きなこ

はじめまして。野生の一人文芸部です。この物語はフィクションかもしれないしそうでもないか…

きなこ

はじめまして。野生の一人文芸部です。この物語はフィクションかもしれないしそうでもないかもしれません。 お仕事のご用命はTwitterのDM。もしくは此方の方までお願いいたします。⇨https://note.com/6016/message

マガジン

  • 1年生に、なれるかな。

    うちの末っ子、心疾患児であり医療的ケア児の就学の記録です。

  • 小説:グリルしらとり

    東京の小さな洋食屋を舞台に、ひとりの男の子の周りにいる人々のことを書きます。優しい物語を『グリルしらとり』のメニューを題名にして10篇ほどかけるといいなと思います。

  • 小説『みらいを、待ってる』

    コンテストに一応応募したものの箸にも棒にも引っかからなかったものを、さらに引き延ばして書いたものです。お焚き上げのような。

  • 短編集:詩を書く

    短歌や詩を下敷きにして小説を書きました。1つのものが1万字を上限にしています、ちょっと気の向いた時によめるものをこつこつ書いてここに置いておきます。あなたの気の向いた時に気軽に自由に手にとってくださると書いている人間は喜びます。

  • 短編小説集:春愁町

    春と別れをテーマにした短編集です。ひとつの町の中に別れる色々な人達の優しい姿を描く事が…できるのだろうか。全部の小説の世界はすべて同じ場所で人物もそれぞれに繋がりがあるというものです。

最近の記事

卒業袴

小学生の卒業式に袴を着ようなんてこと、一体いつごろ、どこの誰が思いついたのだろう。 個人的に、桜の御所車の宝尽くしの撫子の振袖に藍の浅葱の紫の袴を合わせたお嬢様方が、桜待つ弥生の街を華やかに和やかに歩く様を見ることは、大変好ましい。 でも12歳か、早生まれなら11歳の年端もゆかない女の子たちが袴姿で卒業式というのは、流石にちょっとやりすぎではないかしらん。それも普通の、公立の小学校で。 そう思っていたのは3年前、今年中3で中学を卒業した息子の小学校の卒業式のときのことで

    • ひよこさん

      こんなになにもできない人類があるのかと思っていた。 うちの息子のことだ。 三歳になったばかりの春、桜の花と共に幼稚園に入園すると、早生まれであることを差し引いても、息子のあれこれは同級生のお友達とは雲泥の差で、あの頃まだ比較的若い母親だったわたしは愕然とした。 先生のお話しを椅子に座って聞けてない 先生が「おかばんをロッカーに仕舞いましょう」と言っても棒立ち 「幼稚園で何してきたん?」の返答が全て「なんもしてへん」 この子はものすごく頭が悪いのかもしれないし、どこかお

      • 短編小説:こんにちは、赤ちゃん

        「わたし、もうここには来ないと思います」 昼の面会の終りに担当看護師にそう伝えて、大学病院から半年前に購入した白いマンションに帰って来たわたしは、その次の日、本当に保冷バッグに冷凍した母乳を詰め込んで病院に行くということをやめた。 (もうあそこには行かないんだから、搾乳なんかやめよう) そう思ったのに、わたしの気持ちを全く理解しないわたしの乳房は3時間毎に律儀に母乳を生成し、乳房の持ち主であるわたしがそれを無視していると、今度は限界まで満ちた母乳はわたしの両乳房を岩のよ

        • 2月22日

          普段ひとりで電車に乗るなんてことは本当に稀なもので、ひとりで電車に乗るとそれがどんな用事でも私は嬉しい。 同じ車両に乗り合わせた人達がいつもの通勤電車のいつもの車窓の景色に目を凝らすことなく、大体がなんとなくスマホを眺めている中で、ずっと車窓を流れている景色を見ていたら、市内の雑駁なビルとビルの間にひょっこりと 「来夢来人」 なんていうスナックの看板を見つけて「わーほんまにあるんやああいうの!」とマスクの下でこっそり笑ったり 「やかんちゅうがく」 という平仮名の横断

        卒業袴

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        • 小説『みらいを、待ってる』
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        • 短編集:詩を書く
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        • 短編小説集:春愁町
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        • 入院日記。
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        記事

          短編小説:スライムきょうだい

          みんなが布団部屋とか魔窟とか呼んでいる3畳ほどの広さの納戸に2人が入ったところを見計らって扉を閉め、かちりと手早くカギを掛けて中に閉じ込めてしまったのはナナだった。 「ねねね、なんか納戸に何かいるみたい、この前ベランダからうちに入ってきてた猫かもしれへん」 「まじか、あのキジトラ?どこどこどこ?」 「ネコチャン?だいすき、みたーい!」 まえに、お隣からベランダ伝いでこの家に侵入してきた猫がいるかもしれないよ。 ナナの言葉に、ナナの兄のケンケンと、妹であるリリは6年前の家

          短編小説:スライムきょうだい

          1年生に、なれるかな(8)

          1年生になれないかもしれない。 12月がまるで嵐のように過ぎ去って年が改まった。ウッチャンは運動会だとか、クリスマスの降誕劇だとか、サンタの来訪さんだとか、キャンドルサービス、行事ごとがぎゅうぎゅうと詰まった2学期について大体いつ聞いても 「ウッチャン、幼稚園たのしい?」 「たのしい!」 なに言うてんのあたりまえやんかという表情で答えていてくれたし、2学期からは朝だけ友達と一緒に園バスに乗るようになり、定刻発着が大原則である園バスに遅れることを心配して朝、親のわたしより

          1年生に、なれるかな(8)

          短編小説:淋しくなんかない。

          小学5年生の時、海斗と同じクラスの坂本さんという女の子が自宅で大型犬を飼っていた。それはとても賢い犬で、オスワリ、オテ、オカワリ、フセはすぐ覚え、指でピストルの形を作ってばあんと撃つ真似をするとひっくり返って軽く前足を痙攣させる芸までできるのだと自慢していた。キラキラと光る太陽色の毛並みと優しいとび色の瞳の、犬種は確かゴールデンレトリバー。 「いいなぁー超かわいい」 「毎朝一緒にお散歩に行って、夜は一緒に寝てるんだ!」 「この子、名前はなんていうの?」 「アニーって言うの、

          短編小説:淋しくなんかない。

          ゴジラのかなしみ

          ゴジラは広辞苑にその名が記されている唯一の怪獣だそう。そのあたりでもう既に特撮怪獣映画界(そういう界隈って、あるのだろうかね)では別格というか、唯一無二の存在であるのだろうと思われる。 そのゴジラを私はとても好きだ。 といっても私の言うところの「私の好きなゴジラ」というのは、ゴジラという架空の怪獣全般を指しているのではなくて、2016年公開の『シン・ゴジラ』に限る。というのも、今の私はちょっと時間的かつ人的余裕というものの関係で、最新映画を気軽にシネコンに見にいけるような

          ゴジラのかなしみ

          ぼくたちはなんだかすべて忘れてしまうね

          カレンダーを見たら、幼稚園の新学期を1日間違えていた。 去年の12月に買ったRollbahnの手帳にも、家族5人分の予定が別個に記入できるカレンダーにも、ちゃんと1月10日の欄に『6歳新学期』と書いてあるのにも関わらず、一体どういうことなの、大丈夫なのか自分。 今日の昼過ぎ、大学病院に6歳のさまざまに問題だらけの心臓の定期健診に行き、そこで2時間半もレントゲン撮影を待って(どうやら6台だか5台あるうちのひとつが故障していたらしい)、ここ最近は半分ほど世間話になっている診察

          ぼくたちはなんだかすべて忘れてしまうね

          老人はじめました。

          黒目の周りをくるりと囲むようにしてほんのり白い環ができていることに気が付いた昨日、丁度その日の夕方いきつけ?かかりつけ?の眼科医院への通院日だった夫に取り急ぎ初診予約を入れてもらって、今日眼科に行ってきた。 「黒目の白濁、網膜剥離かもしれへんぞ」 7年程前から今日まで、難治性網膜剥離というその名前の通りの難儀で面倒でかつしつこい眼病に憑りつかれている夫(42歳)は、娘の心臓疾患計7つの名前を覚え切らないまま今日に至っている癖に眼病には矢鱈と詳しく、私のやや白濁した黒目の淵

          老人はじめました。

          じしんこわいね

          穏やかな元日を過ごすはずが正月早々、能登半島を震源にした地震が起きた。 1995年の阪神大震災の時には実家の富山に、2011年の東日本大震災の時には今住んでいる大阪に、せいぜい揺れても震度3程度の地域に暮らしていたために、地震で自宅が倒壊とか、避難所にしばらく避難するとか、そのレベルの本気の大災害に遭遇したことがないまま私は今年40代を折り返した。 だから私は、かつてそれに遭遇した人達よりは防災意識がもうひとつというか、地震がどんなに恐ろしいものか、その本質を多分ぜんぜん

          じしんこわいね

          小説:ひつじの子

          序)かあのこと  社団法人愛徳のひつじ会の運営する児童養護施設『こひつじ園』は1955年、大阪と京都の間の土地にあった屋敷とその周辺、35,000㎡の広大な山林を個人で所有していした園長が数名の賛同者と共に始めた小さな孤児院だった。 設立の5年後には園長の私財と篤志家らの寄付によって、乳児院であるひかり園がこひつじ園の建物の裏手に建設された。更に設立の10年後にはこひつじ園とひかり園の間の土地に講堂を兼ねてオーストリアから輸入したパイプオルガンの置かれた礼拝堂と、子どもら

          小説:ひつじの子

          6歳さん

          さて、今からさかのぼること6年前の明け方の空の白む頃、うちの3番目、通称ウッチャンはこの世に生まれまして、それは見事な陣発から約4時間の自然分娩、生まれてきたご本人は出生体重3000g超えのなかなかに立派な体格で、今写真を見返すとその姿はまごうかたなきガッツ系、堅強そうなパンチ力強めの面立ちをしておられる。 のではあるけれどこのウッチャン、生まれる前から「最重度ではないのやけれど、確実に重度」と目される心臓疾患を抱えていたもので、3度目のお産と言えど産む方の私は、かつてない

          6歳さん

          悲しみはバスに乗って

          12月、5歳がバス登園することになった、登園だけ。 それは一体どういうことであるかと言うと、5歳はこれまで私が自転車で毎日送迎していたのですよ、雨の日も風の日も雪の日も。弊相棒のPanasonicの電動自転車のブレーキとタイヤがすり減る位、毎日毎日、坂のやたらと多い街を上って下って。 5歳が今通っているのは幼稚園なので、普段の保育時間というものは本来10時から14時になる、延長保育は事前申し込みにて御随意に。 ではあるのだけれど5歳は心臓に持病があるもので、体幹はよわよ

          悲しみはバスに乗って

          短編小説:いぬの本懐

          田舎の古い家というのは冬の雪の湿気や重みで真夜中、ひとがみな寝静まって、目の前に犬の鼻があっても少しもわからないまっくらやみの時間に 「…ミシッ」 なんて不穏な音を立てることがある、それから屋根裏を鼬が鼠を追いかけてバタバタ駆け回って、天井板からはらはらとホコリが降ってくるくらい騒がしいなんてことも。おれは森の中にある古くて大きな家で生まれて、この家に来るまでそこでおれのお母さんときょうだい達と、あとはおれたちみたいなのを沢山育てているじいちゃんとばあちゃん達と暮らしてい

          短編小説:いぬの本懐

          タイガースじいちゃん

          あ…ありのまま今起こった事を話すぜ! というのは『ジョジョの奇妙な冒険・第3部』のポルナレフさんの台詞だそうですね、引用したけれど実のところ未履修なんですよ、ジョジョを読まないままに大人になった私であるもので。 で、ありのままに今起こったことを。 うちの5歳、職業幼稚園児、学年年長さんは毎朝私の送迎で幼稚園に通っている。 雨の日も風の日もときに雪の日も。雪の日に自転車というのは嘘でも偽りでも誇張でもなく、雪深い北陸の山村に育った私は都会の降雪程度では自転車を降りない、

          タイガースじいちゃん