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秋の空気と夏の音色を纏った夜の街

僕の街を吹き抜ける風は少しばかり秋をほのめかすようになってきた。けれど、少し遠くの方からは夏の風物詩である花火が空を割る音が街を揺らしているのを肌で感じる。要するに、現在僕の街には秋と夏が居座っているということだ。

そして、久しぶりに僕は街を歩いた。

街を歩けば鈴虫の声が聞こえる。
しかし、高架橋の下にある自販機には虫が集っており、ここは未だに夏を置いてくれていることに安堵した僕は高架橋を潜り抜け街の暗がりの方に沈んでいった。

僕の周りを包んでいるのは闇とポツポツと光る街灯だけで街の底は人が死んでいるかのような静けさが佇んでいた。僕はそこをひたすらに意味もなく歩いた。歩いた先には一つ光があってその先にまた一つ光がある。その繰り返しを数十回続けていくと赤く朧気な光を纏った者が少し先の道端に腰かけていた。

呼ばれている気がする。

そう直感的に感じた僕は暗がりを掻き分けながらぼやけた光まで気が付くと駆け出していた。

今日は学校の宿題をしなければならない。
僕は現在夏休みの課題に終われている身であることを思い出し何となく目を覚ますためにエナジードリンクを購入した。

ガタン。

普段ならば気にならない音がやけに気になる。

僕は少し屈んで冷気を纏った缶を手に取ると確かな夏を感じると若干の足の揺れを遮るようにして、その場所から一目散に駆け出していた。

先程までの進行方向とは逆を走り続けた僕はいつの間にか普段の雑多な街に戻ってきていた。
気が付くと花火の音は消えていてコンマ数秒前の足の揺れは収まっていた。

僕はゆっくりと歩道を歩いた。

夜を落とすのは鈴虫の声、

街を駆けるのは笛の音色をのせた風

すっかり秋の夜だ。

明日も歩こうかな。
たまには朝歩くのも良いかもしれない。

そして、僕は青白く光る道を背にしながら次の季節に胸を踊らせ、軽やかなステップを踏み鳴らす。

ここは本当に良い街だな、

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