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お気に入りの記事をまとめています。勝手に追加させて貰っているので、外して欲しい方はご連絡下さいね。
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#小説

【ピリカ文庫】可逆性セレナーデ弍號機

【ピリカ文庫】可逆性セレナーデ弍號機

深夜だと言うのに、コインランドリーには人がいた。

四車線の大通りに面したガラス張りの店内、中央のベンチに女性が一人座っている。洗濯が終わるのを待っているのだろう、傍らに大きな袋を置き、スマートフォンで動画を見ているようだった。

この時間なら誰もいない、と高を括っていたところ、失敗した。今から他の店舗に行こうにも、時間がかかる。何より外は雨。入ってきた扉側、無数の水滴が張り付いた全面ガラスを見や

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【詩】Surviver

【詩】Surviver

端正な佇まい
口を揃えて
優しそう

あなたを心から
信じたのは
信じることに
間違いはないと
思ったから

実際それでよかった
濡れて甘い時間は
消えることなく続き

一歩足を出すたびに
すでに用意された幸せが
そこにある

隙間がないほど
バスタブにある
溢れる喜びのミルク色

時よ
止まれ

極上の幸せを手放す時が
来るなんて思わず
ただ怖かった

あなたが私を忘れて
去ってしまって
どれだ

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【短編】SEVENTH HEAVEN⑤ -一つ目-

【短編】SEVENTH HEAVEN⑤ -一つ目-

始まりは、母を祝う。子種を宿し、育て生む大地を讃える。
次に、父を祝う。子種をもたらす、雨の恵みに感謝を捧げ。
さらには祖と裔。受け継ぐ過去と、続く未来を想い、尊ぶ。
そして己。此処で鳴る心臓、脈打つ命、巡る心を是と捉え。
最後に祝うは、それら全てを創りし神。世の理を統べる者。

祓いをこの世の禊と捉え、穢れなき世界、それを象る者たちを祝福する。

「それが、祝詞」

あの子の声で、七代目が言う。

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【短編】SEVENTH HEAVEN④ -出鱈目-

【短編】SEVENTH HEAVEN④ -出鱈目-

桜色のワンピースが似合う、そんな女の子になりたかった。

髪を伸ばし、可愛いもので身を固め。ふわふわのシュシュや、パールピンクのネックレス。爪もリップも艶々にして、明るい色をほんのり添えたい。

しかし、違った。生まれ持った私の素地に当てがわれたのは、寒色系のボーイッシュ。柔らかく華やかなものよりは、強く凛々しくが似合うらしい。
純血の祓い師という立ち位置も相まって、私のそうした印象は過度に演出さ

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掌編小説 | 梅の花 | シロクマ文芸部 

掌編小説 | 梅の花 | シロクマ文芸部 

 梅の花がいいと言ったら、渋いねと言った。その女は、オフショルダーのカットソーを着ていた。肌には、背中から肩へ這い上がってきたような格好のヘビが彫られている。悪戯な表情のヘビは、もう少しで彼女の鎖骨を丸呑みしそうだ。
 「テスって呼んで。ヘビじゃなくて、アタシのこと」そう言って笑った。外人の男の子のような顔。色白で、後ろを刈り上げた金髪のショートヘアがよく似合う。
 テスに、わたしはタトゥー入れそ

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SS【未練】#シロクマ文芸部

SS【未練】#シロクマ文芸部

お題「詩と暮らす」から始まる物語

【未練】(1088文字)

 詩と暮らすからには小説とは手を切らなくてはいけない。

「そこまで頑なにならなくてもいいんじゃない?」
 お気楽ポエマーのみどりちゃんはそんなことを言うけれど、これまで小説と関わったこともないみどりちゃんに私の気持ちがわかるはずがない。
「二股かけるわけにはいかないわ。私の気持ちがすっきりしないの」
「そんなにいい詩なんだ?」
 み

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【詩】刷り込み

【詩】刷り込み

思い出した
すっかり忘れていたのに
あなたはこんな風だった

きれいごとの言葉の中に
釘やらガラスの破片やら
折れたナイフを入れ込んで
知らんぷりをする

自分の否を指を折って数えても
そこに答えはなくて

気まぐれに振り回されて
落ち込むのはこっちの方

あなたの優しさは自分に帰属してるもの
すっかりあなたは優しいと思い込んでた

思い出せばあなたは元々そんな風

あなたの傷を私が必死で癒して

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【詩】忘れたとしても

【詩】忘れたとしても

結んだ手と手

どうして今になって
こんな小さなことが
大事だなんて

懐かしい夏の香り
遠い面影の湿り気のある空気
木陰のタオル
汗を拭く
母さんに渡される
ペットボトル

母さんのしてくれていたこと

出来ないながらに
台所での母さん
ウロウロと
落ち着かないのは
何かを作りたいから

砂の山が崩れていくように
普通の生活が崩れていく

大事な思い出と
消えていく思い出

二人で歌う好きだった

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【詩】幸福の報酬

【詩】幸福の報酬

どうにかがんばって
突っ走ってきた
得たいものは得られる

がむしゃらの先にある
それ相応の報酬
それ相応の暮らし

脈絡のない意識の高さで
なんとか這い上がった

戻ることを許さない
そこまできた

それでもカップに入った
虹色の液体は一向に
一杯にならない

入れても入れても
こぼれることもなく
ただ溜まらない

幸福は報酬に比例するはずだった

欲しいものは一通りある

それなのに幸福だけが

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わがままを聞いていただきました。

わがままを聞いていただきました。

ちっちです。

前回の日曜日、こんな記事を投稿しました。

その中で、あるお願いをしてみました。
それは、
描いたイラストにストーリーをつけていただけないか
というもの。

ふふふ。
詳しい事情は上の記事に書きましたが、なかなか無茶苦茶なお願いです。ダメ元というやつです。

しかし!
なんと投稿した当日に嬉しいお声掛けがあったのです!
それもなんと既に出来上がっているとのこと!汗

嬉しいを通り越

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【詩】Prayer

【詩】Prayer

痛いのは誰かの手首の傷
日ごと出るあの日の憂い話
舐めあう傷の生暖かさ
ではない

漆黒の闇からの手の多さ
逃げるために
後ずさりする

笑いながら地上から去れ
と手首をつかむように
毎日頭の中で
聞きたくない言葉が
響き渡る

否定的な言葉に
剣を持って
泣きながら戦う
誰にも言わず

毎日毎日
ここにいる
ここにいると
繰り返す

隣で微笑んでいる人に
漆黒の話をするのは
辛すぎる

どうぞど

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【詩】優しすぎる

【詩】優しすぎる

僕の歩いてきた道
自分の自信のなさが
いつも隣にいて
褒められれば褒められるほど
委縮してしまう

何もかもうまくいっているように見え
壊れているとこなんてどこにもなく
顔も悪くない 頭も悪くない
性格も悪くない 全てに
どこも責められることはない

皆は知らない
僕がこんなに自信がないこと

人ごみに行くと倒れそうになる
顔色を自然と見て
雑然とした出来事は
僕を追い詰める

それでも平静を保っ

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変化する目をもつ少年の話

変化する目をもつ少年の話

【変化する目を持つ少年の話】

目の色を変化さられると気付いたのは、まだおれが十歳にも満たない頃だった。
無邪気にその時の友人たちに、それをみせた。
普段薄い茶色の自分の目を、その時は氷のように半透明にして見せた。
友人たちは驚き、歓声をあげた。
そのことに気分を良くし、その後も頼まれるままに友人たちの前でそれを見せた。
ある時は炎のように赤の奥にオレンジが揺れる目にし、またある時は深い海の底のよ

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「変化する目をもつ少年の話 雪が見たい編」

私の夢で放映されたお話。

これを気に入ってくださった方に、続編は、と言っていただいたのを喜んで、書きました。
それでは、どうぞ。

転校生が雪を見たいと言った。

彼の目は素直で、その言葉はただただ感情が溢れたままにおれに届いた。
休み時間、転校生は必ずまわりをクラスメイトに囲まれる。
その中にはクラスのなかで目立つ男子のグループもいて、
彼はその中に入ってもまったく屈託がなかった。
今まで、ど

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