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2023年全記事

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『もののけ姫』〜「サウダージ」
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『もののけ姫』はなぜ読み解きづらいのか:汎神論とフェミニズム

『もののけ姫』はなぜ読み解きづらいのか:汎神論とフェミニズム

Ⓒ1997 スタジオジブリ

監督:宮崎駿
脚本:宮崎駿
公開:1997年

① 序論『もののけ姫』はジブリ映画の中でもとりわけ「難しい」「読み解きづらい」とされることが多いらしい。例えば、とあるブログ⁽¹⁾で本作は「ジブリ・アニメの中でも、もっとも複雑で、難しいと感じられる作品だろう」と評されている。
 本論では、難解な『もののけ姫』を読み解くために二段階のアプローチを試みようと思う。
【1】な

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ミュウツーはなぜ「逆襲」するのか:精神分析で読み解く『ミュウツーの逆襲』

ミュウツーはなぜ「逆襲」するのか:精神分析で読み解く『ミュウツーの逆襲』

監督:湯山邦彦
脚本:首藤剛志
公開:1998年

① 序論アニメ『ポケットモンスター』シリーズの主人公がついにサトシから交替し、SNSを中心に話題になっているらしい。
 アニポケはもともと脚本家・首藤剛志の作家性が非常に強いシリーズで、特に彼のかかわった初期シリーズは現代思想や昭和文化を取り込んだ文学的な作風が他の子供向けアニメとは一線を画していたと思う。
 首藤時代の集大成はやはり劇場版第一弾

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「庭」から読み解く『水の都の護神 ラティアスとラティオス』:失楽園と男女闘争

「庭」から読み解く『水の都の護神 ラティアスとラティオス』:失楽園と男女闘争

Ⓒ2002 オー・エル・エム

監督:湯山邦彦
脚本:園田英樹
公開:2002年

① 序論『水の都の護神』は歴代ポケモン映画の中でもとりわけ人気と評価が高い作品らしい。シリーズ唯一アカデミー賞に出品された作品であり、歴代ポケモン映画人気ランキングのような企画では大体一位を取っている。
 しかし、YouTubeやブログなどに数多ある「考察」はどれも視点が似通っており、作品を十分に読み解けているとは

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比較論『ONE PIECE FILM RED』と『シン・仮面ライダー』:SF的特徴と怪物表象

比較論『ONE PIECE FILM RED』と『シン・仮面ライダー』:SF的特徴と怪物表象

Ⓒ2022 「ワンピース」製作委員会
Ⓒ2023 「シン・仮面ライダー」製作委員会

『ONE PIECE FILM RED』
監督:谷口悟朗
脚本:黒岩勉
公開:2022年

『シン・仮面ライダー』
監督:庵野秀明
脚本:庵野秀明
公開:2023年

① 序論2022年と2023年、非常に似たタイプの二つの映画がヒットを記録している。一つは国内興行収入201億円(アンコール上映分含む)と特大スマ

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光瀬龍『百億の昼と千億の夜』読解:フェミニズムSFの観点から

光瀬龍『百億の昼と千億の夜』読解:フェミニズムSFの観点から

Ⓒ1977 秋田書房

① 光瀬龍の周縁性とフェミニズムSF論光瀬龍は日本SF界の巨匠であり、日本SFに詳しい読者なら知らない人はいない人気作家である。特に、1967年出版の代表作『百億の昼と千億の夜』はSFマガジン2006年オールタイムベストランキングにて国内長編部門1位、同2014年のランキングでは3位に輝いている。
 しかし、残念ながら世界的な知名度を獲得しているとは言い難い。日本人作家であ

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ジョン・ヴァーリイ「残像」読解:言語類型からの脱却

ジョン・ヴァーリイ「残像」読解:言語類型からの脱却

Ⓒ2015 早川書房

① 4種類の触覚言語ジョン・ヴァーリイ「残像」に登場するケラーと呼ばれる視聴覚障害者たちのコミューンには触覚のみを前提とした特殊な言語使用法が存在する。本作のSF的なアイデアは、4種類の触覚言語(ハンドトーク、ショートハンド、ボディトーク、タッチ)の中でも「ネイティブな」触覚言語話者しか精髄を体得できない「タッチ」により、音声言語の類型から脱却し認知システムを再構築する、と

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『君の名は。』口噛み酒論考:「よもつへぐい」と社会類型

『君の名は。』口噛み酒論考:「よもつへぐい」と社会類型

Ⓒ2016 「君の名は。」製作委員会

監督:新海誠
脚本:新海誠
公開:2016年

① 序論:ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへ新海誠作品を論ずるにあたっては「セカイ系」というワードを外すことはできない。セカイ系とは、1990年末期から2000年代のいわゆるオタク的なアニメーション作品などに散見される、一組の少年少女の関係性のみに焦点を当てた作風を指し、彼らの関係がそのまま物語の根本を左右す

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『君たちはどう生きるか』二つの機能不全:「父親」と「火」について

『君たちはどう生きるか』二つの機能不全:「父親」と「火」について

Ⓒ2023 スタジオジブリ

監督:宮崎駿
脚本:宮崎駿
公開:2023年

① 序論:文学理論と「考察」について10年ぶりの宮崎駿作品『君たちはどう生きるか』について、早くも膨大な感想と「考察」がネット上に投稿されている。
 まだ公開から日が浅いこともあり「考察」の傾向は定まりきっていないようだが、中には「アオサギは眞人の弟だ」「母親の死因は火災ではなく眞人の出産だ」というやや独断的と思えるもの

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深沢七郎「楢山節考」再考:辰平夫婦の悲劇として

深沢七郎「楢山節考」再考:辰平夫婦の悲劇として

Ⓒ1958 松竹

①「楢山節考」は本当におりんの物語なのか深沢七郎「楢山節考」は、前近代の日本では珍しくなかった姥捨ての概念を近代以降の小説のフォーマットに蘇らせ、ヨーロッパ由来の近代的なヒューマニズムを根底からひっくり返した名作として広く知られている。「中央公論」第一回新人賞の選考員(武田泰淳・正宗白鳥・三島由紀夫など名だたる作家たち)がそろって絶賛したというエピソードは有名である。

 本作

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萩尾望都『銀の三角』読解:ラグトーリンの嘘を暴け

萩尾望都『銀の三角』読解:ラグトーリンの嘘を暴け

Ⓒ1982 早川書房

① 序論:『銀の三角』再評価のために萩尾望都『銀の三角』は80年代に書かれた作者の代表作の一つであり、第14回星雲賞を受賞したSF作品の金字塔でありながら、その高い評価とは裏腹に世間からも研究者からも正当に注目されてきたとは言い難い。本作は2023年10月現在絶版となっており、(ざっと探したかぎり)めぼしい研究も見当たらない。2022年7月に長山靖生による萩尾望都論『萩尾望

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『リア王』、『乱』、バーク、そして世阿弥:Frame of Acceptanceに関する一考察

『リア王』、『乱』、バーク、そして世阿弥:Frame of Acceptanceに関する一考察

Ⓒ1985 ヘラルド・エース

① 序論ケネス・バークが『Attitudes Toward History』(1937)において主張したFrame of Acceptanceについての意見は日本人の思考傾向を説明する時どれほどの役割を果たすのか。バークは最も良く表現されたアメリカ人にとってのFrame of AcceptanceはWilliam James、Whitman、Emersonによるもの

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歌詞に触れない歌詞分析:ポルノグラフィティ「サウダージ」

歌詞に触れない歌詞分析:ポルノグラフィティ「サウダージ」

Ⓒ2022 ナターシャ

作詞:ハルイチ [新藤晴一]
作曲:ak.homma [本間昭光]
発売:2000年

① 序論2021年9月3日に公開されたTHE FIRST TAKEをきっかけに、23年前(執筆時点)発売されたポルノグラフィティ「サウダージ」の人気が再燃している。上記動画の再生回数は2,800万回に迫り、2023年年間カラオケランキングでは今をときめく数々の楽曲に交じり7位にランクイ

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