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ぼんやりエッセイ

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たまにぼんやりと書いているエッセイまとめ
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なんだかんだお正月って特別感がある

なんだかんだお正月って特別感がある

年末年始の、ちょっと慌ただしくてふわっとした幸福感が好きだ。

毎年、もう12月?もうクリスマス?もう大晦日!!!!!?なんてやってしまう。
そして、進まない大掃除と束の間の冬休みがやってくる。
年越しそばを食べて、紅白を流し見して、23時30分くらいに外出の準備をする。
我が家は徒歩圏内に小さな神社があるので、年明けと共に初詣へ行くのが恒例だ。
今年は、いつもよりずいぶん暖かい気候だった。
手袋

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ひとりきりのバス

ひとりきりのバス

乗客が自分ひとりきりになったバスが、ちょっと好きだ。

どこか知らない場所へ、連れて行ってくれるような気がする。まるで、この世とは違う世界に繋がってしまいそうな怪談みがある。

だからつい、わくわくしてしまう。

実際は、降りたい停留所手前で「とまります」のボタンを押す。
そして荷物を持って、止まるのを待つ。

バスは私を異界へは連れていってくれない。

ただ、私の家の近くで降ろしてくれる。

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架空のもの

架空のもの

なんとなく、『架空のものにしか興味が無い』という時期がある。

本当に美しいものとか本当に素晴らしいものとか、どうしようもなく自分とは正反対に思えて全部が嫌になる。

それはたぶん、嫉妬や焦燥で。
でも、格好をつけて知らんぷりをしたい。

そんな、時期。

『架空のもの』は、本当のものよりも少しだけ優しい。

架空の唄をうたって
架空の声を聞き
架空の色を見て
架空の映画を作り
架空の自分が笑って

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きっと限りなく透明なのだと思う

きっと限りなく透明なのだと思う

愛ってなに?

それは『幸せってなに?』という質問と、良く似ている。

誰かを愛して、誰かに愛されて。
家族をつくり、子孫を残す。
ひとりではなくて、誰かのそばにいて。
そうやって過ごす。

そうじゃないと、幸せじゃないみたいな。
世の中のそんな雰囲気が、ただひたすらに苦しい。
 
溢れる人間の中から、たった1人を選ぶ。
そして、特別な愛を交わす。

そんな事、別にやりたくない。

私はそういう人

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夜の香り

夜の香り

季節ごとに違う香りがする、夜の香りが好きだ。

春は花たちの。
夏は緑たちの。
秋は果実たちの。
冬は枯れ木たちの。

夜は人も草木も、何もかもが眠っていて。
季節の香りが、一等強い。
私が孤独でも、私が役立たずでも、誰も気にしない、夜。
暗闇がぜんぶ包んでくれる。
だから、夜は優しい。
だから、夜は好きだ。

いつか夜の香りを纏ってみたい。

私は、夜が香る人でありたい。

最後の頁

最後の頁

本を読み終わる時、寂しくて泣いてしまいそうになる。

手の中に、大好きな世界があって。
私はその物語を追いかけて駆け回り、思い切り息を吸い込んで、そこに居るから。
それが、終わってしまう。
ずっとこのままでいたい。

そんな風に思う事が、何度もある。

恋人との、別れ際のような。
テーマパークから、帰る時のような。
素晴らしい夢から、醒めてしまうような。

その寂しさが、たまらなく嫌いで。
その寂

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朝と夜の隙間

朝と夜の隙間

眠れない夜。
午前4時過ぎ。
窓からうっすらと差し込む朝日。

夜が逝ってしまったと気付いて、絶望する。
その絶望を知って初めて、夜の優しさを知った。

特に、真夏の夜。
昼の暑さを和らげて、草木の匂いが強く薫る。
早々に輝き出す太陽は、希望のような色で私を照らすから。
隠してくれる宵闇が、たまらなく好き。

あの明るさに絶望した人間は哀しい優しさを知っていて、朝と夜の隙間に絶望がある事を一生忘れ

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桜が散るのを待ちわびる

桜が散るのを待ちわびる

私は毎年、桜が散るのを楽しみにしている。

いつの間にか、満開の桜よりも散っている姿の桜の方が好きだった。

満開の桜は愛らしいが、散ってゆく桜は美しい。
満開の桜はそっぽを向いているが、散ってゆく桜はこちらを向いている。

桜が綻んだのを見て、すぐにその終わりに期待をしてしまう。

あたたかくて沢山の花が咲き、良い香りで溢れる春。
春が優しいのは、冬を弔っているからだと思う。
花が咲く前に訪れた

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地元への愛と情

地元への愛と情

地元愛ってやつが、私には無い。

私は生まれてからずっと同じ家で過ごしている。
生まれ育ったこの町は、凄く田舎でもないし凄く都会でもない。

倉庫とコンクリート工場、田んぼに畦道が少し。
幾つかの川に囲まれていて、幾つかの鉄塔があって、都会に出るのは簡単な、そんな町。

残土を運ぶトラックと並んで砂埃の中を学校へ通い、申し訳程度の植物と狭くも広くもない空を見て育った。

友人は居るけれど、ほとんど

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人生の椅子

人生の椅子

『私はその日人生に、椅子を失くした。』
(「港市の秋」/中原中也)

この詩を初めて読んだ日を、よく覚えている。
ああ、私もそうだと思って途方に暮れたから。

ここ最近は、いつもそうだ。

ここに居たいのか居たくないのか、自分でもよく分からない。

家族の輪、友人の輪、社会の輪。

どこにも、私が安心して座る椅子が無い。
核心ではないけれど、そんな気分だ。
どの輪の中も、悪くは無い。
だけど、椅子

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部屋

部屋

ものが溢れた部屋は安心する。

いや、嘘だ。

どこかに、得体の知れないものが紛れているかもしれない。
必要なものがどこにあるか分からない。
何も、ままならない感じ。

そう思うと、途端に不安になる。

でも、本当に必要なものって?
なに?

何よりも必要無いのは、自分自身であるような気がする。

誤魔化すように、床に鞄を放り投げた。
机の上に、時計や指輪やイヤリングを置く。
ハンガーに掛け損ねた

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美容室

美容室

髪を切った日は、生まれ変わったような感じがする。

鋏が刻む音や、人が動く音を聞くのが好きだ。
ドライヤーの風も、適度なお湯の温度も。

美容室の音と空気が、好きだ。

真っ黒で量が多くて少し癖のある生え方をしている、私の髪。
美容室では、その話題でよく美容師さんと盛り上がる。

床に散らばる切り離された髪の毛は、ショートカットからショートカットへ切ったのにロング並みの量。

絶対ひとり分の量じゃ

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贈り物

贈り物

形に残るものが好きだ。

贈り物の、形に残る部分が好き。
食べたり使ったりして無くなってしまうものは、少しだけ寂しい。
だからつい、残してしまう。

綺麗な包装紙やシール、クッキーの空き缶、花を束ねていたリボン。

たぶん、目に見えると安心するから。
誰かと繋がるという事は、信じることに似ている。
愛するという事も、そうではないだろうか。

私は、形に無いものを信じる気があまり無い。

だから、目

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