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展覧会レポ:世田谷美術館「倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙」

【約3,200文字、写真約30枚】
世田谷美術館で開催された「倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙」を鑑賞しました。その感想を書きます。

※この展覧会は既に終了しています。なお、富山県美術館(2月17日〜4月7日)、京都国立近代美術館(6月11日~8月18日)で巡回予定。

結論から言うと「普通」でした。倉俣氏の作品が約200点も展示されることで、作品や倉俣氏の考えの変遷を紐解くことができました。一方で、スペースの割に作品数が多すぎると感じたこと、倉俣氏の人物像によりフォーカスした方が、多くの示唆が得られると感じました。

レストランへの通路が美しい。日差しが通路をちょうど半分にしていた

展覧会名:倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙
場所:世田谷美術館
おすすめ度:★★★☆☆
会話できる度:★★★☆☆
ベビーカー:ー
会期:2023.11.18 - 01.28
休館日:毎週月曜日
住所:東京都世田谷区砧公園1−2
アクセス:用賀駅から徒歩約20分
入場料(一般):1,200円
事前予約:ー
展覧所要時間:約1時間
混み具合:ほぼストレスなし
展覧撮影:1部屋目(椅子4脚のみ)可能
URL:https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00216


入場券の売場

▶︎訪問のきっかけ

用賀駅から歩いて美術館に行く途中の案内板

訪問のきっかけは、1)NHKの日曜美術館で特集を見て、倉俣史朗に現代アート的な感性に興味をもったこと、2)埼玉県立近代美術館(2013年8月)大阪中之島美術館(2022年2月)で「ミス・ブランチ」を見たことがあったこと、3)藤原ヒロシ氏がモンクレールの企画でこの展覧会に訪れていたことです。

▼以前に私が訪問した世田谷美術館の展覧会

「浮遊するデザイン 倉俣史朗とともに」@埼玉県立近代美術館(2013年8月撮影)
「Hello! Super Collection 超コレクション展」@大阪中之島美術館(2022年2月撮影)

▶︎「倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙」感想

野外の看板

倉俣史朗(1934-1991)は(略)1965年に独立し自身の事務所を構え、同時代の美術家たちとも交流をしつつ、機能性や見た目の形状に主眼を置いたデザインとは異なった考え方をした作品を発表し続けます。(略)本展覧会では、家具やインテリアの仕事に加えて、創作の源泉を垣間見せるかのようなイメージスケッチや夢日記も紹介し、倉俣語録とも言われた作家自身の言葉を手がかりに、独立する以前からあまりにも早すぎる死までを振り返ります。

公式サイトより

この展覧会は、倉俣史朗氏の没後30年目、倉俣氏の名を冠した展覧会としては約10年ぶりの大規模(約200点)な企画だそうです。

私は平日に行きました。平日にもかかわらず、来場者ががとても多くて驚きました。世田谷美術館でこんなにたくさんの人を見たことは初めてでした。

いざ展覧会へ
展覧会のサイン

写真撮影可能な作品は、最初の部屋にある4つの家具のみでした。

唯一の撮影可能エリア
《01チェアー》《01テーブル》
《トウキョウ》
表面のアップ
《透明ガラス入りテラゾーテーブル》
表面のアップ
《ハウ・ハイ・ザ・ムーン》
《ハウ・ハイ・ザ・ムーン》はアーティゾン美術館で座ることができます

撮影不可のエリアに展示されているピラミッドの家具、プラスチックの家具、変形の家具など、写真の撮り甲斐のある作品がたくさんありました。

《ピラミッドの家具》ほか(引用元

倉俣氏は「自由を求めた」とのことでした。ものを見せることや、その空間のあり方について、倉俣氏は以下のようにコメントしています。

“空間というのは決して理屈じゃなくて、やはり感じるものだと思うのです”
使うことを目的としない家具。ただ結果として家具であるような家具に興味をもっている”

倉俣氏のクセつよな家具は「1LDKの間取りには置けないデザインだな」と思いました。倉俣氏の家具を置く場合、空間に対する高いセンスが問われそうです。そのため、家具の使用者は必然的に空間全体のデザインを考えるようになるのかな、と思いました。

《引出しの家具》(引用元

倉俣氏は、人間と一番コミュニケーションの強い家具=「引き出し」とコメントしていました。椅子に美しさを求める人は多いと思います。しかし「引き出し」を重視するというコメントは初めて見ました。

《ガラスの椅子》(引用元

《ガラスの椅子》は、パーツ同士をボンドで接着しています。倉俣氏は「ガラスはニオイない、味ない、情緒的、近代のもつ一つの表情がある」と言いました。アーティストから見た素材としてのガラスの印象は興味深いです。

椅子をガラスでつくる必要はありません。必要どころか、椅子として不安になるデザインです。そして、この椅子を見ると何か刺激を受けます。それは既に、これはただの「椅子」ではなく「アート」であると思いました。

撮影エリアにあった倉俣氏のコメント

彼の作品を時の経過とともに見ると、初期は「どっしり」とした芸風から、徐々に「浮遊する」芸風が強くなります。倉俣氏が「自由を求めた」ことが「浮遊する」芸風に結びついたのかな、と感じました。

《ミス・ブランチ》(引用元

会場に《ミス・ブランチ》は3脚ありました。その横に展示されていた《アクリルスツール(羽入り)》も良かったです。椅子自体はすごく重いのに、羽が入ることで、すごく軽い印象を受け、不思議な感覚をもちました。

《アクリルスツール(羽入り)》(引用元

倉俣氏曰く、最も重要なものとは「コミュニケーションを生み出すこと、人間とオブジェとの間に会話を作り出すこと」とのことでした。

確かに、駅のベンチに座っても、そこにコミュニケーションは生まれません。この考えはファッションとも似ていると思いました。私は「ファッション=コミュニケーションツール」だと思います。相手が、何か気になるものを身に付けていると、そこから自然と会話が生まれます。

倉俣氏の椅子が設置されていることで、自然と人と人との会話が生まれ、人と椅子が対話することで新しい発想も浮かぶんだろうな、と思いました。

展覧会の全体を通した感想は「普通」でした。NHKの日曜美術館を見たことで、実際の作品を通して倉俣氏の「考え」を理解し、自分の人生の参考にしたかったです。一方で、展覧会では椅子などを「置いただけ」感が若干強いと感じました。作品とともに、時代の変遷、倉俣氏独自の「考え」の変化、変化に与えた影響などが端的に伝わるキュレーションだと良かったです。

また「倉俣語録」が多く紹介されていましたが、それらは要点を得づらい文章が多かったです。そのため、世田谷美術館による、倉俣氏のコメントを噛み砕いた翻訳があると、理解がより深まるな、と思いました。

加えて、会場に作品がぎゅうぎゅうに置かれており、窮屈な印象を受けました。(世田谷美術館の展示スペースは広くないものの)もう少し展示数を減らして間をもたせた方が、感じることに意識を集中できたかもしれません。

美術館入り口で《ハウ・ハイ・ザ・ムーン》に座ることができます。2,062,500円だそう

▶︎まとめ

買ったポストカード《ショップ「スパイラル」》

いかがだったでしょうか?倉俣氏の作品などが約200点展示され、作品の変遷がよく分かる内容でした。当時、倉俣氏の作品は斬新だと受け取られたそうですが、今見ても十分に斬新だと感じました。それくらい普遍的な感性の鋭さを倉俣氏はもっていたのでしょう。この展覧会を通して、倉俣氏独自の考えが若干垣間見ることができました。

ただし、スペースの広さの割に作品数が多すぎること、作品よりも倉俣氏の人間性の部分によりフォーカスした方が、理解がさらに深まり、多くの示唆が得られると思いました。


たぬきかな?かわいい
砧公園が近所にある保育園が羨ましい
レストランへの通路。格好いいため毎回撮ってしまう
ここの通路もモダンで格好いい
この手すりも毎回撮ってしまう。まるでブランクーシ作品のような美しさ

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