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【ショートショート】サーディンスプーン


 
 蚤の市で不思議なカトラリーを見つけた。
 木製の柄がついていて、形はフォークのようだけれど先っぽが一文字にくっついていて突き刺せないのでフォークとしての用はなさない。かといって溝があるのでスプーンとしても役に立たない。お店のお兄さんに尋ねると、オイルサーディン用のスプーンだと教えてくれた。オイルサーディンの油を落としながら身を崩さずに掬うためのものとのこと。
 
 へぇ、おもしろい。
 デンマーク製のヴィンテージなんです。オイルサーディンがメジャーな国ならではの代物ですよね。シーチキンの油を切りながら取り出す時も便利ですよ。
 
 形がかわいらしくて気に入った。
 
 もう一本ありますか?
 それが、持ってきた分全部売れちゃって、これが最後の一本なんです
 じゃあ、この最後の一本もらいます
 
 こうして私はサーディンスプーンなるものを手に入れた。もうすぐヴァレンタインという時期だったので、本当は料理好きのあの人にあげるために買ったものだった。お互いに連絡を取る口実を失った時、もう会うこともないのだろうと悟った、あの人に。
 
 実を言えばいまだオイルサーディンを自分で買って調理したことはない。ただ、このスプーンはポトフみたいな汁気の多いものの具だけ掬って食べたい時にとても便利で、猫舌の私は重宝している。
 
 今日みたいに寒い日は、あの人もどこかでポトフを作って温まっているかもしれない。私も今夜はポトフを作る。あの人と同じレシピの。
 そして、私のかたわらにはプレゼントし損ねたサーディンスプーン。

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