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✏️何度も読み返したい「スキ」であふれているマガジン✏️

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心に残ったことば・しゃしん。 何度も何度も読み返したい。
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#エッセイ

「日記の本番」12月 くどうれいん

「日記の本番」12月 くどうれいん

小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。くどうさんの12月の「日記の練習」をもとにしたエッセイ、「日記の本番」です。

 とても好きで、街の財産としても非常に価値があって、けれどあまり頻繁に行くことができなかった角打ちが閉店した。高校生のとき、文芸部の全国コンクールでどうしても最優秀賞が取れなくて結局一度も立つことができなかった壇上に12年ぶりに来て講師

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「日記の練習」12月 くどうれいん

「日記の練習」12月 くどうれいん

小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。そんなくどうさんの12月の「日記の練習」です。

12月1日
キコと安藤さんと平興へ。わたしははさみ将棋が強い、と豪語していたことを覚えていた名人が「やるか!」と言ってくれたがぼろ負け。一気にふたつの駒を取られたとき、我ながらあまりの愚かさに笑ってしまった。あらゆる「最後」が苦手なので、閉店する前の最後の来店だろう

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6歳さん

6歳さん

さて、今からさかのぼること6年前の明け方の空の白む頃、うちの3番目、通称ウッチャンはこの世に生まれまして、それは見事な陣発から約4時間の自然分娩、生まれてきたご本人は出生体重3000g超えのなかなかに立派な体格で、今写真を見返すとその姿はまごうかたなきガッツ系、堅強そうなパンチ力強めの面立ちをしておられる。

のではあるけれどこのウッチャン、生まれる前から「最重度ではないのやけれど、確実に重度」と

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スターター人生

スターター人生

かつてはあんなに、保育園の入場行進口の紅白の柱にすがりついて「運動会なんか出るものか」と言いながらこの世の終わり程に泣いていた(らしい)私が、いざ己に子どもが出きてその子が、十月のひやりとした空気の朝に

「うんどうかい、頑張るね!」

など言ながら赤白帽をきゅっと凛々しく被るのを見ると、運動会というのはなんて素敵なんだろう楽しそうなんだろうとなんだかとっても素晴らしいじゃないのと思ってしまうのは

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2学期のはじめ

2学期のはじめ

今年の夏は地上に暮らす人間の手に余るほど暑く、きっと人類最後の日は遠くないのだなあと本気で思ったことだった。

今から20年程前に「39度のとろけそうな日」という歌い出しで始まる歌が流行ったことがあった。あれ、デートならデイゲームと歌っているので野球観戦に出かけた二人の歌なのかなあとは思うけれど、実際に39度を体験してみた身の上としては、観戦する方もプレイする方も39度ある屋外はちょっと野球どころ

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魂をこめた料理と、命をけずる料理はちがう

魂をこめた料理と、命をけずる料理はちがう

ラーメン屋の行列に並んでいた。

京都の自宅へ遊びにきた母が
「ラーメン食べとうて、しゃあない」
と、眼をかっ広げて言うのである。

母はたまに、そういう猛烈な天啓が下る。

車いすなので、こぢんまりした店にはひとりでフラッと入れないからだ。

ならば、どうしても食べさせたいラーメンがある!京都の名店!

麺屋猪一!

いつ来ても行列で、ミシュランにも載り、外国のお客でごった返してる。

おっ。

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「日記の練習」7月 くどうれいん

「日記の練習」7月 くどうれいん

小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。そんなくどうさんの7月の「日記の練習」です。

7月1日
北上川の近くを泣きながら歩いた。北上川もそんなに泣かれたら困るだろうなと思うくらい泣いた。

7月2日
山がきれいに見えて吉日だった。この日のことを何度も思い返したりするのだろう。歩道橋に登ると開運橋がいつも通り見えた。

7月3日
すべての労働は「連絡を返

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「日記の練習」8月 くどうれいん

「日記の練習」8月 くどうれいん

小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。そんなくどうさんの8月の「日記の練習」です。

8月1日
福引。赤、赤、赤、赤、赤、紫、赤、赤、赤、赤、赤、赤。

8月2日
「青春みたい」と帰り際言い合って、青春ってこの人生をつくづく気に入っているって意味かもしれない。

8月3日
ちいさなしゃぼん玉が出続ける機械があれば、ちいさなしゃぼん玉が出続ける機械を乗せ

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みんなと違う ≠ 仲間外れ

みんなと違う ≠ 仲間外れ

眠れない夜。

薄暗い部屋の天井を見つめ、自分だけが世界から取り残されたような気持ちが芽を出す頃、ふと思い出すのは、保育園の「お昼寝の時間」のこと。



お昼寝の時間が、とても苦手だった。

喘息持ちだったわたしは、ほこりっぽい保育園の床に寝そべると、コホコホと咳が出てしまうのだ。みんながすうすうと寝息を立てるなか、一人だけ目が冴え、わたしだけがこの世界に取り残されているような寂しい気持ちにな

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#44 「愛してる」と言えたことはありますか【伊佐知美の頭の中】

#44 「愛してる」と言えたことはありますか【伊佐知美の頭の中】

飛行機は那覇空港を離陸して、私が10日間を精一杯過ごした那覇や、だいすきな読谷村をあっという間に飛び越えて、沖縄の空に浮かぶ雲に入って、いまは奄美を通りすぎるくらいの位置。

沖縄では、このnoteを一緒に運営するのちちゃんが私のマタニティフォトを撮りにきてくれた。嬉しい。

私はひとりしか子どもを産まないのだろうな、と思っている。それは私の体力や体の状態、あとはパートナーが今年44歳になった、と

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#38 自信を失っていた時期、私をすくいあげてくれたのは【伊佐知美の頭の中】

#38 自信を失っていた時期、私をすくいあげてくれたのは【伊佐知美の頭の中】

今日の朝、目が覚めたらまだ5時半で、窓の向こうはまだ真っ暗。夜の世界で。

それでも、久しぶりに聞く、けれど聞き慣れた虫やカエルの鳴き声、バナナの葉が風に揺れてこすれる音、遠くから風に乗って運ばれる春と夏の間の波の音が、丘の上のこの2階の部屋まで届いていて。

沖縄の読谷村に戻ってこられて、眠って、目を覚まして、海が見える部屋にいる。その事実がどうしようもなく嬉しくって、本州よりも30分ほど遅い6

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#028 「満ちたひとり」になれて初めて、「ふたり」が始まると知った夜のこと【伊佐知美の頭の中】

#028 「満ちたひとり」になれて初めて、「ふたり」が始まると知った夜のこと【伊佐知美の頭の中】

まずは昔の話になるけれど、30歳になった翌月に、離婚を決めたことがある。そして、離婚が成立したまた翌月には、世界一周の続きの旅へ。

季節は、これから日本が寒くなってゆく秋の暮れ。冬には出会いたくなかったから、旅先は季節が逆の南半球を選ぶことにした。

この世界を、改めてひとりで生き直すことにした新生活の始まりの日々。

その最初の数ヶ月間を、一緒に旅したひとがいた。

二度と行けない あのカフェの

二度と行けない あのカフェの

2019年のハノイの旅は、ちょっと変わったものだった。
夫がベトナム北部のハノイで、とある長期プロジェクトに携わっていて、その滞在先に遊びに行ったのだった。

場所はハノイの中心部である旧市街地ではなく、西湖(テイホー)と呼ばれる大きな湖の東側、駐在員や外国人がたくさん暮らしているエリアだった。

昼間は夫は仕事なので、一人で湖を中心に毎日たくさん歩いた。外国人向けのオシャレなお店も多いけれど、少

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難関中学の入試問題の原作者になったけど設問が解けない理由を考えて、編集者にたどり着いた

難関中学の入試問題の原作者になったけど設問が解けない理由を考えて、編集者にたどり着いた

2023年2月3日、日付が変わるギリギリで思い出した豆をひとりで、鬼のお面をしながら、四方八方にまき散らしていたときでした。鬼みずから。少子化。

「岸田奈美さんのエッセイが、難関中学の今日の入試問題に出ました!」

なんですって!

調べたところ、東京の筑波大学附属駒場中学校だった。都内……偏差値……1位……!?

昨年は、京都大学医学部の入試でミャンマー行きのエッセイを、灘中学校の模試でバズっ

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