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ことばと音楽

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日々の出来事と好きな音楽が絡んだ記事や、曲を基に書いた小説をまとめています。
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#音楽

綻びのなかにも糸口を

綻びのなかにも糸口を

疲れているとき、決まって聴く曲がいくつかある。

ひとしずく×やま△さんの「祝福のメシアとアイの塔」もその一つで、以前この曲をもとに小説も書いたことがあるほどだ。

仕事始め早々、イレギュラー対応が複数あった上に慣れない業務の担当が重なって疲れていたわたしは、今日もYouTubeでこの曲を聴いていた。

曲が終わり、ブラウザの戻るボタンを押すと、見たことのなかった動画のサムネイルがふと目に入る。

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言えないことばは旋律にのせて

言えないことばは旋律にのせて

わたしは喜怒哀楽をはっきりと表せる性格ではない。

特に人に対して「怒り」を表現するのがとても苦手で、耐えきれなくて表現しようとするととても不器用なやり方になるし、
それが自分でもすごく嫌だから、余程腹に据えかねない限りは、まるで怒りなんて感じていないかのように笑ってごまかしてしまう。

———それでも、わたしも人間だから、傷つくときは傷つくし、怒るときは怒る。
上手に態度に出すことができないだけ

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【音楽×小説】青春のリグレット

【音楽×小説】青春のリグレット

「ちょっとお母さん!
この隣に写ってる男の人、誰!?」

夕食後、部屋に篭っていたかと思えば突然バタバタと出てきた娘の手にあったのは、私の若い頃の写真だった。

「………あんた、こんな昔の写真どこから引っ張り出してきたの」

「部屋で探し物してたら押し入れから出てきた!
それより誰この人!?超イケメンじゃん!」

「………お母さんが昔お付き合いしてた人」

しまった私でさえどこにあるのか、いや、し

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【音楽×小説】花人局(はなもたせ)

【音楽×小説】花人局(はなもたせ)

目が覚めると、隣には誰もいなかった。
まるで、昨日の夜まで彼女がそこにいたことそのものが嘘だったかのようだ。

二日酔いで痛む頭を押さえつつフラフラと立ち上がると、水を飲もうとキッチンへ向かう。

洗って干したままのグラスを取り、ふと顔を上げると、ラベンダーが一輪、小瓶に挿してあるのが目に留まった。

………彼女の好きだった花だ。

グラスに水を注ぎ、ソファに腰掛ければ、そこには編みかけのマフラー

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【音楽×小説】祝福のメシアとアイの塔

【音楽×小説】祝福のメシアとアイの塔

———なんということだろう。

人が神の怒りに触れたその時から、世界を保つために15年ごとに繰り返されるこの儀式。

あの子が、救世主に選ばれてしまうなんて。

「……絶対に、あの子を独りではいかせない。  皆、いいね?」

村の長としてこれまで私たちを引っ張ってきた彼の言葉に、私たちは何の迷いもなく頷く。

みんな一緒なら、恐れるものはなにもないから。
あの子と共に、私たちも塔へ連れ立とう。

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【音楽×小説】この夜を止めてよ

【音楽×小説】この夜を止めてよ

目が覚めた時、彼は既に隣にはいなくて、私は独りで朝を迎えた。
窓から差し込む日差しが、私を容赦なく照りつける。

夜が夜のまま止まればいい、時間なんて過ぎなければいい。
そんな風に願っても、それが現実になる訳はなくて、だけどそれが悲しくて。
涙が一筋、頬を伝った。

———私たちの関係は、許されたものではなかった。
最初は、大きなその背中を見つめていられるだけで幸せだったのに。

甘い過去の記憶も

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ほら、君も一緒に歌おうよ。

ほら、君も一緒に歌おうよ。

Goose houseの動画を初めて見たのは、体調が悪くてベッドで横になっている時でした。

ゴロゴロしながら見ていたYoutubeのおすすめ欄で見つけて見てみると、楽器を片手に楽しそうに歌う彼らがいて。
「僕たち、私たち、音楽が大好きなんです!」って全身で表現しているような、見ているこちらもつられて歌いたくなるような。

何本か見ているうちに、彼らのうきうき、わくわくした感じがわたしにも伝染して

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【音楽×小説】モラルの葬式

【音楽×小説】モラルの葬式

「だから、【モラル】は殺されたんだよ」

———私の隣に座った【プライド】は、耳を疑うような言葉を放った。

「………殺されたって、誰に……?」

「決まってるだろ。
………この世の中に、だよ」

***

【モラル】が亡くなった。
この世界が回る上で必要不可欠だった彼の死は大きな波紋を呼び、彼を弔うために開かれた葬式には、最後の別れを告げようと多くの人々が訪れた。

呆然とした様子で前列に座る【

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【音楽×小説】オワリはじまり

【音楽×小説】オワリはじまり

他の学年は10人以上の部員がいる中、わたしたちの学年はたった9人だった。

最終学年、3年生になってからは、9人で団結して20人以上はいる後輩たちを引っ張りながら駆け抜けてきたのだ。

———だけど、それも今日で最後。
この文化祭のステージを最後に、わたしたち9人は合唱部を引退する。

ステージの締めは、3年生だけで歌う曲目だ。
活動の集大成にわたしたちが選んだのは、かりゆし58の「オワリはじまり

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歌ったり奏でたり聴いたりするだけが音楽じゃないのかもしれない。

歌ったり奏でたり聴いたりするだけが音楽じゃないのかもしれない。

わたしは、大学2年生の頃から社会人合唱団に入っている。

大学4年生の時は就活と卒論に専念したくて1年休んでいたし、社会人になってケータイショップのスタッフとして働いていた時は、毎日何時に帰れるか分からないような状況で練習に参加できていなかったし、転職したと同時にコロナウイルスが蔓延し始めたせいで、あんまり活動できていないけれど。

そんな合唱団での活動は、緊急事態宣言が出ると解除されるまでミーテ

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【音楽×小説】Be my last

【音楽×小説】Be my last

私の「生涯最後の恋人」がこの人だったらと、どれほど願っただろう。

「私たち、別れよう」

「………え、何で急にそんなこと……」

「私が“悪魔”で、君が“天使”だから」

「っ、そんなこと、今に始まったことじゃ……!」

「私、知ってるんだからね?
私と君の関係が続いてることが周りにバレ始めてて、君が天界で後ろ指さされてることも、下手したら大天使たちに申告されそうなことも」

「………だって、君

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【音楽×小説】LITMUS

【音楽×小説】LITMUS

想い人と結ばれ、心も身体も一つになる。
自分にそんな日が来るなんて、夢にも思っていなかった。

「……ネラ、起きていたのか」
「えぇ、ヴァイス様」
「こら、今は様付けで呼ぶな。
今は、俺の恋人、だろう?」

「……そうね、ヴァイス」

だって私は、世界で最も愛しいこの人を殺めるために遣わされた暗殺者なのだから。

——この国で多大な権力を持つ貴族の一つであるリュミエール家。
私はこの家に仕えるメイ

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「あの日踏み出して 初めて感じたこの痛みも全部」

「あの日踏み出して 初めて感じたこの痛みも全部」

ペーパードライバーズ講習を受けること3回。
ついに昨日、初めてのマイカーを納車した。

ほんの少し前まで車の運転なんて考えられなかった自分が嘘みたいに、アクセルを踏む怖さが消えていって、右左折や車線変更も拙いながらもできるようになって、駐車も少しずつできるようになってきて。
ハンドルを握る度、できることが増えていくのが心底楽しかった。世界が一気に広がったように感じた。

———だけど。
交通安全祈

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「でもその中で願ってるのさ」

「でもその中で願ってるのさ」

週に3回は8時間授業、月に3回は土曜日も登校、長期休暇の前後1週間は「補習」という名目で全員6時間授業。
そして果てしない量の課題、課題、課題。

先輩方が口を揃えて「ここはブラック企業だ」と言うような学校に通っていた高校時代、過酷な学校生活を生き延びる為、自分を奮い立たせようとよく聴いていた曲があった。

踊りながら
羽ばたく為のステージで 這いつくばっていても
踊らされてるのも 随分前から分か

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