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#51 階段の下の扉
「死後の世界って信じる?」
女が訊いた。
「いや、信じないね」男は言った。「きみは信じるの?」
「信じる。というより、あるんだよ。死後の世界って」
「どうしてわかるんだ」
「わたしにはわかるの」
「見たことがあるの?」
「うん。霊とかも見えるよ。ほら、あそこに……」
酒場の片隅、酒瓶のケースなどが積んである暗がりを、女は指さした。
「3人かな、4人かな。よくわからないけど、いる。人間の顔が浮か
#49 やさしすぎて
夫がもっとやさしくしてくれればいいのにと、以前の真知子はどんなにか願っていたことだろう。いまはまるで反対で、これ以上やさしくするのはやめてほしいと、叫びだしそうな毎日だった。
かつて夫は、家事も育児もてつだうことなく、毎晩酒を飲んで遅くなり、休日でさえほとんど家にいることがなかった。そのくせ、真知子の料理や、子どものしつけや、掃除や洗濯の仕方に、文句ばかりつけていた。手をあげたことも一度や二度