鬱蒼とした空間から抜け出して一人で夜の田舎を歩く。
人の笑い声とか一度泣けば空間を支配することの出来る奴とかベロベロなって頬を赤らめてダルがらみする奴を横目におだてる奴とかで溢れた部屋に僕は来てしまっている。
本当は行きたくなかった、会いたくなかった。
それでも僕は親に言われるがままに連れていかれるがままに、ここに座っている。目の前のテーブルにはおばあちゃんが出前を取ってくれたのであろう寿司があって隣にはピザが鎮座していた。
何故だろうか、僕は不思議と満腹状態だった。なので、僕はガヤガヤと煩い部屋から息を殺すようにして抜け出してしまった。
ここは僕の煌めいていた街とは大違いな程に自然で溢れた空気の良い場所だった。瞼の外側には青臭い緑が広がっておりその上には薄く塗られたオレンジと淡い白で描かれた空がのし掛かっていた。
すげぇ綺麗だな。
そんな感情を浮かべてはあまりにも淡白過ぎるなと自らの語彙力を自傷してはおばあちゃん家に来る途中に見えた自販機へとテクテクと歩き出していた。
歩く度に地に馳せる思いが強まっていく。僕に対して毎日歩いていたいと思わせてしまう程に空気が綺麗なのだ。しかも、少し歩けば川があって魚が跳び跳ねて、それを鳥が食べに来る。僕の街ではなかなか見ることの出来ない光景だ。そう、ここは新たな発見が多すぎる。
そんな土地にも見慣れた赤く光る箱があった。僕はやっとの思いで自販機に辿り着くとポケットから160円を取り出してお馴染みのコーラを購入し自販機を後にした。
時刻は夜の9時を過ぎていた。
親戚の集まりに僕の居場所はない。
正直な所、この場所から離れたくはなかった。けれど、僕の足が動き出す数分前に親から一本の電話があった。
早く帰ってこい。
僕はその言霊に従うようにしておばあちゃん家に続いているだろう道を歩き出した。辺りのでは夏草が風に揺られて踊っている。ポツポツと申し訳ない程度に設置された街灯には大量の虫が集っている。
そして、近くに佇む山からは獣とひぐらしの鳴き声が聞こえ始めた。
僕はただ歩いて、暗闇を歩いて、川を越えて、夜空を仰いで親戚が集まる扉の前まで歩いた。
玄関扉に手を掛ける。
僕は決定的に此処に入っていきたくないのだろう。
辺りを見渡す。庭には鹿威しが設置してある。
僕は震える手で玄関扉をこじ開け親戚のいる部屋に向かっていった。その瞬間、庭に咲いている鹿威しがカタンと頷いたような、そんな気がした。
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