マガジンのカバー画像

書評

362
運営しているクリエイター

記事一覧

【読書ノート】『変な家』

【読書ノート】『変な家』

『変な家』
雨穴著

話題の本が、文庫化したので、また、映画化されるというので、読んでみた。

建築基準法を完全無視した間取りは、現実的にはなかなかあり得ないし、間取り図から殺人事件を想起する設計士もありえないのだけどね。テンポよく物語が進むので、何となく引き込まれてしまった。

解説も含めて、物語の一部であるところは、新鮮だった。

物語の展開は何だかはちゃめちゃなのだけど、、、ありえないだろう

もっとみる
【読書ノート】『ダイアナとバーバラ』(『約束された移動』より)

【読書ノート】『ダイアナとバーバラ』(『約束された移動』より)

『ダイアナとバーバラ』(『約束された移動』より)
小川洋子著

病院で案内係をするバーバラと孫娘の交流の物語を描いている。

バーバラは、少女の頃にエスカレーターの補助員をしていた経験を持つ女性。彼女は、かつてダイアナ妃のファッションに憧れ、ダイアナ妃が着ていたドレスを見よう見まねで制作し、着飾って歩いていた。

ダイアナ妃
王室のイメージの変化、社会的な関心事への取り組み、母性や家族の象徴として

もっとみる
【読書ノート】『一寸法師の不在証明』(『むかしむかしあるところに死体がありました』より)

【読書ノート】『一寸法師の不在証明』(『むかしむかしあるところに死体がありました』より)

『一寸法師の不在証明』(『むかしむかしあるところに死体がありました』より)
青柳碧人著

一寸法師が、お姫様に気に入られて屋敷に住まわされていた。そんなある日お姫様に付き添って外に出ると、鬼が現れるという昔話なのだけど。

実は一寸法師は、悪だったという展開がなかなか新鮮におもったのだけどね。実は本家の『御伽草子』の中でも、一寸法師は、お姫様を騙す悪い奴だったりしている。

物語の主題は何か?

もっとみる

【読書ノート】『生存』(『信仰』より)

『生存』(『信仰』より)
村田沙耶香著

人々は、競争社会の中、それぞれが持つ能力から生存の可能性を生存率として評価されて、AクラスからDクラスに分類されている。

主人公 鈴木クミ(Cクラス)と角倉ハヤト(Aクラス)は恋人同士だった。結婚したいと考えて、生存率アドバイザーに相談をしに行ったところで物語は始まる。

アドバイザーは、二人の結婚は、生存率87%のハヤトにとって非常に不利な結婚になる。

もっとみる
【読書ノート】『今夜、世界からこの恋が消えても』

【読書ノート】『今夜、世界からこの恋が消えても』

『今夜、世界からこの恋が消えても』
一条岬著

読み始めは、ライトな中学生向けのラブコメディなのだろうと高を括っていたのだけど、通勤の電車の中で涙が止まらなくなってしまって、困った。

主な登場人物は、神谷透、日野真織、綿矢泉。

日野真織は、ある事故で、前向性健忘という朝起きてから寝るまでの間は記憶を保持できるが、寝て脳が記憶の整理を始めると、整理されるべき一日分の記憶が消去されてしまう。という

もっとみる
【読書ノート】『変身』

【読書ノート】『変身』

『変身』
東野圭吾著

主人公成瀬純一が、拳銃で頭部を撃たれたところから物語は、始まる。

難手術の末、奇跡的に生き延びた成瀬は、日常生活に戻ると、様々な違和感を覚える。

付き合っていた彼女(恵)のことを愛せなくなり、職場の人間関係もギクシャクする。

成瀬は自己の正体とドナーに関する真実を追求していくと、世界初の脳移植手術を受けていたことを知る。臓器の提供者は、成瀬に発砲した犯人だった。次第に

もっとみる
【読書ノート】『銀紙色のアンタレス』(『夜に星を放つ』より)

【読書ノート】『銀紙色のアンタレス』(『夜に星を放つ』より)

『銀紙色のアンタレス』(『夜に星を放つ』より)
窪美澄著

『夜に星を放つ』は、直木賞を受賞した短編集の一編。

高校生の真が祖母の家で過ごす夏の物語。真は海辺の町で幼なじみの朝日から告白されるが、彼の心は大人のたえさんに向いていた。たえさんは真の祖母の友人であり、夫と別居中の人妻。真とたえさんは夜空を見ながらお互いの心を通わせる。

キーワードを挙げてみる。

①アンタレス
アンタレスは、ギリシ

もっとみる
【読書ノート】『新編 人生あはれなり 紫式部日記』

【読書ノート】『新編 人生あはれなり 紫式部日記』

『新編 人生あはれなり 紫式部日記』
小迎裕美子 紫式部

紫式部日記をわかりやすく解説した本。華やかな日常を過ごしていと思いきや日々、将来の不安や人目を気にするストレス、目立ちたくないという願望など、現代の女性にも共感できる人間関係や仕事、嫉妬などが描かれている。

『源氏物語』の登場人物も取り上げていて、人物像を知る上で役にたつ。

平安中期の三大才女(紫式部・清少納言・和泉式部)の微妙な関係

もっとみる
【読書ノート】「蕗子さん」(『すいかの匂い』より)

【読書ノート】「蕗子さん」(『すいかの匂い』より)

「蕗子さん」(『すいかの匂い』より)
江國香織著

「集団が、苦手でもあり、学校を心底嫌悪していた」主人公(「私」)は、26歳の大学生蕗子さんの語る話が好きだ。「私」は、今やその当時の蕗子さんの年齢になってみて、彼女との出会いを思い出す。

蕗子さんは、亀を甲羅から取り出そうとして、包丁で、切り込みを入れたら、あっけなく亀は死んでしまったのだという。「私」は、そのオチが好きだった。

ある日「私」

もっとみる
【読書ノート】『長男の心得』(『ツナグ』より)

【読書ノート】『長男の心得』(『ツナグ』より)

『長男の心得』(『ツナグ』より)
辻村深月著

工務店の長男晴彦は、自分が過去に母親に対してしてしまったこと悩んでいた。また、長男太一が、未来の跡取りとしてふさわしいのかについても悩んでいた。

母親が亡くなる前に聞かされていた死者と会える話を思い出した。

そして、母親に会うことを決断する。

物語の主題は何か?
長男であることを自覚すること。
思いやりを持って、決断すること。

私自身は、長男

もっとみる
【読書ノート】『福沢諭吉が見た150年前の世界』『西洋旅案内』初の現代語訳

【読書ノート】『福沢諭吉が見た150年前の世界』『西洋旅案内』初の現代語訳

『福沢諭吉が見た150年前の世界』『西洋旅案内』初の現代語訳
福沢諭吉著
武田知弘訳

福沢諭吉が書いた『西洋旅行案内』の現代語訳兼解説本。

明治維新前後の混乱期にアメリカやヨーロッパ訪問使節団に潜り込み、当時の西洋社会の様子が詳細に記されている。

福沢諭吉が、どういう人物だったのか知ることができる大変興味深い内容。

黒船来航、ペリー来日で、蒸気船を見よう見まねで、造られた咸臨丸に乗って太平

もっとみる
【読書ノート】『桐壺』(『源氏物語』より)

【読書ノート】『桐壺』(『源氏物語』より)

『桐壺』(『源氏物語』より)
紫式部著(与謝野晶子訳、角田光代訳)

源氏物語の『桐壺』を角田光代訳と与謝野晶子訳で、読み比べてみた。

角田光代さんの訳は、コンパクトにまとまっていて、読みやすい。

与謝野晶子訳は、思っていたよりもずっと読み易くて驚いた。
物語のリアルな悶々感が、より味わえるように思った。

角田光代訳を読んでから与謝野晶子訳というのが良いのかなあ。

この物語の主題は、
桐壺

もっとみる
【読書ノート】『桃子』(『つめたい夜に』より)

【読書ノート】『桃子』(『つめたい夜に』より)

『桃子』(『つめたい夜に』より)
江國香織著

大人向けの絵本にもなった作品。
7歳の孤児の桃子と19歳の青年僧天隆が、互いに惹かれ合い、不思議な運命を辿るという物語。

桃子は交通事故で、両親を失って、一時的に山寺に預けられる。そこで青年僧の天隆と出逢う。

桃子が無口で笑わないことが多かったのに、天隆との出会いによって彼女は積極的に笑顔を見せるようになる。彼らの関係は時間の経過とともに深まって

もっとみる
【読書ノート】『貧しき男天女に逢えること』(『恋のうき世』新今昔物語)

【読書ノート】『貧しき男天女に逢えること』(『恋のうき世』新今昔物語)

『貧しき男天女に逢えること』(『恋のうき世』新今昔物語
永井路子著

〜『今昔物語』を下敷きに描く恋の闇〜

イタチという浮浪者が、ある盗賊の頭に盗賊の一味に加えさせられ、唐の希少なお宝を略奪するため屋敷に潜入させられる。

そこで、イタチは、天女のような美しい女性と出逢う。屋敷の主のお妾だと思うが、イタチは、すぐに恋してしまう。

ある日、イタチは天女に呼ばれ、関係を持ち、恋愛物語が始まる。

もっとみる