潜入手袋

「爪を隠してらっしゃるんで?」
「いえいえ、私はドライバーだから」
「本当ですかい」
 鴉は楊枝をくわえながら言った。
 テレビからガソリンの匂いがして私はせき込んだ。若手俳優が主演の刑事ドラマだ。

「大丈夫ですか?」
 心配するような疑うような目。鴉は水を入れてくれた。
「ああ、ちょっと寝不足で」
「本当は車なんて……」
 本当の私を知ってどうするのだ。

 そうとも。私は鴉を撃退するために招かれた刺客。
 だが、今はまだ動く時ではない。

「ありがとう」
 車のキーを見せつけながら、鴉に礼を言った。

(今の内によその町へ逃げな)



#小説 #働き方改革 #裏切りの街




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