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記事集・H

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私は蓮實重彥(蓮實重彦ではなく)の文章にうながされて書くことがよくあります。そうやって書いた連載記事や緩やかにつながる記事を集めました。
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#映画

迷う権利(線状について・03)

迷う権利(線状について・03)

 人は直線上で迷う。ただし、「私は直線上で迷っている」と口にするのはタブーである――。

 これまで、そうしたことを書いてきました。さらに言うと、次のようにも書きました。

 人生や世界や宇宙が、くねくねごちゃごちゃしているから、それをすっきりさせる工夫が線状化や直線化である。

     *

 人は直線上で迷う生き物であるにもかかわらず、「私は直線上で迷っている」と人前で口にしてはならないし、

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振り(線状について・04)

振り(線状について・04)

 誤っても謝らない、つまりブレない人が上に立つ社会は生きづらい。生きづらいどころか恐ろしい。ブレないリーダーの体裁や辻褄合わせに、人びとが付きあわされて、ブレたり迷うことができなくなる。迷う権利を行使できなくなる。

 前回は、そういう話をしました。

     *

 誤っても謝らない。ブレない、揺れない、振れない、迷わない――。

 これは、詳しく言うと次のようになります。

 誤っても誤った

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でありながら、ではなくなってしまう(好きな文章・01)

でありながら、ではなくなってしまう(好きな文章・01)

「好きな文章」という連載を始めます。たぶん、同じ書き手の同じような文章ばかりをあつかいそうな予感があります。それでもかまわないので、好きな文章を引用して好きなことを書くつもりです。

 今回のタイトルは「でありながら、ではなくなってしまう」ですが、これまでに投稿した「【レトリック詞】であって、でない」や「であって、ではない(反復とずれ・03)」と似ています。「宙吊りにする、着地させない」とも似てい

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くり返すというよりも、くり返してしまう

くり返すというよりも、くり返してしまう

 創作と読書と夢に耽っているとき、人は似た場所にいる。自分以外の何かに身をまかせている、または身をゆだねているという点が似ている。

 そこ(創作、読書、夢)で、人は自分にとって気持ちのいいことをくり返す。気持ちがいいからくり返す。というより、くり返してしまう。

 創作であれば、その「くり返してしまう」が作家のスタイルになり、読書であれば、そのこだわりが読み手の癖になる。夢はその人の生き方と重な

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知らないものについて読む

知らないものについて読む

 文芸作品そのものを読むよりも文芸批評を読むほうが好きでした。大学生時代はちょうど文芸批評の全盛期みたいな雰囲気があり、従来の印象批評の本が相変わらず続々出版され、フランス製のヌーベルクリティックとか英米加製のニュークリティシズム、そして日本でも新批評と呼んでいいような本や論考があいついで上梓されたり雑誌に発表されていました。

 つぎつぎに紹介される斬新な手法に興奮したのを覚えています。

 印

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直線上で迷う

直線上で迷う

 初めて水面や鏡を見たときの、人類という意味での人や個人としての人のようすを想像すると軽い目まいを覚えます。びっくりしたでしょうね。ぶったまげたでしょうね。

 鏡像に慣れ親しんでいるいまの人や自分の想像をこえた体験だといえそうです。

 その体験を「見る」という言葉で片づけていいのか、はなはだ疑問です。本当に「見た」のでしょうか? そもそも「見る」余裕などあったのでしょうか? 

 寝入り際にと

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