![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/93940669/rectangle_large_type_2_9becf52e0cd8999ed44f1cb84ebcdaa2.jpg?width=1200)
Photo by
ピエール=オーギュスト・ルノワール / メトロポリタン美術館
【超ショートショート】とても静かな
私が眠っている間に、彼は私の寝顔をスケッチしていた。
彼の父親は図鑑の挿絵画家だったらしい、しかも魚類専門の。そんな職業があるなんて知らなかった。父親の影響もあるのだろう、気がつくと彼はよく絵を描いていた。主に半径一メートルくらいの空間にあるものを。台所に転がっているアボカド、組んだ自分の足、眠っている私の顔。気が向くとそっと鉛筆を手に取って描き始める。とても静かに。
私は自分を描いてもらうのが好きだ。それはどこか、旅先で私へのおみやげを選んでくれるのをうれしく思う感じに似ていた。
見せて、とベッドから彼の方に手を伸ばしたけれど、するりと逃げられてしまった。
「まだ途中だからダメだよ」
「じゃあ、もう少し寝ていた方がいい?」
「うん。そのままじっとしていて」
「わかった」私はまたベッドの中で目を閉じる。
彼は父親に似て絵を描くことが好きだったけれど才能は受け継がれなかった。
どんな出来でも、そんなことはどうでもよかった。彼が私を描いてくれる。とても静かに。
それで十分。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?