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ロボモフ
2021年9月20日 06:13
お化けでも出そうな生暖かい風が吹いていた。出るなら出ろ。お化けなんかは少しも怖くはない。恐れるべきは、自分の胸の奥深いところに眠る怨念の方だ。風の向くままにいつでも運ばれてきた。季節を問わず私は風が好きだった。(だから時には本気になりすぎることもある) 自分で決めた道ならば、全責任を自分で負わなければならない。幸いなことに、いかなる時も私は決定権を持っていなかった。「答えは風に吹かれている
2021年5月11日 02:22
「爪を隠してらっしゃるんで?」「いえいえ、私はドライバーだから」「本当ですかい」 鴉は楊枝をくわえながら言った。 テレビからガソリンの匂いがして私はせき込んだ。若手俳優が主演の刑事ドラマだ。「大丈夫ですか?」 心配するような疑うような目。鴉は水を入れてくれた。「ああ、ちょっと寝不足で」「本当は車なんて……」 本当の私を知ってどうするのだ。 そうとも。私は鴉を撃退するために招
2021年5月3日 02:13
季節に逆らうようにかえってくる冷たい風に、ミリタリーシャツが張りついていた。泣くほどに寒い夜には、仲間とテーブルを囲まなければ耐えられない。行くところと言えば、だいたいいつも決まっている。俺たちの街、愛するものは何も変わらない。「いらっしゃいませ! ラスト・オーダーになります」 俺たちは案内も待たずに勝手に好きな席に着く。「チキラ」「俺も」「同じで」「俺もチキラ」「一緒で」
2021年2月2日 01:12
パラパラパラ♪ページをめくる音が気に入ってそればかりしていた本とは色んな向き合い方がある立てかけてみる寝かせてみるむしろ自分の方が寝っ転がってさかさまにすると物語が降ってきそうでわくわくする本をつれだして街を歩く抱えてみれば随分重たくなったありがとうこの重たさが時間をくれる私をつくるパラパラパラ♪雨だ……私の胸を蹴り上げて逃げて行
2020年12月7日 21:19
大事な話がある(君だけに)。 親友に呼び出されて私は喫茶店の中にいた。 ここのコーヒーはこの街で一番だ。「僕はこの星の生まれじゃない」 話は前置きもなく始まった。彼はどこか疲れた様子だった。「お母さんは?」 私は素朴な疑問をぶつけながら探りを入れた。「おじいさんは?」 みんなそうだと言う。家族ぐるみで宇宙人ということか。「わかったか」 彼の状態は相当悪そうだった。「隣人
2020年12月4日 19:46
「新しいカルタはできた?」「それがまだ……」「仕事は他にもたくさんあるのよ」「どうしてもカルタにしないと駄目ですか」「当然でしょ。他に代案でもあると言うの?」「いいえ。もっと普通じゃ駄目なのかと」「何を言ってるの。普通じゃ届かないからカルタ語にするんでしょ」「ですよね……」「あなたお薬はどうやって飲むの?」「かかりつけに処方箋をもらって薬局で……」「カプセルで飲むのでしょ」
2020年9月12日 02:10
「駄目だよお父さん。万引きは立派な犯罪だよ」「ああ知ってるよ。わざとやねん」「まだあるんじゃない。あるなら全部出して」「あるで。ポケットに酒もあんねん」「自慢じゃないんだから。あったらよくないんだからね」「わかってるで。わかった上でやってんねんから」「駄目だよ。やったら駄目だからお父さん」「そうや。駄目や。知ってんねん俺」「わかってるならやめないと。そうでしょ」「そうやで。それを
2020年6月20日 04:33
「随分と荒れていたようだな」「餅を大量に食べた後、国道を10キロ走っています」「ほお」「長編小説を2冊一気読みし、古新聞で鶴を折っています」「新聞を取ってるのか」「牛丼屋を5件梯子してます」「梯子牛か」チャカチャンチャンチャン♪「コンビニに行き出入りを繰り返してます」「鬱陶しい奴だ」「ツイッターでログインログアウトを繰り返してます」「何かつぶやくことはなかったのか」「そ
2020年5月30日 22:28
「今年こそは」 大丈夫と自分に言い聞かせる。 誰にも負けなかったという自負があった。 ルックスも、ウォークも、スピーチも、ダンスも。 お芝居だって、誰よりも真に迫っていたはず。「いよいよグランプリの発表です!」 ドラムロールが興奮を高める。 足を小刻みに震わせる者、目を閉じる者、両手を合わせて天に祈る者、今にも泣き出しそうな者、厳しい表情を保つ者。 自分を信じて疑わない私……。
2020年4月1日 03:32
プレミア・リーグからすごい男がやってきた。何しろ頭がでかかった。サイドからのクロスに飛び込んで得点するのが得意の形だ。クロスの精度が多少わるくてもお構いなし。その巨大な頭で常に競り勝つことができた。毎回同じ形でゴールを量産して当然のように得点王になった。その得点数は桁違いだった。「サッカーは足でするもの」協会で問題視されてルールが改定された。 ヘディング・シュートが禁止になり得点パターンは
2020年1月24日 21:20
「昨日はじめて宇宙人を見てね」「へー」?「よさげだったよ」?「……」「……」その先があるのかと思いきや、どうやら何もないようだ。あなたはそれきり黙り込んでしまった。私は相槌を間違えたようにも思う。私たちはそれぞれに見えない台本を持ち合っている。共通の台本を持てば、次がどちらの番かは互いにわかる。それによって会話は円滑に進んでいく。けれども、台本を読み誤れば台詞に穴が空く