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【詩】忘れたとしても

結んだ手と手

どうして今になって
こんな小さなことが
大事だなんて


懐かしい夏の香り
遠い面影の湿り気のある空気
木陰のタオル
汗を拭く
母さんに渡される
ペットボトル


母さんのしてくれていたこと


出来ないながらに
台所での母さん
ウロウロと
落ち着かないのは
何かを作りたいから


砂の山が崩れていくように
普通の生活が崩れていく


大事な思い出と
消えていく思い出


二人で歌う好きだった歌
間違えもせず
楽しそうに歌う


母さん
今日はいい日だ
一緒に歌が歌えた


いい歌ね


母さんが好きな歌だよ


窓から見える
風に揺れる青葉

黙って二人で見つめる


母さんの思い出
段々消えてゆく
色彩たち


消えるのは表情だけでなく
欠けてゆくのは
感触の数々


今さら
後悔はしたくない
たとえ僕が母さんの
記憶から失われようとも


きれいごとではない
事実は虚ろな目の中にある


母さん
僕を忘れたとしても



握りしめる手






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