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読書録

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柳流水の読書録です。
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#心理学

【読書録】フーコー『精神疾患とパーソナリティ』4(終) 驚くべき二つの「効果」と一つの「操作の結果」

 フーコー節、とでもいうような、独特の語法があると、昔から思っていた。曰く、今はこれこれという観念が常識となっているが、それは通時的に自明なものではなく、○○年代に起こったこれこれの出来事の効果であった、など。

 今回、『精神疾患とパーソナリティ』を読み直して、初読では気付かなかった、というか、今までその初読の、途中まで読んだ時に抱いたイメージをそのまま引きずっていたのでわからなかった点が二つあ

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【読書録】フーコー『精神疾患とパーソナリティ』3 あっけなく行われるフロイト精神分析の要約と乗り越え

 フーコーの『精神疾患とパーソナリティ』を、さらに読み進めている。

 フロイト理論の要約と問題点の指摘が、スピーディに、的確に行われていることに驚く、これは、やはり、前に一読した時には気づかなかった点である。

 フロイトの、初期の、と言っていいのか、分析の仕組みは、精神の構造の発展史的記述、人は生まれてから何期と何期があって、そして、それが一番外の膜で覆われてはいるが、実は見えないだけで今まで

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【読書録】フーコー『精神疾患とパーソナリティ』2

 前回、言いたいことが言えなかった。
 そんな、フーコー自身は歴史の闇に葬りたかったこの書だが、それでも得るところは多いと感じる。
 この本は一九五四年に書かれたものらしい。精神医学は発展途上だった。哲学者にとっての精神医学だし、より仔細に症例を検討するのであれば、比べるのも良くないが、中井久夫の著書の方が、精神医学、精神疾患の位置づけとしてははるかにクリアで、明察を含んでいて、広い視野を得られた

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【読書録】フーコー『精神疾患とパーソナリティ』1

 また久々に読書録である。本当に、正味の読書録を書いていこう。今までは、気取り過ぎて、大変だった。

 フーコーの伝記を読んで、初めに出て来た本の、『精神疾患とパーソナリティ』を手に取った。実は、この本は、半ば来歴は知っていながら、ずいぶん前に購入して、七割方読んだ本だった。七割読んで、すっかり奥に仕舞われていた。が、伝記を読んだので、改めてバックボーンを知ることが出来たので、また味わいも変わるだ

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【読書録】ベルクソン『物質と記憶』3

 今回は、別に内容と関わらない、くだらない話である。

 ベルクソンの『物質と記憶』という哲学書を、半分まで読み進めたところであるが、こういう、記憶を題材にとった哲学書、またはノンフィクション科学読み物やなんぞというのが定期的に発刊されたりするが、そういうものを読んでいると、おのずと、自分はどういう風に、何かを記憶しているのか、振り返り、たとえば今どれだけのことを思い出すことができるか、記憶力を上

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【読書録】ベルクソン『物質と記憶』2

 もったいぶらずに、前回の続きの、このベルクソンの『物質と記憶』がさも忘れたかのように振る舞いつつ、そこを乗り越えるために、目指しているといっても過言ではないある一つの哲学とは、ヒュームの観念連合論である。
 ヒュームの名前は出さずに、観念連合という彼の概念を名指しし、「観念連合論の間違っている点は……」などと、その理論を新しい枠組みから説明しなおそうという所もあった。
 ヒュームの観念連合論は、

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【読書録】アンリ・ベルクソン『物質と記憶』1

 実は、半月か、一か月前辺りから、この本を読んでいる。しかし、普段ならほんの少し読み進めたそばから、直感的な感想をガンガン書きつけていくスタイルの僕が、この本については、感想を書きあぐねていた。
 前に、同じくベルクソンの『時間と自由』を読んだ。偉そうにいろいろ言っているが、数少ない読み切った哲学書のうちの一冊である。そもそもが本人の持続と意識というテーマを文体にしたかのような、一息が長い文体と、

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【読書録】中井久夫『私の日本語雑記』

 嫁と出掛けて、本をいくつか買った。その中で、中井久夫の『私の日本語雑記』という本を、他にも中井久夫の本を買ったことがあるから買ったのだが、これがまれに見るくらい内容が良かったので、共有していきたいと思った。
 中井久夫は、精神科医で、精神科医で本を書く人は他にもいくらもいるだろうが、これほど読んでいてしっくりくるというか、読んでいて納得感が得られることはなかったと思うくらい気に入って読んでいる。

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【読書録】豆腐色戦記(白)

 封筒は茶色、豆腐色は白を塗布しろと。

 ふうろいとに憑りつかれておる。もともとは、ドゥルーズの『千のプラトー』を読んでいて、狼男の章を読んだ時に、元ネタを読んでおくべきだと考えて開いたフロイト全集だったが、そこから逸れるようにして開いた西谷修の『不死のワンダーランド』にも、「〈不安〉から〈不気味なもの〉へ」と題して、またしてもフロイトを読めと促される。フロイトならもう読んだよ、と、「夢判断」を

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【読書録】フロイトから逃れたつもりがフロイトに戻ってくる

 気分転換というか、少し気ままに本が読みたくなって、あるいは、つい今しがた本の整理をしたからという物理的な動機もかかわってくるのかもしれない、とにかく西谷修の『不死のワンダーランド』を読み始めた。いや、前に半分以上読みかけていて、放っていた。こんな本はたくさんある。あまり途切れ途切れに本を読むのはよくないと決め込んでいたけれども、割合悪くもないかもしれない。本の種類による。ある種の散漫な意識に貫か

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【読書録】フロイト全集14 2 フロイト節

 フロイトの書いているものを、内容を理解し、感じる為に飲み込まなければいけない、フロイト節のようなものがある。
 一つは、無駄にではないだろうが、回りくどいこと。いや、半ばは無駄なんじゃないかと思う。「私はもしかしたら読者の疑念を招いてしまうかもしれない、それは……」という感じの、エクスキューズが多く、厳密でありすぎることに読んでいると疲れを覚えてくる。
 もう一つは、多く感じるところかもしれない

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【読書録】フロイト全集14 晩年の信仰

 フロイト全集14巻、有名な『狼男』分析を読むつもりで読み始めたけれども、とりあえず月報を読んでいる。
 あまりよく知らない、いろんなジャンルの偉い先生方の、論評がつづく。
 その中、月報の最後の文章、濱田秀伯という人の、「ジャネとフロイト」という文章の中で、知っている人は知っている、『ヒステリー研究』という、フロイト初期の出世作みたいな研究本を共同制作した人について触れていて、この人、フロイトと

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