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【映画エッセイ小説】~夢のミニシアターへようこそ~ 第2話 旅する女
「ええと、悩みを相談できる映画館はこちらですか?」
平日の夜。チケット売り場に立っていると、40歳過ぎくらいの女性からいきなりそう尋ねられた。あれれ、いつからそんな話になったのだろう。でも、わがミニシアター「アルケミイ・シネマ」が評判になるのは喜ばしいことだ、と思い直して、光田影一郎(こうだ・えいいちろう)はこう答えた。
「相談というか、映画が終わった後にお客様と語り合う時間を設けておりますの
【映画エッセイ小説】心に寄りそう映画館 ~夢のミニシアターへようこそ~
――小さな映画館、「アルケミイ・シネマ」へようこそ。ここはその名のとおり、都会の中の小さなオアシス。映画マニアの私こと光田影一郎(こうだえいいちろう)が、ひとりで経営しているマイクロミニシアターです。
今はデジタル化のおかげで、スクリーンと、プロジェクターと、スピーカーがあれば、まるでカフェを開業するように映画館を開業できる時代になりました。
映画館で『ジョーズ』や『スターウォーズ』を観て、す
ラジオでエッセイが読まれました。
J-WAVE他で週末に放送されている「ライフタイムブルース」。リスナーが投稿した「真実の物語」を俳優のオダギリジョーさんが朗読するラジオ番組です。お気に入りの番組で、毎週楽しみに聴いています。
投稿してから約2カ月、てっきりボツになったものと思っていましたが、自分が書いた文章をプロの俳優さんが朗読してくれるなんて、すごく特別な気分になれてとてもうれしかったです。
4つめの話です💛
タイトル
気がつけばデジタルネイティブ
会社員でよかったことといえば、パソコンスキルをがっつり身につけられたことだろうか。
私がパソコンと初めて出会ったのは新卒で入った会社で、電話回線を使って得意先から伝票が送られてきたときだ。システム室のプリンターから伝票が次々とプリントアウトされるのを不思議な目で見ていた。そのプリンターにつながっているパソコンの画面は黒かった。DOS画面というやつか。そして、モデムという言葉を初めて知った。
そ
おじいさん、ありがとう。
土曜日のお昼前、在宅仕事の息抜きに、ふらりと散歩に出かけときのこと。自宅近くで、携帯電話を手にしたおじいさんから突然声をかけられた。
「代わりに電話に出てもらえませんか?」
えっ、どういうこと!? 突然のことで事情がのみ込めなかったが、切羽詰まったおじいさんの様子を見て、私は思わず電話を手に取った。
「もしもし、お電話代わりました。通りすがりの者ですが――」
電話のむこうの相手は一瞬びっくり
古い映画に魅せられて
「『旅情』っていう映画知ってる? あの映画を観てからずっと、いつかヴェネチアに行ってみたいと思ってた」
「知ってるよ」。母に向かって私は答えた。キャサリン・ヘプバーン主演のロマンス映画の名作。ヴェネチアの運河に落っこちたりするキャサリンのコミカルな演技が楽しくて、恋愛映画はあまり見ない私も、この映画はお気に入りだ。
しかし母は娘の返答なんてもうそっちのけだ。映画で見た水の都が、いま現実の風景と
サンドイッチのお弁当
中高年なんて言われる年になると若さが恋しくなることもあるけれど、多くの人にとって、思春期は長く暗いトンネルだったのではないだろうか。
思春期の私は、数年に一度は激しい体調不良に襲われ、ぶっ倒れて家族を心配させた。体に力が入らなくなりゲーゲー吐いて、病院に向かうタクシーの中でも吐き気が止まらなくて運転手さんに嫌な顔をされ、病院の待合室でも座っていることができなくて、ベンチにぐったり横たわっていた。