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本の感想たち

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読んだ本について思ったことや考えたことを書きます。
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#読書

池上英洋『西洋美術史入門』

池上英洋『西洋美術史入門』

池上英洋著『西洋美術史入門』を昨日読んだ。
美術史というのは美術の歴史を追うという文字通りの意味だけではなく、なぜある作品や様式がその時代や社会、地域で描かれ、流行したのかを探る学問だと言う。そしてそれらを知ることは、当時生きた人間を知ることであり、ひいては「自分自身のことを知る」ことだと。

歴史は自分を写す鏡だということはよく言われるが、まさに同じことだ。中世ヨーロッパを襲ったペストによって、

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高見沢潤子『兄 小林秀雄との対話』

昨晩、寝る前に高見沢潤子『兄 小林秀雄との対話』を読み始めたらストッパーが効かず、夜中の2:30くらいまでぶっ続けで読んでしまった。

本書は兄妹が芸術、文学、宗教、歴史、哲学、作家の生活などを語らうという形式で、小林秀雄の思想が凝縮されつつも、とにかく射程の広い一冊。間違いなく今年のベスト本。

読了後はすっと眠りについたのだが、余韻からか、夢には絶え間なく本書で語られていた思想が右往左往してい

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『論語と算盤』の感想

『論語と算盤』の感想

今度、福沢諭吉に代わって1万円札の顔になる渋沢栄一の『論語と算盤』を読んだ。その中で特に印象深かったのが、志を立てよと説いていながら、立て方には失敗もあるということを赤裸々に吐露しているところだ。

渋沢は人生の節目節目で大きな志を持ち、たとえば政治家として国政に参加していたい、実業界で身を立てたいといった志を立てた。
しかし、前者の志を立てたのは大失敗だったらしく、「大蔵省に出仕するまでの数十年

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塩野七生『生き方の演習』

昨日は歴史小説で有名な塩野七生さんの『生き方の演習』を読んだ。本書は若者へのメッセージ本で、語学との付き合い方、教養とは何か、どう子育てするか、など塩野さんなりの新鮮な視点を見せてくれ、薄いながらも素晴らしい一冊だった。

中でも「好奇心を持て」と「面白いを大切に」というメッセージには姿勢を正された。

まずは前者。塩野さんは好奇心で色々なものに触れることは免疫を作ることであり、一方で単一なもの(

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フロムから考える「欲しいもの」

フロムから考える「欲しいもの」

先日先輩との会話の中で「欲しいものなんでもあげると言われたら何が欲しいんだろう?」という話題になった。今までは迷わずお金!とか、世界周遊の権利!とか答えていたが、改めて今問われると答えに窮してしまい、これには自分でも驚いた。

じっくり考えた末に捻り出した答えは「自分が納得するBe」だった。つまり、自分が最善の状態にあることが一番の望みだった。この考えはドイツの精神分析学の大家、エーリッヒ・フロム

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モンハンとパスカル

モンハンとパスカル

『モンスターハンター』(モンハン)は言わずと知れた大人気ゲームで、先月最新版が発売して以来、わが家でも朝から晩までゲーム音が鳴り響いている。

簡単にモンハンについて説明すると・・・
「モンスターを狩る→狩った報酬としてアイテムを獲得→アイテムをもとに武具を作る→より強いモンスターを狩る」という流れ。強い武具を作るには2.30分かけてモンスターを狩り、数%の確率で出現するアイテムが必要とされる。正

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ドン・キホーテに学ぶ

日本人なら誰もが知る、驚安の殿堂ドン・キホーテ。名前の由来を調べてみたら、案の定セルバンテスの『ドン・キホーテ』で、その名に込められた願いが素敵でハッとさせられる。

これを解するには『ドン・キホーテ』の概要を簡単に触れておく必要がある。

中年のドン・キホーテは騎士道物語を貪り読み、現実世界もそうなのだと勝手に思い込んだ結果、弟子サンチョ・パンサとともに世の不正を正す騎士になるべく冒険(?)に出

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『バーンスタイン わが音楽的人生』感想

バーンスタインが時に詩的に、時に情熱的に、時に明晰に紡ぐ言葉に何度心を打たれたか…。音楽に限らず哲学、芸術論、エッセイ、詩、など幅広く思索を巡らせている上に造形が深い。このようにテーマは多岐にわたっていながらも、「人類愛の実現への希望」という一つの大きなテーマが垣間見える。

大学でのスピーチの文字起こしに顕著だが、彼が若者に託す言葉には希望が溢れている。その希望は、われわれに欠けている「想像」に

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『フランケンシュタイン』から考える"悪魔"

『フランケンシュタイン』から考える"悪魔"

『フランケンシュタイン』を読んだ。ここ最近読んだ中では群を抜いて面白かった。文学の力を再認識。

好奇心に突き動かされ夢中で悪魔を作った人間の苦悩と、作られた悪魔の苦悩。

悪魔とフランケンシュタイン(以下フラン)の関係性は、不遇な状況にある子が親に「なんで自分を産んたんだ!」という怒りをぶつけるのと同じように思う。
元々心優しい悪魔は自分の不遇な状況からフランに復讐心を燃やし、一方のフランは悪魔

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『学問のすゝめ』書評



日本人に崇め奉られている一万円札の顔である人による有名な本にも関わらず、読んだことのある人はかなり少ないのではないだろうか。

17編にわたって主張とそれに関連する実例が書かれている。(構成はD.カーネギーの『人を動かす』と類似)

面白いのは、明治時代だけでなく現代にも通じる教訓がふんだんに述べられていること。福沢諭吉は何度も洋行しているため、ある意味で現代のグローバル社会に生きる我々と

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『葛飾北斎の本懐』書評



北斎の本懐以外にも代表的浮世絵絵師の説明や、浮世絵の歴史についても言及され、導入本としても使える。

日本では北斎人気はかなり遅く芽生え、彼の作品がなかなか重要文化財に登録されなかった歴史がそのことを物語っている。

それは北斎が形式張った作品を生み出さず、常に新たな作風へ挑戦する姿勢を生涯貫いたことが他の絵師に比べて異質なためだろうか。ある種、常軌を逸した者として評価することが容易で

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『思考の整理学』書評



全てには賛同できないが、参考になる箇所を二つ。

・メモ
僕は日常的などんな些細なことでも心動かされた事象は必ずメモっているが、見返す機会もないし、どれも有機的に結びつくことがなかった。本書では「メモを寝かせて発酵させたり、後にその中でも重要なメモを新しいノートにまとめる」という目新しい技は悩める僕の参考になった。

・読書マーカー
「本は借りるべきか買うべきか?」と「本の重要な示唆はどの

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『幸福について』書評



ショウペンハウアーは『読書について』に続いて2冊目。

これは巷に溢れた自己啓発本とは一線を画する。少しでも曲解すれば無為に孤独な人生を送ることにもなり得る、ある意味危険な本かも知れない...。

僕なりの解釈で超簡単にまとめると、「バカは群れをなすことで人生の退屈を紛らわせる一方で、教養人は精神的享楽を享受することで孤独を愛し、より幸福な人生を送ることができる。」

教養人は有象無象の群

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書評『犬は「ぴよ」と鳴いていた』



何気なく日常で使う擬音語・擬態語の歴史を紐解く。

最後にそれらを意識したのは、10年前に小学校で宮沢賢治の『やまなし』を扱った時だろうか。「くらむぼんはかぷかぷわらったよ」の「かぷかぷ」が今でも忘れられない。
馴染みのないこの擬態語ですら、未だに根強く記憶に残っている。

擬音語・擬態語の豊富さは日本特有であり、外国人がニュアンス含め完璧に理解することは困難を極めるだろう。しかし、我々日

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