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ショートショート 『New熟語譚』

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漢和辞典を目をつぶって2、3箇所適当に指差し、そこにあった漢字で熟語を作り、それをテーマに短編小説を作ります。不定期で、更新します。
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New熟語譚①道前罷(どうぜんひ)

今日からはじまりました、新企画、New熟語譚でございます。私は以前から、「パブー」という本を作ったり売ったりできるサイトで、「指さし小説」というものを連載していました。それは、国語辞典を目をつぶって指さし、そこにあったことばをテーマに短編小説を作るというものです。

今回は、その指さしシリーズ第2弾という感じで、今度は漢和辞典を目をつぶって何回か指さし、そこにあった漢字を順番に連ねて新たな熟語を作

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New熟語譚28 縉峻 (しんしゅん)

縉峻

「いらっしゃいませ」ということばは、いざという時にしか使ってはならぬ。

私は、目の前に置かれた雑多なものをみつめる。
これをどうしてくれようか。

まずは、手近にある、縮んだセーターを、その雑多な物の中から引っ張り出す。
引っ張り出す時に、びよーんと伸びたセーターは、昔のおもかげを映し出した。

私は、目の前に広がっているブルーシートの、まだかろうじて残っている隙間に、そのセーターを伸ば

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New熟語譚26 粧唐(しょうとう)

粧唐

私は自分が嫌いだ。
だから化粧して、外国に行くことにした。そしたら、生まれ変われる気がする。大きな国がいいな。そしたら自分の存在が小さく感じられそうだから。
小さいまま生きていきたい。そしてプチっと消えるの。
私は私じゃない別の人になりかわって、人の人生を生きるの。そうすれば、辛くないでしょう?

私はコンビニに行って、化粧道具を買ってきた。
これで、生まれ変われるかしらん。

やり方は、

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New熟語譚25 終馭(しゅうぎょ)

終馭(しゅうぎょ)
 
をかしなことだ
今、歩いているのは、平均台の上

前を歩いているのは、コーギーだった

コーギーは、上手に平均台を歩く
私は今にも落ちそうに、フラフラ歩いている。

私の手には、リボンが巻かさっている。
そのリボンの先に、コーギー

コーギーは上手に歩くもんだから、どんどん先に行ってしまう。
私は歩く。
でも進まない。気をつけて歩いているから。左に傾かないように。そして、右

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New熟語譚27 無鍪(むぼう)

無鍪

あたしったら、なんてことしちゃったのかしら。こんな暑い日に、帽子を忘れてくるなんて。
ちゃんと、玄関とこに、置いといたのよ。それなのに、なんてことかしら。
こんな大事な日に。

ジリジリと、髪が焼けてくわ。
肌にシミができちゃう。
大変ったら大変。
それなのに、木陰もないなんて。

あら、あたしの目の前に、大きな帽子をかぶっている人がいるわね。

「おじいさん。良い帽子ね」
「そうか」

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New熟語譚24 毛粒経(もうりゅうきょう)

New熟語譚24 毛粒経(もうりゅうきょう)

毛粒経(もうりゅうきょう)

「私を、掃除機で吸ってください」

 そんな声が聞こえた気がした。私は机に肘をつき、手に頭を乗せてぼーっとしていたので、その声にハッとした。

 床には、ビーズ細工をしていて、こぼしてしまったビーズが、ばらばらと落ちていた。今の声は、ビーズたちの声だったのだろうか。私は床に耳を近づけた。

 何も聞こえない。その代わりに、とても長い銀色の毛を見つけた。

 私はショー

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New熟語譚23 席入臓(せきにゅうぞう)

漢和辞典を目をつぶって指さし、そこにあった漢字で新たな熟語を作ります。これは、その熟語を元にした、短いおはなしです。

席入臓

 なんだか胃がポコンポコンする。痛いわけじゃない。ムカムカするのとも違うし、胃もたれもない。ただ、内側からつつかれるように、ポコンポコンするのだった。

 僕は消化器内科に行った。こんな聞いたこともない症状、先生に説明したって、きっとわかってくれないだろう。そう思って行

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New熟語譚22 縮酌(しゅくしゃく)

 
漢和辞典を目をつぶって指さし、そこにあった漢字で新たな熟語を作ります。これは、その熟語を元にした、短いおはなしです。

縮酌

「あー、来た!こっち、こっち!」
「もっとそっちつめて!」
「きゃー!今度はこっちに来た!」
「早く早く、そっちにずれて!」
「あ!目が来た!」
「フォーメーションゼロ!」
「もとに戻って!早くー」

 ピタッ

「変だなぁ」
 さっきから、瓶の中の味噌を、お玉で取ろ

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New熟語譚21 日作蓬(にっさほう)

New熟語譚21 日作蓬(にっさほう)

漢和辞典を目をつぶって指さし、そこにあった漢字で新たな熟語を作ります。これは、その熟語を元にした、短いおはなしです。

日作蓬

 太陽は、毎日作り変えられているってこと、知っていますか?

 毎日昇って、沈んでいく太陽。太陽が沈んでいった後、何をしてると思いますか?それはね、休憩しているんです!!

 知らなかったでしょう〜!私も知らなかったんです!!てっきり、沈んだあとも、どこか知らない街を照

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New熟語譚まとめ11〜20話

New熟語譚まとめ11〜20話

 漢和辞典を目をつぶって指をさし、そこにあった漢字で新たな熟語を作ります。今回は、11〜20話に生み出された熟語たちを実際に使って、一つの物語を作ります。 まずは、New熟語のおさらいです。リンク貼ってますので、まだそれぞれのお話を読んでない方、忘れてしまった方は、ぜひ読んでみてね☆

11.現主(げんしゅ)・・・急に運命の人が現れること

12.舞半(ぶはん)・・・踊りを踊っている最中

13.

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New熟語譚20 内酸(ないさん)

New熟語譚20 内酸(ないさん)

漢和辞典を目をつぶって指さし、そこにあった漢字で新たな熟語を作ります。これは、その熟語を元にした、短いおはなしです。

内酸 一人旅の途中で、私は突然、滝を見たくなった。どこの都道府県にも、滝の一つや二つあるだろう。そう思って、すぐに調べた。やっぱりあった。ここから、一番近い滝にしよう。滝なら、どこでも良いんだから。

 観光客は、見たところいなかった。だって、シーズンじゃないものな。少し肌寒い。

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New熟語譚19石後(いしあと)

New熟語譚19石後(いしあと)


漢和辞典を目をつぶって指をさし、そこにあった漢字で新たな熟語を作ります。これは、その熟語を元にした、短いおはなしです。

石後 今日はなんにもない一日だった。良いことも、悪いことも特になく、平穏な一日だった。

 それなのに。この心に渦巻く不満はなんだ。

 ぼくは、足元にあった石ころを蹴飛ばした。
「久しぶりの感覚」と、小さな声がした。

 ぼくは振り向いた。だれもいない。

「あの〜、ちょっ

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New熟語譚18微推(びすい)

漢和辞典を目をつぶって指をさし、そこにあった漢字で新たな熟語を作ります。これは、その熟語を元にした、短いおはなしです。

微推

「あれっ!久しぶり」
 久々に帰った地元のスーパーで、ぼくは小学校の時の友人を見つけた。

「おう、久しぶり。なにしてんの」友人も気づいて、こちらに近寄った。
「ちょっとハム買いに来てさ〜」
「ハム?何に使うの」
「焼きそばだよ〜!焼きそばと言ったらハムだよ」
「そうか

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New熟語譚17河輪婦(かわふ)

河輪婦 むかーしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おばあさんは川へ洗濯へ、おじいさんは庭へ選択物干しへ行く途中でした。おばあさんが川へ行くと、なぜかいつも聞こえてくる川のせせらぎが、一切聞こえてきません。変だなぁと思いながら川の前に来ると、ようやくその意味がわかりました。川が、流れていなかったのです。
川は、まるで湖のように静かでした。こんなことは、長い人生の中で初めて

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