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123天文台通りの下町翁 雑記帳 ~大墻敦・監督 ドキュメンタリー映画「スズさん~昭和の家事と家族の物語」
大田区南久が原にある「昭和のくらし博物館」(http://www.showakurashi.com)は今や登録有形文化財になっていて公開されているが、ここの館長・小泉和子さんが家族で暮らし…
123天文台通りの下町翁 雑記帳〜李琴峰·著「言霊の幸う国で」
台湾出身の気鋭の芥川賞作家、李琴峰の最新作品。ネットの対談番組で最近知った彼女の存在。発言の明瞭さに惹かれて買った最新作であったが、一気に読めるストレートかつ繊細な内容に即フォロー決定の作家だ。本当に日本と日本文学を愛しているからこそのLGBTQ+を題材に、自身の経験を軸にしたノンフィクションと小説が織りなす文学作品で、この国の人権、個人にかかわる停滞ぶり、ゆえに生きづらさから活発な未来を描けない
もっとみる123天文台通りの下町翁 雑記帳 奈倉 有里 著「夕暮れに夜明けの歌を~文学を探しにロシアに行く~」
気鋭のロシア文学翻訳家のペテルブルグ、モスクワ留学時代の濃密に文学、詩、教師、学生たちにどっぷりと浸った日々がつづられている。なんとも貧しくとも、濃密でみずみずしい学生生活だったかが浮かびあがる。
たった一人の東洋からの留学生としての経験が細部に渡り、書き留められている。きめ細やかな心模様、そして何よりもロシア文学や関連する資料を浴びている様子と情熱が全編に貫かれている。奈倉有里は、ロシア文学を読
123天文台通りの下町翁 雑記帳~ 鶴見 済 著「人間関係を半分降りる」
人間だれしも浅くも深くも落ち込む。不運や不幸は時には生まれた時から運命づけられてしまっていることもあるし、自分には無関係と思っていたら出くわしてしまうことがある。鶴見氏が書いているように、すべての悩みは人間関係につながっている。家族、友人、職場、学校、地域社会、あらゆる場所で、ありのままの自分でいられることは至難の技だ。
そうであるからこそ、人からどう思われるかを基準にせず、自分をからめとってい
123 天文台通りの下町翁 雑記帳~ペルー映画 「マタインディオス、聖なる村」(2018年・作)~
ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)と呼ばれる首都リマなどではなく、地方の町村を舞台にした映画作品。司祭役のプロ役者1名を除いて、監督2名のうちの一人の故郷、リマから南西に離れた山村のワンガスカル村に暮らす親族など村人たちが登場しているのだそうだ。 スペイン、ポルトガルによる先住民の植民地化の歴史や、それ以前の社会、文化に関心を持ち続けてきた小生でも理解が容易でない。さすがは寓話、暗喩、神話、宗教
もっとみる123天文台通りの下町翁 雑記帳~映画「アンデス、ふたりぼっち(ペルー、オスカル・カタコラ監督、2017年作品)~
アンデス山脈ペルー、ボリビアと境を接する5,000メートル級の山岳高地で暮らす二人の老いた夫婦の日常を撮り続けた劇映画。全編が千年言語と呼ばれるスペイン植民化前から生きる先住民の言葉アイマラ語でやりとりされる。主役の二人、夫役の老人が2021年11月に今回の作品につづく2作目の長編映画撮影中に34歳で夭逝してしまったオスカル・カタコラ監督の母方の祖父。妻役の老婆は友人の紹介で演じている。二人とも半
もっとみる123天文台通りの下町翁 雑記帳~ブレイディみかこ著「ヨーロッパ・コーリング・リターンズ 社会・政治時評クロニクル 2014-2021」~
英国イングランドのブライトンという町に在住の保育士&ライター/コラムニストの英国社会、政治についての新型コロナ感染拡大した2021年までの自由で闊達な7年半に渡るコラムをまとめた一冊。文庫とは言え500ページ近い分量を読むのは一気にはできないが、一編ごとに、反緊縮・人々への積極財政の必要性、かつては"ゆりかごから墓場まで"と呼ばれた社会厚生システムが保守党、とりわけサッチャー以降の新自由主義政策で
もっとみる123天文台通りの下町翁 雑記帳~ラナ・ゴゴベリゼ監督 映画「金の糸」(2019年)
1968年に開館し、今年7月末には54年の幕を下ろし閉館となる神田神保町・岩波ホールでジョージアの女性映画監督の劇映画作品を鑑賞。ウクライナへのロシア軍侵攻、戦争をきっかけに、にわかに旧ソ連を構成していた国々の民族、歴史、文化に目が向き、カザフスタンが舞台の「スターリンへの贈り物」を江古田のギャラリー古藤で見た後、この作品を鑑賞。舞台はアジア、中近東、ヨーロッパをつなぎ交わる地域、ジョージアの首都
もっとみる123天文台通りの下町翁 雑記帳~映画「白い牛のバラッド」(監督: ベタシュ・サナイハ&マリヤム・モガッダム)
イランの首都テヘランが舞台。一度だけ、会社員時代、1989年の5月半ばから6月初めにかけてテヘランで医療機器関係展示会に出張に出かけたことがある。イスラム革命を指導したホメイニ師が6月3日に亡くなり、国挙げて喪に服すということで展示会が延期となって、宿泊していたホテル・アザディ(イスラム革命前のパフラヴィー皇帝時代は米資本ハイアットホテルだった)で待機の形となっていた。そんなホテルの外壁に”Dow
もっとみる123天文台通りの下町翁 雑記帳~大山勝男・著「さっちゃんの診察器 -医師・矢島祥子-」読後記
大阪市西成区の診療所で釜ヶ崎で一貫して町に暮らす厳しい生活環境や健康状態にある人々のために、献身的に医療活動を続けていた”さっちゃん”先生こと矢島祥子医師。2009年11月19日の午前1時20分に木津川の千本松船場の水中で遺体となって発見されるまでのわずか34年の人生の濃くも短い軌跡を追った内容。と同時に、ご両親お二人とも医師、祥子さんの兄弟3人のご家族と他殺死としか思えない彼女の死の真相を現在も
もっとみる123天文台通りの下町翁 雑記帳 ~大墻敦・監督 ドキュメンタリー映画「スズさん~昭和の家事と家族の物語」
大田区南久が原にある「昭和のくらし博物館」(http://www.showakurashi.com)は今や登録有形文化財になっていて公開されているが、ここの館長・小泉和子さんが家族で暮らした家であった。彼女のお母様、スズさん(1910年〈明治43年〉~2001年〈平成12年〉享年91歳)が一家を支えた家である。映画の軸になるのはスズさんと一家が太平洋戦争時の米軍による1945年5月29日の横浜大空
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