Matilde

英語のようにメジャーではないため需要は少ないけれど、一応某言語の翻訳家志望。日本語の表…

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英語のようにメジャーではないため需要は少ないけれど、一応某言語の翻訳家志望。日本語の表現力に磨きをかけたくて創作にも挑戦中。 ショートショート、読書メモを中心に、時々エンタメの感想なども載せていく予定です。

記事一覧

【読書メモ】『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックス

 数奇な運命をたどった古書「サラエボ・ハガダー」が発見された。古書鑑定家が調査している現在(1996年)と、時代をどんどん下りながらこの本を手にしていた人々の話が交…

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1か月前
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【超ショートショート】心変わり

 あなたのことが嫌いになったわけじゃないの。今でも好きよ。ずっと前から私はあなた一筋だったものね、私の心変わりが信じられないのもわかるわ。私もまさかこんなことに…

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2か月前
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【読書メモ】『赤と青のガウン』彬子女王

 実は行動範囲がかぶるので、よく某所で朗らかに談笑されている彬子さまをお見かけします。  この本は数年前に刊行された彬子さまの留学記ですが、SNSでバズって最近文庫…

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2か月前
3

【読書メモ】『ヨコハマメリー: 白塗りの老娼はどこへいったのか』中村高寛

 ほんの数回だけだったけど、ダイヤモンド地下街の入り口で、関内駅の構内で、メリーさんの姿を見かけるのは恐怖でしかなかった。表紙の写真の通り、ひらひらした服を着て…

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2か月前
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【読書メモ】『テヘランでロリータを読む』アーザル・ナフィーシー

 ヴェールの着用を拒否して大学教授の職を追われた女性が、自宅で女子学生たちと密かに行った文学研究会の回想録であり、イラン革命とその後のイラン・イラク戦争によって…

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8か月前
4

【ショートショート】お菓子作りの効能とポルボロンの思い出

 たまたま立ち寄った食材屋にアーモンドプードルが置いてあった。それも珍しくマルコナ種の。  そうだ、今日はポルボロンを作ろう。  最近ずっとお菓子ばかり作ってい…

Matilde
8か月前
8

【超ショートショート】私の竹取物語

 夕方、祖父が裏山に筍を取りに行くというので、私と弟も小さなシャベルを持ってついて行った。私たちが土からのぞく筍を探して、ある程度まで掘り進めると、祖父が大きな…

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1年前

【超ショートショート】雨と傘、と狸

 雨の日は憂鬱だ。 「そういえばさ、朝から雨が降っている日に、街ですれ違った結婚披露宴に出席するらしい女の子のさしているのがビニール傘だったりすると、心底がっ…

Matilde
1年前
6

【エッセイ】『深夜特急』に思う

 最近、ラジオ「朗読・斎藤工 深夜特急 オン・ザ・ロード」が楽しみで仕方がない。寝支度をしながらラジオをつけ、行ったことのない香港・マカオ・タイを想像する。時に斎…

Matilde
1年前
3

【ショートショート】恋愛相談

「おつかれ、ライブどうだった?」 先日、かなこから「推しのライブで東京行くから泊めて」と連絡があり、一年ぶりにうちにやってきた。数年前に夫の仕事の都合で地方に引…

Matilde
1年前
5

【超ショートショート】本が読みたい

 家で本を読めない日がある。  ソファに腰を下ろして本を開いた途端、あのヨーグルトの消費期限いつだったっけ? 気になって立ち上がり冷蔵庫を開ける。風の音が強くな…

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1年前
16

【エッセイ】降るならガッツリ降ってくれ

 笹井宏之さんの詠む歌が好きだ。雪の日にいつも思い出す彼の歌がある。 ゆきげしき みたい にんげんよにんくらいころしてしまいそうな ゆきげしき 笹井宏之 『え…

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1年前
4

【ショートショート】サーディンスプーン

 蚤の市で不思議なカトラリーを見つけた。  木製の柄がついていて、形はフォークのようだけれど先っぽが一文字にくっついていて突き刺せないのでフォークとしての用は…

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1年前
5

【ショートショート】詩人の彼

 ラブレターをもらった。今時ずいぶんレトロな告白方法だ。でもそれだけじゃない。詩のラブレターだった。詩だよ、詩。ポエムの詩。驚愕を通り越して唖然としてしまった。…

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1年前
10

【超ショートショート】とても静かな

 私が眠っている間に、彼は私の寝顔をスケッチしていた。  彼の父親は図鑑の挿絵画家だったらしい、しかも魚類専門の。そんな職業があるなんて知らなかった。父親の影…

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1年前
7

【エッセイ】「エルピス」#06

 ドラマ「エルピス」を毎週楽しみにしている。 骨太だけどまじめすぎない。 冤罪事件を追うことを縦軸に、ボンボン育ちのAD、スキャンダルで落ちぶれた女子アナ、報道から…

Matilde
1年前
2
【読書メモ】『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックス

【読書メモ】『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックス

 数奇な運命をたどった古書「サラエボ・ハガダー」が発見された。古書鑑定家が調査している現在(1996年)と、時代をどんどん下りながらこの本を手にしていた人々の話が交互に語られる。本自体は実在するけれどそれにまつわる物語は全てフィクション。
「サラエボ・ハガダー」というユダヤ教の本は、14世紀にキリスト教国だったスペインで作られ、第二次世界大戦中もサラエボ紛争の時もイスラム教徒によって守られた。たし

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【超ショートショート】心変わり

【超ショートショート】心変わり

 あなたのことが嫌いになったわけじゃないの。今でも好きよ。ずっと前から私はあなた一筋だったものね、私の心変わりが信じられないのもわかるわ。私もまさかこんなことになるなんて思っていなかったから。

 はじめは軽い気持ちだったの。浮気だと責められればその通りなんだけど、本当にただの遊び、ちょっと試すだけ、って……魔が差すってこういうことなのね。

 誤解しないで。本当にあなたがイヤになったからじゃ

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【読書メモ】『赤と青のガウン』彬子女王

【読書メモ】『赤と青のガウン』彬子女王

 実は行動範囲がかぶるので、よく某所で朗らかに談笑されている彬子さまをお見かけします。
 この本は数年前に刊行された彬子さまの留学記ですが、SNSでバズって最近文庫化されたとのこと。ウィットに富み嫌味がなく内容もとても楽しい。こんなに面白い文章を書かれる方だったとは……!話題になるのも納得です。

 最近、「友達」についてよく考えています。どういう状態を「友達」と呼ぶのか……
 誕生日におめでとう

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【読書メモ】『ヨコハマメリー: 白塗りの老娼はどこへいったのか』中村高寛

【読書メモ】『ヨコハマメリー: 白塗りの老娼はどこへいったのか』中村高寛

 ほんの数回だけだったけど、ダイヤモンド地下街の入り口で、関内駅の構内で、メリーさんの姿を見かけるのは恐怖でしかなかった。表紙の写真の通り、ひらひらした服を着て顔を白く塗った姿はまさに異形、こども心になんだか不吉なモノに遭遇したようでいやな気持になったものだった。

 この本は映画「ヨコハマメリー」の監督さんによる制作ノート、になるのかな。
 ある日忽然と横浜から姿を消したメリーさん。結果的に彼女

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【読書メモ】『テヘランでロリータを読む』アーザル・ナフィーシー

【読書メモ】『テヘランでロリータを読む』アーザル・ナフィーシー

 ヴェールの着用を拒否して大学教授の職を追われた女性が、自宅で女子学生たちと密かに行った文学研究会の回想録であり、イラン革命とその後のイラン・イラク戦争によって存在そのものが翻弄されてゆく女性たちの物語でもある。

 人にはなぜ文学が必要なのか、そのひとつの答えがあるように思う。彼の国で息の詰まる思いをしている女性たちの現実逃避と、現実に立ち向かう勇気を得るための束の間の休息。

 女性の連帯の物

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【ショートショート】お菓子作りの効能とポルボロンの思い出

【ショートショート】お菓子作りの効能とポルボロンの思い出

 たまたま立ち寄った食材屋にアーモンドプードルが置いてあった。それも珍しくマルコナ種の。

 そうだ、今日はポルボロンを作ろう。

 最近ずっとお菓子ばかり作っている。チーズケーキ、スコーン、ブルベリーマフィン、紅茶のパウンドケーキ……。時には食事の支度を後回しにしてまでお菓子作りに熱中している。料理に関してはわりと惰性で適当に作る方だが、お菓子作りの方は訳が違う。レシピ通り分量と温度と時間をちゃ

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【超ショートショート】私の竹取物語

【超ショートショート】私の竹取物語

 夕方、祖父が裏山に筍を取りに行くというので、私と弟も小さなシャベルを持ってついて行った。私たちが土からのぞく筍を探して、ある程度まで掘り進めると、祖父が大きなスコップを突き刺してガサっと取り出す。その時の音で、途中で折れてしまったか根元から丸ごと取り出せたかがわかった。
「あー、失敗」
「今度は成功」
 わいわい言いながら私たちは筍を次々とかごに入れていった。

 そろそろ引き上げようかという頃

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【超ショートショート】雨と傘、と狸

【超ショートショート】雨と傘、と狸

 雨の日は憂鬱だ。

「そういえばさ、朝から雨が降っている日に、街ですれ違った結婚披露宴に出席するらしい女の子のさしているのがビニール傘だったりすると、心底がっかりしない?」
会社の飲み会で、突然同僚の大井さんがそんな話を始めた。
「あー、それ、なんとなくわかります。そういう子ってなんか部屋も散らかってそうっすよね」
 後輩の松田くんも彼女に同調した。

 なにそれ、全然わからないよ。どういう

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【エッセイ】『深夜特急』に思う

【エッセイ】『深夜特急』に思う

 最近、ラジオ「朗読・斎藤工 深夜特急 オン・ザ・ロード」が楽しみで仕方がない。寝支度をしながらラジオをつけ、行ったことのない香港・マカオ・タイを想像する。時に斎藤工さんの声を聴きながら寝落ちする。なんという至福の時間!

 学生時代、沢木耕太郎さんの『深夜特急』をバイブル的に愛読している男子は珍しくなかった。これを読んで実際バックパックの旅行に出かけ、いかに大変な旅だったかを楽しそうに報告して

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【ショートショート】恋愛相談

【ショートショート】恋愛相談

「おつかれ、ライブどうだった?」
先日、かなこから「推しのライブで東京行くから泊めて」と連絡があり、一年ぶりにうちにやってきた。数年前に夫の仕事の都合で地方に引越して以来、用事があって上京する際はよくうちに泊まっていく。
「今回めっちゃ席運良くてさ、サイコーだったよ」まだ興奮冷めやらぬ様子で私の部屋に入ってきた。
「いま簡単なおつまみくらい用意するよ。冷蔵庫の中にビールもあるし、食器棚の上にウイス

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【超ショートショート】本が読みたい

【超ショートショート】本が読みたい

 家で本を読めない日がある。

 ソファに腰を下ろして本を開いた途端、あのヨーグルトの消費期限いつだったっけ? 気になって立ち上がり冷蔵庫を開ける。風の音が強くなる。洗濯物は早く取り込んだほうがいいかしら、と窓の外をうかがう。ふと床に目を落とすとホコリが。この前掃除したのは……指折り数える。

 ひとり暮らしで誰の邪魔も入らないのに、よりにもよって自分の思考が邪魔をするなんて。自宅は意外と気の散る

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【エッセイ】降るならガッツリ降ってくれ

【エッセイ】降るならガッツリ降ってくれ

 笹井宏之さんの詠む歌が好きだ。雪の日にいつも思い出す彼の歌がある。

ゆきげしき みたい にんげんよにんくらいころしてしまいそうな ゆきげしき

笹井宏之 『えーえんとくちから』より

 雪国の方には申し訳ないけれど、日頃雪と無縁の私は、どうせ降るならこのくらい狂気に満ちて降ってほしいと願ってしまう。私を狂わせてほしい、この世界に私をとどめている最後のピンを抜いてほしいと、どこかで願っている

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【ショートショート】サーディンスプーン

【ショートショート】サーディンスプーン


 蚤の市で不思議なカトラリーを見つけた。
 木製の柄がついていて、形はフォークのようだけれど先っぽが一文字にくっついていて突き刺せないのでフォークとしての用はなさない。かといって溝があるのでスプーンとしても役に立たない。お店のお兄さんに尋ねると、オイルサーディン用のスプーンだと教えてくれた。オイルサーディンの油を落としながら身を崩さずに掬うためのものとのこと。

 へぇ、おもしろい。
 デン

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【ショートショート】詩人の彼

【ショートショート】詩人の彼

 ラブレターをもらった。今時ずいぶんレトロな告白方法だ。でもそれだけじゃない。詩のラブレターだった。詩だよ、詩。ポエムの詩。驚愕を通り越して唖然としてしまった。どうしたらいいんだ、アタシ……。
 白い封筒の中には便せんが二枚、一枚目がそのポエムだった。詳細は忘れた、というよりこっぱずかしくて覚えられなかった。だからここにも書かない、いや、書けない。
 
 彼は身長190㎝近くもあり、シュッとしたル

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【超ショートショート】とても静かな

【超ショートショート】とても静かな

 私が眠っている間に、彼は私の寝顔をスケッチしていた。

 彼の父親は図鑑の挿絵画家だったらしい、しかも魚類専門の。そんな職業があるなんて知らなかった。父親の影響もあるのだろう、気がつくと彼はよく絵を描いていた。主に半径一メートルくらいの空間にあるものを。台所に転がっているアボカド、組んだ自分の足、眠っている私の顔。気が向くとそっと鉛筆を手に取って描き始める。とても静かに。
 私は自分を描いても

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【エッセイ】「エルピス」#06

【エッセイ】「エルピス」#06

 ドラマ「エルピス」を毎週楽しみにしている。
骨太だけどまじめすぎない。
冤罪事件を追うことを縦軸に、ボンボン育ちのAD、スキャンダルで落ちぶれた女子アナ、報道から飛ばされたプロデューサー、彼らを取り巻く環境と心情の描き方が絶妙で面白い。

 今回、長澤まさみ演じる恵那の、斉藤(鈴木亮平)との終わりを予感させるこの独白がすごくよかった。

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この人は、大事なことを絶対に口にしない
ただサ

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