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ショートショート

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記事一覧

ショートショート よっぽど

「スッキリしない天気が続きますね」
とスッキリした髪型をした近所のおばあさんに話し掛けられた僕は、
おばあさんのスッキリした頭を触りながら、
「そうですねぇ」
と同意した。

そして僕はそのまま、
「天気予報も天気予報士も
明日は晴れるって毎日言っているのに、
この天気ですからね。
意味分かりませんよ。
泣きそうです僕は。
この天気が続くことによって、
僕が何か困るってことはないんですけど、
なぜ

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ラス蟹

蟹を食べてからの冬彦くんはと言うと、
春彦くんに対しては二度と謝らない
ってな姿勢になり、
夏彦くんに対しては、
どんなことでもまず最初に、
「ごめんね」
と前置きするようになった。
ただ、秋彦くんに対しては、
以前と変わらない接し方をしていて、
今は秋彦くんと仲良くしりとりをしている。

その様子を夏彦くんが静かに見つめていたので、それに気付いた冬彦くんは咄嗟に、
「ごめんね」
と言い、
「夏彦

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蟹Ⅲ

蟹を食べてからの私はと言うと、
動体視力が頗る良くなった。
目の前を通りすぎようとする鳥なんて鷲掴みにできる。
だから私は今、
家の前で鳥を鷲掴みにし、
光沢の表情を浮かべてるって訳さ。
凄いだろ私は。

って、
そんな凄いことをしていたら、
「鳥が可哀想だよ」
なんて言ってくる人が現れやがって、
「やめてあげて」
だとか言ってきやがって、
「バカ」
だとかも言ってきやがって、
最終的には、
「バ

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蟹Ⅱ

いやー
蟹を食べてからの僕ときたら
半端なく体の調子が良くってさ、
急な坂道なんか
しなやかなステップで
軽やかに進んでいけるよ。

蟹を食べてからというもの
毎日が朗らかで健やかだ。
でも心の部分は、
蟹を食べたからってなんら変わりはない。
道を尋ねられても相変わらず、
「ここの者じゃないんで」
って言って、
ここの者なのに分からないふりをしてしまう。
そんな自分を心底憂うよ。
マジ憂う。
半端

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蟹Ⅰ

蟹を食べてからの君は、
どこか儚げで美しかった。
蟹を食べてからの君は、
道徳心とか人間的な深み
みたいなものが増した気がする。
絶対、蟹だよね。
蟹を食べてからの君は変わったと思う。
蟹を食べてからの君は、
「屈辱まみれのこの人生」
って言わなくなったよね。
口癖のように言っていたから、
言わなくなったことに関しては、
少しさみしさを感じるなぁ。

まさか蟹を食べただけで
こんな劇的急激に変わっ

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ショートショート Inochigoi

家に帰ったら家政婦アンドロイドが
部屋を綺麗にすることもなく、
なんだかダラダラと過ごしていたので、
僕は家政婦アンドロイドに向かって、
「もうキミ、返品するから」
と言い放った。

すると家政婦アンドロイドは、
「そんな! 待ってください!」
と慌ててきて、
「何度も言っているように
私はそもそも安物の家政婦アンドロイドで、
尚且つ、不良品なんです!
そんな完璧な家政婦アンドロイドじゃないんです

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ショートショート 誰かが

人混みの中を
飛び蹴りしながら突き進んでいる奴が、
もう僕の近くまで来ているので、
僕は蹴られないように必死に人混みを掻き分け、なんとか無事、人混みを抜けた。

あー恐かった。
なんだあの重量級の男は。
あんな奴の飛び蹴りを喰らったら
間違いなくケガをする。
確実に、今日一日が台無しになる。
一気に嫌な人生になる。
しかしなんとか、
それは避けられたので良かった。

でも被害者、結構出てるな。

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ショートショート 曜日感覚

君に曜日感覚があることを知った僕は、
「じゃあ今日、何曜日?」
って君に聞いてみる。

そしたら君は、
「英語で答えちゃおうかなぁ」
と得意な顔をしてきて、
「Tuesday!」
と答えてきた。

なので僕は、
「そうだね、火曜日だね」
と素っ気なく返して、
「ところで、
切れ味の良い包丁の実演販売で切られるお野菜って、横から割って入って行って、
それ貰っていいですか?
って言っていいと思う?

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ショートショート 願望

落ち込んで落ち込んで落ち込んだ深い夜。
とりあえず僕は、
「あー!」
と叫んで、
「吸血系の生き物になりたーい!」
と大きな声を出した。

実際のところ、
特にそんな願望はないのだけど、
今の僕の状態的に
何か大きな声を出したかったという感じだ。
実際は、本当は、カニになりたい。
でっかくて、ハサミもでっかい、
そんな最強のカニになりたい。
それで色は赤、
赤な上に柄はテントウムシ。
まぁ名付ける

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ショートショート 破滅

「何が起こった!?」
と言われても、
何が起こったか分からない僕は、
「え!? いや、なんですか!?」
とウトウトしていた目を覚まして慌てた。
一体、何が起こったんだ?
よく見れば周りのみんなが騒然としている。
僕がウトウトしている間に何かが起こったのは間違いない。

と、ここで誰かが、
「もう俺たち人類は破滅だー!」
と叫んだ。
それに続くように悲愴な声が溢れていく。
これはだいぶ大事だ。
みん

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ショートショート 沈む

なんでもない今日を笑って過ごす中で、
なんの接点もないイケメンに
明らかに
絶対に
睨まれた俺は、
「俺なんかしたか?」
と不安になった。

そんな出来事を
すっかり忘れたその一時間後、
友人と楽しく食事をしている中で、
どこの誰だか分からない
プロレスラーみたいな男に、
「てめぇ足折ってやろうか!」
と脅された。
これには腰が抜けざるを得ない。

しかしまぁ、
そう言われただけで足を折られること

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ショートショート テラシビト

ほんの少し前まで
闇の中を彷徨っていた闇彷徨い人の俺は、
光照らし人になるべく、
日々、修行修行の毎日だ。

闇の中で苦しんでいる者がいれば、
懐中電灯を取り出し、
光を照らしてさしあげる。
それが光照らし人だ。

ただ、顔に光を当てるので、
「喧嘩売ってんのか!」
とブチギレられることが多々あり、
「いや、これは正義の一環でございまして」
などと訴えても、全く聞き入れられず、
ぶん殴られることが

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ショートショート 仲直り

仲なんて悪くなった覚えはないけど、
とりあえず、
「仲直りしようぜ」
と神妙な顔で友達に話し掛けた俺は、
友達から、
「いやいや、どういうこと?」
と困惑の表情を浮かべられた。

なので俺は、
「昨日は言いすぎた」
と何もなかった昨日のことを謝罪し、
「許してくれ」
とお願いした。

それだから友達は、
「いやいやだから、えっ何?
 分かりません。
 言っている意味が分かりません。
 俺ら別にケン

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ショートショート ほっとけ

何もかもが終わりすぎている僕は、
「大丈夫大丈夫、
 もうすぐ世界は終わるって」
という慰めの言葉に対して、
「黙れ!」
と一喝した。

僕には今、
そんな慰めを受け止める余裕はない。
余裕のない人間だ。
「おはよう」
の挨拶さえ受け止めることができない。
「おはよう」
に対しても、
「黙れ!」
でお返ししてしまう。
僕は今、そんな状態だ。
そんな状態人間だ。
そして、もちふわホットケーキ大好き人

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