女神の名は・・・ part.Ⅴ
みなさん、こんばんは。綺羅です。
今日もnoteをご覧いただき、ありがとうございます。
この土日は、タイのオンライン街歩きに行ったり、アートセラピーを受けてきたりして、自分にとって本当に気分のいい土日を過ごせました!
お盆前でもあったので、スッキリしたいなという気持ちから、2つのイベントに申し込んだのですが、スッキリというより、癒しが感じられて「自分の好きなことを手放さずやっていきたい」という気持ちを、改めて実感できました。
この2つのイベントについても、後日記事にしたいと思っています。
さて、私の相棒が逝ってしまって丸1年が過ぎたのですが、やはり家のどこかをうろうろしている気配を感じます。
どこからか、ふと、あの子の香ばしい匂いを感じる時があるからです。
今日は私もあの子も人生で初めて経験した、台風について、話したいと思います。
🐕
忘れもしない、高校3年生の秋口。
数日前から雨が降り続いていたけれど、あんなことになるなんて、誰が想像出来ただろうか?
この日も、雨が降ってもいつも通りに過ぎていくと思っていた。
なぜなら、台風が通過するなんて、いつものことだったから。
その「いつも」が崩壊してしまうだなんて、誰も予測しなかったと思う。
時は夕暮れ、外は土砂降りの雨、テレビは警報と注意予報ばかりが流れてきてて、全然落ち着かない。
母はまだ帰宅せず、祖父母と私とあの子は、家の中でテレビを見ていた。
「この台風、このままだと直撃じゃないの。水に浸からないかが心配だわ。」
「これだけ降っていたらねぇ・・・ちょっと心配だね。」
祖父母の会話を聞きつつ、私は初めての部屋に入ってきたフーちゃんを観察していた。
どこか落ち着きのない様子で、雨が怖いというよりも、初めての部屋の方に興奮しているみたいだった。
『きらちゃん、フーちゃんここはじめてきたよ!ここはどこ?』
「みんなでお食事するお部屋だよ。フーちゃんは先にご飯食べちゃったんだっけか。」
『うん、たべたよ!いつもなら、おへやにいるけど、きょうはあたらしいおへやにいる!』
「うんうん、そうだね。」
くるっとした瞳で語りかけてくる姿が可愛くて、顔が自然と笑ってしまう。
ただ、現状は笑ってもいられなかった。
次々と周りの地域で「記録的短時間大雨情報」なるものが、ひっきりなしに速報で流れていた。
その音が、私には精神的に少しきつい。
あの高音を聞くと、嫌でも興奮した気分になり、酷く疲れてしまう。
私のその様子が変わったのを見ていたのか、彼女がじっと私を見つめる。
『きらちゃん、だいじょうぶ?なにかあったの?』
「大丈夫だよ。雨、早く止めばいいのにね・・・」
祖父母が言っていたことには、特にうちを含め、周囲の土地が低いらしく、あまりにも雨が降り続けば浸水する可能性があった。
その上、うちの家はもともと水辺を埋め立てた土地であるらしく、水はけも悪いのだそうだ。
あまりないも止む気配のない雨に危惧し、祖父は、いつものように倉庫でくつろいでいたフーちゃんを、母屋の方に避難させたのだ。
ここまでするくらいの大きな災害が果して来るのだろうか・・・?
それでもこの対応を取っていたことで、フーちゃんの命運が分かれるだなんて、この時には想像もしなかった。
🐕
目の前の道路は、もはや川と化していて、庭はくすんだ黄土色の海に姿を変えていた。
車が通ることで生成される波は、この家の浸食を狙っていたと思う。
家ではいよいよ浸水に備えて、物を上げる作業に取りかかっていた。
ただし私は、一緒に物を上げることができなかった。
気象速報の音に感覚がやられてしまい、動きが鈍くなっていたからだ。
この時に、自分の気質が”HSP”と分かっていれば、無闇に自分を責めることはなかっただろうけれど、それが分からないあの時は、すぐに体調を崩す自分に落ち込んでいた。
祖父母は私のその様子を責めることなく、「フーちゃんが怖がるだろうから、一緒に付いていてあげなさい」と言ってくれた。
この時、フーちゃんは2回へ続く踊り場にいて、もう床ではいつ浸水してくるか分からなかったので、万が一の時のことを考えて、祖父が移動させたのだった。
『きらちゃん、なんだか、おじいちゃんとおばあちゃんから、へんなかんじがするの。どうしたのかな。きらちゃんも、ほんとうにだいじょうぶ?』
「フーちゃん、今は私と一緒にいてくれる?」
『うん、いっしょにいるから、だいじょうぶだよ。あめ、ずっとふってるね。フーちゃん、あめはきらいなのに。』
フーちゃんも雨が嫌いなのは知っていた。
散歩へ行って、途中で雨に遭った時は、ものすごい力で家に引き返そうと全力で散歩の続行を拒否していた。
私はやはり「だっこ」ができなかったので、同行していた母が彼女を抱いて帰っていた。
この子は、嫌いなものや苦手なものから全力で逃げる。
私とは全然違う性格だ。
私は、自分の嫌いなものや苦手なものを公開することで、人から面倒くさがられた経験があったため、家族内でも表明できずにいた。
でもフーちゃんは、はっきり言うし、教えてくれる。
一瞬は「”嫌い”とか”苦手”ばっかり言うなよ」と思ったが、そう言ったところで、この子が正確に理解するとは思えなかったから、その文句を飲み込んで、”嫌い”や”苦手”を与えないようにしていた。
そんな思考にふけっていた時、祖父の声が響いた。
「もうだめだ、水が入ってくるぞ!」
🐕
一瞬にして家の中に水が浸透してきた。
ありとあらゆる隙間から、泥水が静かに私とこの子をめがけて来る。
ああ、怖い。怖いけど、耐えなきゃ・・・。
そう思って、気を取り直してフーちゃんを見ると、彼女は明らかに落ち着きを無くし、ソワソワしていた。
加えて、『こわい、たすけて!』と言い始めたのだ。
「フーちゃん、大丈夫だよ、何ともないよ!」
私は慌てて背中をさすってやる。
『いやだ!こわいもん!きらちゃんだって、おびえてるもん!きらちゃん、はやくにげよう!ここはこわいよ!』
甲高い声で吠え続けて、”怖い”と言い続ける。
そんなこの子に、浸水に焦っていた祖父が「うるさい!」と一声張り上げた。
ただ、それを期に、みんな口にはしないけれど、”恐怖”を感じていたことが分かったのだ。
浸水に備えて、できることをやっていたけれど、水の浸食の速さに”恐怖”を感じていた。
口に出すまいとしていた祖父母だったが、この子が「怖い」と言ったことで、気にしないようにしていた感情が、出てきたのだと思う。
その時、祖父の顔は怒っていたし、祖母の顔は悲壮な表情をしていたから。
「犬に怒っても仕方が無いでしょう!!・・・怖がってるんだし、もう2階に上げてしまいましょう。・・・綺羅ちゃんも、フーちゃんと一緒に2階に行ってあげて。その間に、物が置けるスペースを作っていてちょうだい。」
祖母の的確な指示を受けて、フーちゃんは祖父に担がれ、私はその後を追って、2階へ移動した。
🐕
私がスペースを作る横で、フーちゃんはまた連れてこられた違う部屋を観察していた。
でも、先ほどよりも、ずっと落ち着いていた。
『きらちゃん、フーちゃんもうこわくないよ!』
「うん、そうだね。・・・ありがとう、フーちゃん。”怖い”って、言ってくれて。私は、言えなかったよ。でも、フーちゃんがいてくれたから、怖くないよ。」
『フーちゃんもきらちゃんといるの、うれしいよ!ぜんぜんこわくないもん!』
「フーちゃんがいてよかった。・・・助かった。」
『フーちゃんは、いつもいっしょにいるよ。』
そう言ってくれる顔は穏やかで、私の表情を確認して、安堵しているように見えた。
私はあの時、怖いながらも、下にいたらどうなっていただろうか。
途中で倒れていたかもしれない。
あまりに未知なる恐怖と、死が近くに感じられるせいで。
・・・もしかして、浸水で死んじゃうのかなと、ぼんやり考えていたけれど、『こわい』の一言で、”今、生きている”状態に意識を戻してくれたのだと思う。
こういう切迫した状態で、嫌なものとか苦手なものを伝えられることは、自分の命を救うことに繋がるのだと、確かに感じた。
あなたのその声は、私の恐怖を見逃さず、伝えてくれた。
諦めることなく、「生きること」に呼び戻してくれた。
怖いって伝えなかったのに、どうして怖いと分かったの・・・?
やっぱり君は、ただ飼われる犬ではなかったのね。
女神の名は・・・。
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この記事にお時間をいただき、ありがとうございました。
それでは、今日はここまでです。
みなさんが、穏やかな夜をお過ごしになるように。
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