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本当の瞬間 ガールズバンドクライ#12

ついに残すところは最終回13話のみになった。#8-#12各話ごとの感想を連続してあげる。6月28日の13話オンエアには間に合わせるつもり。
タイトルは手島nari先生のツイッター(@_17meisai23)から

桃香の瞳に映るのは ガルクラ#1-#3

歩むべき道を示すもの ガルクラ#4-#7

弱さと向き合う ガルクラ#8

許されること ガルクラ#9

普通の人になる ガルクラ#10

奈落の底と大空 ガルクラ#11

12話

大きな選択が必要なことが、人生においてたまにあるが、「後悔のない選択をしなさい」という”大人”の助言はウソだ、と私は常々思っている。

後悔はどのような時に起こるのか。何か選択をした後に、うまくいかなくなると、レトロスペクティブに、あの時、別の選択をしていれば、などと考える。注意しなければならないのは、うまくいかない出来事は、選択の後の人生の、どのタイミングで起こっても、後悔が発生するということだ。

選択をして、1年後、うまく生かいことが起きれば後悔するかもしれない。底を乗り切った3年後には後悔を忘れているかもしれない。でもまた10年後には困ったことが起きてまた後悔するかもしれない。

後悔したときには、別の選択をしてうまくいっている状況を空想している。本当は別の選択をしても、大小さまざまな選択がからみあって、うまくいかないことだってあるし、バタフライエフェクトのように、覚えてすらいない小さな選択が影響を与えていることだってある。だから選択と後悔は、因果関係ではなくて単なる前後関係であって、前後即因果の誤謬そのものの場合もあるだろう。私たちの人生の試行回数は一度きりだから、前後関係に理由を見出して、次の試行に備えなければならないから、前後即因果の関係を体系的に濫用するナラティブは、直線的な人生観を生きる私たちにとって必要な機能なのだろう。

12話ではトゲナシトゲアリは、プロとして芸能事務所と契約をする。11話のライブが成功した結果である。
メンバーの報酬は月額20万円と説明的なセリフがあるが、これが多いのかどうかわからない。仁菜は16歳であることを考えると大きな額かもしれない。契約の内容は簡単にしかわからないが、芸能界の慣習では、雇用契約ではなく、請負契約かマネジメント契約ということになるのではないかと思う。つまり、個人事業主として、楽曲を作成して納品するなどの契約が交わされているのだろう。楽曲の作曲を担当する桃香は、曲が売れれば著作権料が入るから、もう少し多くなるだろう。

メンバーは、プロとしてやっていくという、大きな選択をした。桃香は「本当に良かったのか」と仁菜に尋ねる。後悔しないようにすることはできない。できることは、選択したことが良かったと思えるように、目の前のことをこなしていくことしかない。仁菜は「そう思えるようにするんです、これから」と応える。自らを鼓舞するようにも聴こえた。

桃香は曲作りに迷う。「怖いんだよ、曲を作ることに真剣になればなるほど
あの日の自分が、不安がよみがえるんだ」という。クリエイターの苦悩は、一般人たる私からは想像もつかないものかもしれない。私が思い出したのは、THE BLUE HEARTSの"終わらない歌"だ(ちなみに11話のタイトル”世界の真ん中”もTHE BLUE HEARTSだ)。

「本当の瞬間はいつも、死ぬほど怖いものだから、逃げ出したくなったことは今まで何度でもあった」

本当の瞬間はいつのことだろうか。私は自分の実力が試されるとき、自分の正体が暴かれるように、自分が何者かを示さなければならないときだと思う。試されたことがうまくいくかどうかは誰にもわからない、不確実性をはらんでいる。
幸運なことに(残念でもあるが)、年齢を重ねるにつれて、そのような機会は減ってきている。あるいは、逃げ出したくなって逃げだしてしまったとしても、大きな問題にならないことが多くなった。

若い頃は違った。部活の試合や、受験や、告白など、試される機会はそこら中に転がっているように思っていた。怖かった。

私の経験は、創作物が市場で試されるというクリエイターの怖さからすればありふれたものかもしれない。それでもやはり、私の本当の瞬間だったのだ。

ハンナ・アーレントは言う。人生の不確実性という問題について、これに付随する不安を乗り越えるために必要なのは、他者との約束であると。うまくいくかどうかわからない分岐に立って選択し、後悔を飲み下すためには、他者が、仲間が、必要なのだろう。メンバーの5人が立てる小指は、中指の代わりのロックでもあり、約束の証でもある。

さて、最終話に向けて12話は、暗転して終わる。少なく見積もって1万再生を期待して、配信された新曲はわずか103再生だった。ダイダスとの対バンに暗雲が立ち込める。

最終話はどうなるのか。個人的には、横浜の1000Clubでの1stワンマンライブはまだ劇中に登場していない。対バンライブはクラブチッタで行われ、収容人数1300人。収容数から見れば、クラブチッタの方が格上かもしれない。劇中に1000Clubが登場するのであれば、2期になるのか?などと期待している。


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