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マー君
2022年6月6日 18:19
歩行者天国になった大通りを歩く。1週間前には、彼と一緒だったのに。賑やかな音楽と笑い声。みんな楽しそうで、幸せそうだ。私は、不幸に見えるだろうか。ひとりぼっちで、肩をすぼめて歩く私は、不幸に見えるだろうか。子供の手を引いて歩く若い夫婦は、私を見てどう思うのだろうか。別に男が嫌いってわけじゃない。どうしてそんな噂が立ったのか。確かに、できるだけ知られないようにはしていたけれど。
2022年5月17日 18:44
俺とあいつは幼なじみだ。だが、幼なじみが必ず仲良しだと思ったら大間違いだ。小学校の頃には、しょっちゅう取っ組み合いの喧嘩をした。そんなに喧嘩をするなら近づかなければいいのにと、大人からはよく言われた。しかし、なぜか俺たちは近づいた。お互いに静かに近づいて、ある程度の距離まで来ると、急に胸ぐらをつかみ合う。さすがに中学に入ると、そんな喧嘩はしなくなった。俺が野球部に入ると、あいつはサ
2022年4月10日 18:55
あろうことか、彼は一度出しかけた指輪を引っ込めてしまったのだ。付き合いは長いから、大体わかっていた。お互いにそろそろかなという雰囲気はあった。彼が、あらたまって予定を聞いてきた時からわかっていた。そんなことは、今までなかったから。だから、私も覚悟は決めていた。彼に恥をかかせるつもりはなかった。それが、あろうことか…私が高校2年の時に、彼は新入部員として入ってきた。私は、野球部の
2022年3月14日 18:47
ある男が、面白い場所があるので行きましょうよと言ってきた。特に予定もないので、ついていくことにした。なぜか、深夜に待ちあせわせ、明かりのない道を歩いた。都会から離れて、まだ男は歩き続けた。それでも、不思議に疲れることはなかった。橋を何度も渡り、小さな集落をいくつも過ぎた。低い山をふたつほど越えたところで、男は振り向いた。「もうすぐですよ」しかし、これまでと同じくらい男は歩き続けた
2022年3月11日 18:19
彼と出会ったのは、小さな居酒屋だった。その日は、会社の上司に誘われて飲んでいた。誘われてとは言っても、もともとは私が相談事を持ちかけたのが始まりだった。社内での人間関係が上手くいかずに、上司に応接室で話をした。それが、就業時間の間際だったので、そのままもう少し話をしようということになった。もし誘われれば、それもいいかなと思いながら飲んでいた。上司にその気があったのかどうかはわからない
2022年3月3日 18:13
私たちの頃は、みんなユーミンが大好きだった。ユーミン、荒井由美、結婚して松任谷由美。最近では、アイススケートの羽生結弦の演技で話題になったあのユーミンだ。とにかく私たちの頃は、みんなユーミンが大好きだった。ユーミンの歌を聴きながら、思ったものだ。ユーミンみたいに恋したい。私もそんなひとりだった。だから、まずは頑張って彼を作った。背が高くて、痩せ型で、少し内気な彼を。そしてユーミ
2022年2月26日 18:27
向こう側をご覧なさい。若い男女が欄干に腕をのせて、川面を見下ろしています。2人の後ろを大勢の人が行き過ぎます。誰も、彼らを気に止めようともしません。各々の目的地に急いでいます。曇り空、今にも降り出しそうな天気ですから。そんな中で、彼らだけが、小さな淀みのように動きません。後ろ姿から見ると、歳のころは、20台半ば、あるいはもう少し上かもしれません。川面を見つめながら話をする2人。お
2022年1月15日 18:55
少年は恋をしました。毎日通る通学路。その途中に小さな花屋がありました。その花屋で毎日働いている女の子がいました。少年よりも少し年上かもしれません。毎日、花屋の前を通る時に流れてくる素敵な香り。思わず中を覗き込みます。すると、花から顔を上げた彼女と目があったのです。毎日彼女と目を合わすのが楽しみでした。彼女と目が合わなかった日は、早く寝ました。早く寝れば、早く次の日になるか
2021年12月12日 18:41
明日は明日の風が吹く昨日誰かの胸に不安を掻き立てた風誰かの頬の涙を乾かした風誰かの夢を粉々にした風地球の裏側の少女のため息少年の手のひらに握りしめられた風誰かと誰かの恋の炎を燃え上がらせた風そして吹き消した風誰かに道を踏み誤らせた風はるか昔、決闘の場に舞い上がった一陣の風誰かが誰かに何かを託した風人類の初めてのささやきを運ぶ風無人島の洞窟に置き去りにされた風その重さに耐え
2021年10月5日 19:38
幼い頃から病弱だった。それはそれは、病気のオンパレード。1年のうち、起きて歩いている時間よりも、寝ている時間の方が長かった。そもそも健康であった記憶がない。幼稚園には結局ほとんど行けなかった。小学校、中学校も休みがちで、幼なじみと言えるような友だちもいない。高校も何とか卒業して、地元の小さな金融機関に就職することができた。そこでもあいかわらず病気の奴は見逃してくれなかった。あらゆる