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【読書メモ】『ヨコハマメリー: 白塗りの老娼はどこへいったのか』中村高寛

 ほんの数回だけだったけど、ダイヤモンド地下街の入り口で、関内駅の構内で、メリーさんの姿を見かけるのは恐怖でしかなかった。表紙の写真の通り、ひらひらした服を着て顔を白く塗った姿はまさに異形、こども心になんだか不吉なモノに遭遇したようでいやな気持になったものだった。

 この本は映画「ヨコハマメリー」の監督さんによる制作ノート、になるのかな。
 ある日忽然と横浜から姿を消したメリーさん。結果的に彼女の所在は判明するけれど、メリーさんに関わりあった人々への丹念な取材によって本人不在とは思えないくらい濃いドキュメンタリーになっていた。それに、図らずも横浜という町の成り立ちとメリーさんのような街娼が誕生する背景を知ることもできて面白かった。

 美化したくはない。怖かったのは本当だから。なので映画は観なかったけれど、これを手に取ってしまったのはやっぱり彼女のことが気になっていたからだと思う。メリーさんが街に立ち続けた本当の理由なんてわからない。ただ、彼女は自身が抱える「女の業」みたいなものから逃げずに、全て引き受けて生きていたように私には思えた。それを「矜持」というのかもしれないけれど。

 人には知られたくない心があるし、自分の気持ちすらごまかしたいし、ごまかさないと社会生活なんてやってられない……「女の業」を引き受けるのは相当な胆力がいる。
 私がメリーさんに魅かれた理由が少しだけわかった気もする。それは、「東電OL殺人事件」の被害者に関心を寄せる気持ちに近いかもしれない。

 やはり「引き受けた」、のだと思う。
ただその一点において、私は彼女たちに敬意と羨望と嫉妬と、そしてやはり嫌悪も感じてしまう。

 大人になった今ならメリーさんの人生を思いやることもできる。だけど私があの時代に横浜に暮らす大人だったとして、同じように彼女の人生を思いやれただろうか……

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