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展覧会レポ:青森県立美術館「AOMORI GOKAN アートフェス2024 前期 コレクション展」ほか

【約5,200文字、写真約60枚】
青森県の美術館巡りの一環で、青森県立美術館「AOMORI GOKAN アートフェス2024 前期 コレクション展」に行きました。その感想を書きます。

結論から言うと、青森県民もそうでない人も、是非とも行くべき美術館だと思いました。それは主に、1)大自然と共生するハイセンスな建築、2)シャガールの巨大すぎる作品を設置した「アレコホール」が圧巻、3)充実した奈良美智のコレクションによります。

企画展に行かなくとも、コレクション展で十分に楽しむことができました。なお、一部のシャガール作品は2027年までの展示のようです。早めの訪問をおすすめします!

展覧会名:AOMORI GOKAN アートフェス2024 前期 コレクション展
場所:青森県立美術館
おすすめ度:★★★★★
会話できる度:★★★☆☆
混み具合:★★★☆☆
会期:2024年2月10日(土)~6月23日(日)
休館日:毎月第2・第4月曜
開館時間: 9:30 – 17:00
住所:青森市安田字近野185
アクセス:新青森駅からバスで約10分
入場料(一般):900円
事前予約:ー
展覧所要時間:サクッと見て1時間
展覧撮影:全て可能
URL:https://www.aomori-museum.jp/schedule/13363/ 


▶︎訪問のきっかけ

青森の美術館巡りの一環として、弘前れんが倉庫美術館の後、青森県立美術館に行きました。現代アートが好きな私にとって、いろんなメディアに登場する青森県立美術館は、死ぬまでに行きたい美術館の一つでした。

▶︎美術館へのアクセス

巡回バスのねぶたん号

青森県立美術館は新青森駅からバスで約10分。バスは、土日祝は30分に1本、平日は1時間に1本の間隔で出ています(ねぶたん号:片道300円)。時間を調節する場合は、新青森駅内にカフェがあるため、時間を潰せます。

時刻表(新青森駅→青森県立美術館)
新青森駅→青森県立美術館→新青森駅とくるくる巡回しています
サイネージに行き先表示があると安心

青森県の美術館巡りをしていて、最も注意が必要だと感じたのは、電車・バスに乗る時間管理でした。新青森駅から青森駅の乗車時間は約5分です。しかし!電車は約1時間に1本しかないことに加え、バスも30分〜1時間に1本しかありません(場所によっては数時間に1本😨)。

そのため、1日で複数の離れた場所を巡る場合、いかにタイミングよく電車・バスに乗る計画を事前に立てることが重要だと痛感しました。

青森県立美術館→新青森駅のバス停
時刻表(青森県立美術館→新青森駅)
時刻表(青森県立美術館→青森駅)

住所:青森市安田字近野185

▶︎青森県立美術館とは

チケット

青森県の豊かな自然や美術館に隣接する日本最大級の縄文集落跡・三内丸山遺跡に埋蔵された縄文のエネルギーを糧に、強烈な個性によって創造の最前線を切り拓いてきた青森県のアーティストたちの心を未来につなぎ、既成の価値観を超えた多様性豊かな芸術を発見・保全・創造するための活動を展開しています。

公式サイトより

青森県立美術館は、2006年7月にオープン。三内丸山遺跡の真横に位置します。メインの所蔵作品は、棟方志功や奈良美智など、青森県を郷土とする作家たちの作品です。もちろん、海外を含めた青森県以外の作家の作品も所蔵しています。

外看板
美術館の形が独特のため全体を撮りづらい

独特な建築は、青木淳氏によるもの。美術館に隣接する三内丸山遺跡の発掘現場のトレンチから着想を得て、地面が幾何学的に切り込まれているそうです。

これが「トレンチ」というらしい(画像引用
トレンチ」っぽさが伝わる?(画像引用

▼青木淳氏の建築による「エスパス ルイ・ヴィトン東京」の展覧会

また、青木淳氏は京都市京セラ美術館の改修を手掛け、現在は館長も務めているそうです。

地元の方も公園として憩ってます
座りたくなる柔らかベンチ
入り口が計7つもある

建物全体が、とても複雑な構造でした。まず、外からの入り口が計7つもある!いきなり戸惑いました。また、展覧会場に行く動線が、地上1階→地下2階→地下1階→地下2階→地上1階と複雑です。それぞれのフロアは、1フロアがべたーっとあるわけではなく、階層ぶち抜きのホワイトボックス空間があるなど、まるでダンジョンのような感覚をもちました。

そのように地下に進む構造になっていることにより、来場者に遺跡発掘のような感覚を伝えているのかな、と感じました。

夜はネオンが青く光る。青い木がたくさんあるから「青森」だそう(ダジャレか?
青木淳《りんご箱のはらっぱ》
裏は作りかけのような様子になっている。木箱の良い香りがする

▶︎AOMORI GOKAN アートフェス2024 前期 コレクション展

コレクション展の入り口。すでに巨大な何かが見える

この日は、コレクション展のほかに企画展「フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」も実施していました。しかし、私は時間が十分にないため、コレクション展のみを鑑賞しました。

企画展チケットも買うか悩みましたが、結局、買わずで正解でした。コレクション展を鑑賞するだけで想定以上に時間がかかってしまったし、バスの本数も少ないため、振り返れば、企画展を見る時間がなかったです。

✔️マルク・シャガールによるバレエ「アレコ」の舞台背景画

巨大すぎる「アレコホール」

コレクション展の最初の部屋が、縦・横21m、高さ19m、四層吹き抜けの大空間となっている「アレコホール」です。

この部屋には、全4点から成るバレエ「アレコ」の舞台背景画が展示されています。1、2、4幕は1994年に青森県が購入、3幕はフィラデルフィア美術館から2027年までレンタル中です。

マルク・シャガール《バレエ「アレコ」舞台背景画 第1幕 月光のアレコとゼンフィラ》
:8.8m x 14.7mもある巨大な作品に圧倒
1幕の全景
マルク・シャガール《バレエ「アレコ」舞台背景画 第2幕 カーニヴァル》
:バイオリンを持つ熊がユーモラス

ただただ「大きいって単純にすごい!」と圧倒されました。どの作品も約9m x 約15mと巨大です。私のいつも使っている単焦点レンズでは全く収まりませんでした。こんなに広い空間に、こんなに巨大な作品を見たのは初めてかもしれません。青森県立美術館で最も印象に残った作品群でした。

マルク・シャガール《バレエ「アレコ』舞台背景画 第3幕 ある夏の午後の麦畑》
※フィラデルフィア美術館所蔵から2027年までレンタル中
マルク・シャガール《バレエ「アレコ」舞台背景画 第4幕 サンクトペテルブルクの幻想》

ロシア生まれのユダヤ人であるシャガールが、ナチス・ドイツから逃れた亡命先のアメリカで制作に取り組んだロシアの作曲家によるバレエの背景画です。祖国に対する思いがヒシヒシと伝わってくる作品でした。

✔️奈良美智:Harmlos sein 純粋なるもの

展覧会の様子

奈良美智よしとも氏は、1959年に青森県弘前市生まれ。その後、青森県立弘前高等学校卒業、愛知県立芸術大学に進みます。青森県立美術館は、奈良美智氏の作品を170以上所蔵しています。

奈良美智氏の希望により全て撮影可能。
美術館側が、撮影許可の背景まで詳しく書いている意図は何だろう?
奈良美智《1, 2, 3, 4! It's everything! (Aomori Version)》
奈良美智《Lampflowers》
左:《Untitled》右:《Stand By Me》
奈良美智《Last Right》

私が奈良美智氏の作品をまとめて見るのは、横浜美術館(2012年)の展覧会依頼かもしれません。個別に見るよりも、まとめて作品群を見た方が、アーティストの世界観がよく伝わってくると思いました。

「奈良美智:君や僕にちょっと似ている」@横浜美術館(2012年7月撮影)

奈良美智氏の絵画を見る機会はありますが、立体物はあまり見たことがありませんでした。彼の作品は、反戦などの思いから怒っている顔も多いです。しかし、見ていると、不思議と心が落ち着いたり、和らぐことができます。来場者もみな、笑顔になって鑑賞している様子が印象的でした。

奈良美智《Fountain of Life》
奈良美智《アオモリ・ヒュッテ1》
奈良美智《あおもり犬》
巨大!
《あおもり犬》のスペースに入れる期間は、私が訪問した約10日後の4月23日(火)から雪が積もり始めるまで、とのこと。残念!

奈良美智氏の展示に限ったことではありませんが、県立の美術館にしては、建築、所蔵作品、キュレーションのセンスが抜群だと思いました。企画展に行かなくとも、コレクション展だけでも十分に満足できました。

奈良美智《HULA HULA GARDEN》
:中を覗くと…
かわいいお花畑

✔️棟方志功:交友から生まれたコレクション -棟方とコレクター-

棟方志功展示室
奈良美智と同様の注意書き。遺族のご意向で撮影可能とのこと

棟方志功むなかたしこうは、1903年、青森市生まれの板画家です。東京国立近代美術館で「生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ」(2023年)を見に行った方の感想をnoteで散見し、記憶に残っています。

棟方志功氏が亡くなった1975年、青森市に約2,000点を所蔵する棟方志功記念館が開館しました。しかし、つい最近(2024年3月31日)、記念館はコロナによる財政難、施設の老朽化などにより閉館となりました。

記念館の閉館後、収蔵している作品はすべて青森県立美術館で保管され、2024年7月からこの展示室の拡張が予定されているそうです。

棟方志功《大和し美し》
:棟方志功といえば、文字びっしりなイメージ
棟方志功《鷲栖図》
:2日で描き上げたらしい
棟方志功《両妃飛天図》

青森県立美術館は、使っている什器がどれもおしゃれでセンスがあると思いました。また、椅子がたくさんあることで、ゆったりと鑑賞できます。青森県立美術館は、大自然と共生・一体化していることに加え、景色も良くて気持ちが良いため、1日過ごせる美術館だと思いました。

椅子が随所にあって助かる
棟方志功と言えば『モチモチの木』だよね!と思ったら、滝平二郎でした

✔️美術館堆肥化宣言

県立美術館が地域の文化を「肥やす」べく、アーティストらとの協働のもと県内各地の魅力を発掘・発信した「美術館堆肥化計画」。(略)自分なりのやり方で地域を耕す人びとを「堆肥者」として一律に捉え、彼らの実践の「いま」を館コレクションや関連企画を交えて紹介します。(略)ここに自らの「生の下支え構造リビング・インフラ」への転化・拡充を宣言する。やるなら今しかねぇ。軒を借りて母屋をのっとれ。Just do it now

公式サイトより

「美術館堆肥化宣言」と題したアート・プロジェクトをベースにしたコレクション展。正直な感想は「微妙Not Really…」という感じでした。

イタズラ・ヌーマン《堆肥管》

青森県五所川原市出身の工藤哲巳てつみの作品も展示されていました(撮影不可)。工藤哲巳らしいドキッとする作品のため、ファミリーやカップルがあの作品を見たらどのような空気になるのか、怖いもの見たさが込み上げてきました…。

「あなたの肖像―工藤哲巳回顧展」@東京国立近代美術館(2014年2月撮影)

✔️その他展示

井田大介《Synoptes》

「AOMORI GOKAN アートフェス 2024 かさなりとまじわり」として、エントランスギャラリーに展示している作品。目玉がギョロギョロ動く仕様で、いい意味で不気味です。近くにいた男性が「置いてもいいけど、エントランスに置くものじゃないよね」と苦笑していました。私も「ははは、確かに…」と思ってしまいました。

入場して早々、みんな釘付け
八角堂へ

美術館の離れに八角堂があります。この中には、奈良美智氏《森の子》1点が展示されています。周りを重厚なコンクリート、れんがに囲まれており、何やら宗教的な施設のような印象を受けました。

外からニョキっと角が見える
奈良美智《森の子》

なお「コミュニティギャラリー」にも展示品があったようです(全然気付きませんでした😨)。明確な看板を立てるなどして誘導していただきたいです。

▶︎まとめ

買ったポストカード

いかがだったでしょうか?交通の便は悪いものの、大自然と一体となった美術館には、1日過ごしたい開放感があります。特徴的でセンスある建築は、2006年にオープンしたとは思えない現代的なセンスを感じました。

また、コレクション展だけでも十分に満足でした。特に、シャガールの巨大作品に圧倒されるアレコホールがお気に入りです。奈良美智氏の作品群もステキでした。青森県民だけでなく、青森旅行に来た際は、マストで寄るべき場所だと思いました。

▶︎今日の美術館飯

★3.2/魚っ喰いの田 新青森駅店 (青森県/新青森駅) - 魚っ喰いの海鮮丼 (¥1,400)

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