「懐かしい母さんの手」ー詩ー

母さんの手は
シワシワで
冬は　あかぎれで
ガサゴソする手

朝　サヤサヤと
蝶のように　振り
いってらっしゃいと
見送ってくれる手

泣きべそをかくと
ハンカチで
涙汚れの　顔を
キレイキレイに　
してくれる手

目を覗き込んで
男の子は　もう泣かないのよと
両頬を　あたたかく
包んでくれる手

お寺参りすると
鈴をカランガランと鳴らし
家族皆が　元気なようにと　
一生懸命　祈る手

寝苦しい夜は
何度も　起きては
ボクの　タオルケットを
かけなおしてくれる手

紅葉の　赤くなるころに
チュウーリップの球根を
春に　ちゃんと咲いてねと
お願いして　植える手

病院のベッドで
苦しそうにしながらも
ボクの手を　握りしめて
ずっと　離さなかった手

その手の　握り返す力が
次第に　か細く無る
ボクは　母さんの息遣いが
遠のいていくのを
手を強くにぎりしめて
呼び戻そうとした

突然　ボクの　涙の蛇口は壊れ
果てしなく　頬をつたい
母さんの手と　寝巻の胸を
濡らし続ける

でも　ハンカチで
涙を拭いてくれた
細い指先もやせた手も　
もう　戻ってこない

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