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123天文台通りの下町翁 雑記帳~映画「白い牛のバラッド」(監督: ベタシュ・サナイハ&マリヤム・モガッダム)

イランの首都テヘランが舞台。一度だけ、会社員時代、1989年の5月半ばから6月初めにかけてテヘランで医療機器関係展示会に出張に出かけたことがある。イスラム革命を指導したホメイニ師が6月3日に亡くなり、国挙げて喪に服すということで展示会が延期となって、宿泊していたホテル・アザディ(イスラム革命前のパフラヴィー皇帝時代は米資本ハイアットホテルだった)で待機の形となっていた。そんなホテルの外壁に”Down with USA" の大きなスローガンが掲げられているのが強い印象に残っている。
下戸な私は、アルコール抜きでも問題なかったが、ひたすら部屋のTVで葬儀の模様を見ながら、ノンアルコールビールとピスタチオをつまみに時を過ごしていた。あとは、代理店のイラン人にドライブに連れていってもらい、テヘラン周辺の荒涼とした砂漠地帯やイラクとの戦争でイラク兵が収容された監獄があれだなどと案内されたり、自宅の食事に招かれて、米料理やトマト、ケバブがとても口に合って歓待された良い思い出がある。代理店のおやじの連れ合いも子供もとても親日的で親切にもてなしてくれ、今でもイランに対する印象は良いものがある。テヘランを取り囲む高い峰々からの冷たく綺麗な雪解け水が水道の蛇口から勢いよく飛び出たし、水の良さからだろう、果実やナッツ類が新鮮、豊富で口にあったのも大変印象的だ。

そんな個人的には、好印象強いイランではあるが、世界の中では日本同様、死刑制度が残り、かつ執行数は中国に続いて世界第二位なのだという。
映画の中では、冤罪で死刑を執行されてしまった夫の後に遺された未亡人とまだ幼さの残る聴覚障害の娘の日々は一筋縄ではいかない様子が描かれている。それでも牛乳工場で働きながら何とか、けなげに暮らす彼女に親切に救いの手を差し伸べる、亡き夫の友人だったという男がこの話の鍵を握ることになる。

冒頭で暗喩的に登場する刑場の広場の真ん中にたたずむ牛は、コーランの中、第二章、雌牛の章に出てくるものだそうだが、共同監督でもあるマリヤム・モガッダム演ずるシングル女性の姿を象徴しているものなのだろうか? 白い牛、牛乳工場の白、最後の場面で何かと母娘に援助の手を差し伸べてくれていた男が飲み干す牛乳の白、そして女性が唇にさす口紅の深紅、乾いた全体の映像の中でひときわ、白と紅の対象が目に焼き付いた。

「白い牛のバラッド」トレイラー
https://longride.jp/whitecow/


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