしれない。保険診療の診療報酬は、政治的に決まるが、とくに外科系の先生は手術などで長時間費やすことが多く、政治的活動をあまりしていないのかもしれない。お金に執着することを好まないのかもしれない。この辺もかっこいいイメージ。

あるいは、病院からの報酬以外でもらえる、ダイレクトな”心づけ”が莫大なのかもしれない(この辺は外科医になったことはないので、単なる推測です)。もしかしたら

患者さん側に立てば、その原因がどうあれ、脂肪塞栓の治療ができる技能を持った医師が治療に当たるのが患者のためになるのであり、役割分担は患者さんにとってそれほど悪い話ではない。
あるいは、美容外科で起こりうるすべての合併症に対応できなければ、美容外科医はどんな治療も可能なスーパー医師ということになるだろう。これは実質無理だから、結局、保険診療医は、美容外科に滅んでほしい、ということなのかもしれない。
そんなこと言いだしたら、命にかかわりない仕事でお医者さんより稼いでる人はたくさんいて(例えばエンタメ業界の人たち)、その人たちに、滅んでもらおうとは思わないから、やっぱり嫉妬ですね。

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