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短編集

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小説家になりたい夢__ ショート・ストーリーを中心とした物語です。
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#自由詩

短編「桜の記憶」

短編「桜の記憶」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜






当時、学生だった僕にとって
社会人として働いている彼女Sの存在は
まさに憧れのお姉さんであり
高嶺の花だった。

初めてデートの約束を取り付けて
憧れのSと念願のデートの行き先は
京都の清水寺に決まった。

向かう道中は産寧坂(三年坂)を登る。

冷たい風に入り交じる草木の爽やかな薫りは
桜の花びらを撫でるように
生命の息吹きが駆

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短編「夜明けのLukta-Gvendur」

短編「夜明けのLukta-Gvendur」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

カチンと
Zippoの金属音が響く。

暗がりのガレージでライターを灯し
すっかりと乗らなくなったオンボロ車のエンジンをかけてみる。

ようやくキー穴を探し
セルを何度か回してみたが
エンジンはかからない。

(ダメかな?)

諦めかけた時
ふいにカーステレオから懐かしいジャズが聴こえてきた。

(バッテリーは残っていたんだな。)

すっかり銀髪に

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短編「Swallow Tales」

短編「Swallow Tales」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜






五月だというのに
季節外れの猛暑が到来した

まだ来ぬ梅雨を通り越して
湿り気のない暑さを凌いでいると
一羽のツバメが飛んで来た

わたしは恐る恐る
窓をほんの少しだけ開けてみる

彼は群れから離れて
一番乗りに飛来したけれど
この突然の暑さで
むしろ取り残された風に
目を円くしている姿に
愛らしさがあった

彼とははぐれ者同志と

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短編「職人気質」

短編「職人気質」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

入社して2年目
工業の業界で働き出して間もない頃のこと。

当時は腕一本で頑固一徹に働いてきた
戦前生まれの職人さんが多かった。

職場の課長は当時30代後半のいわゆる
団塊の世代であり
それよりもさらに上の世代となる熟練工の方は
既に50歳を過ぎており
歴戦を潜り抜けてチェスのポーンが
プロモーションしたような
《昇格:将棋の歩兵から"と金"に成

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短編「冬の終止符」

短編「冬の終止符」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

或る雪の降る夜だった

彼からの別れの電話
もう繋がることはないことを
悟ったあの日の夜

それ以来
ひたすら仕事をすることで
彼のことを忘れようとしていた

オフィスに独り__
時計を見ると22:00

外の寒さは厳しそうだと
ふと窓ガラスの霜をそっと手で拭うと
凍りついた窓に雪の華が咲いている

(すっかり遅くなってしまったようね。)

いつも

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短編 「雲は散る 空に儚き 夢の跡」

短編 「雲は散る 空に儚き 夢の跡」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

わたしはあの日の出来事が脳裏に焼き付いて
離れることがない。

少年の瞳を持った男
Rと言う人物の生涯について、
わたしが見た出来事を筆にしたためる__ 。






それは__
青い光で激しく動いていた。

肉汁から作り出した培養基に
眩く光る物体が見える。

目に突き刺さるような放射が広がる。
Rはついに発見したのだ__ 。

内側を

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短編 「野波博士とわたしの奇妙な自由研究 《後編》」

短編 「野波博士とわたしの奇妙な自由研究 《後編》」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜
 

翌朝、
宿泊していた民宿から
少し離れたところに行くと、
そこには
大きなレールがあった。

(わぁ!すごいジェットコースター
 みたい!)

「これはね。今までの常識が
くつがえるような技術なんだ。」
と望帆パパは言う。

レールの一番下には
木造りのトロッコが一両ある。

「このトロッコには
 超電導の装置が設置されている。  

 物体に

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短編 「野波博士とわたしの奇妙な自由研究 《前編》」

短編 「野波博士とわたしの奇妙な自由研究 《前編》」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

 
毎年、夏の終わり
ツクツクボウシが鳴く頃になると

もう夏休みも終わりか. . . と、
ユウウツな気分になる。

特に夏休みの宿題ともなると
先生から色々とたくさんの
宿題を出されるものだから
毎年、決まって悩んでいる。

(小学生もなかなか大変よね。)

わたしと言えば__ 

遊びたい気持ちが素直に
がまん出来ない性質だから
誘惑に負けて

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短編 「母娘のCavatina」

短編 「母娘のCavatina」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

Cavatina ;
カヴァティーナ (イタリア語)





 
激しい衝撃が起きた__
突然、樹里が運転していた
軽自動車が宙を舞い
割れたリアガラスから
身体が空中に放り出された。

(一体、何が起こったの?)
 
樹里はいつの間にか、
路面に横たわり
少し離れた視界の先に
大破した自分の車と、
この状況の原因と見られる
トラックが停

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短編 「2o4x年」

短編 「2o4x年」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜
 
爆発的な人口増加に伴い
エネルギー問題、食糧問題、気候変動
etc

人類の歴史とは__
長らく貧困と枯渇との闘いであった。

1990年代のネットワークによる
通信革命は人々の叡智を加速させ、
それ故にさらなる混沌に渦巻いていたが、
画期的な発明により
様々に問題を解決に導く方向へと
世界は一致し始める。

世界平和が叫ばれる中、

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短編 「まかない慕情」

短編 「まかない慕情」

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4月__
京都の先斗町で板前稼業をしている
私の職場にアルバイトのK君が入ってきた。

K君は神奈川県の生まれで
近畿圏内の、とある大学に通うため、
独り暮らしをはじめたばかりである。

変声期を迎えていないのか、
時折女性の声に聞き間違えるほど
その声色は高い。

彼曰く
「よく中学生と間違われる。」と、
その見た目もあどけなさが

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短編 「7月のLove Letter」

短編 「7月のLove Letter」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

7月__
灼けつくような夏の陽射しも
放課後、夕暮れ前になると
ほんの少しだけ和らぐ

決まってこの時間になると
校舎の屋上からラッパの音が鳴り響く。

吹奏楽部の女子部員が
ひとりで練習をしている。

(なんて愛らしい響きなんだろう)

彼女が吹くトロンボーンは
ポワンとした円い音色の中に
少しハスキーな雰囲気もあり
郷愁を揺さぶる感

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短編 「手のひらの銀河」

短編 「手のひらの銀河」

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30数年ぶりに
あのアパートの前を通り過ぎる

周囲の風景もずいぶんと
変わってしまっていた

あのアパートの窓からは
部屋の灯りが灯っている

かつての想い出の空間には
見知らぬ新しい住人の
別の物語が営まれているのだろうか





 
初恋は淡い記憶にある__

若さは時として
盲目的なまでの恋に溺れる

夜の帳の中

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短編 「ジューン・ブライドと雨の日は」

短編 「ジューン・ブライドと雨の日は」

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小学校の帰り道
そぼ降る雨の中を傘も差さずに
あてどなく彷徨うように帰宅する
ひとりの少女がいた。

その娘の通う学校では
大人しくて、少しでも変わった子がいると
集団でイジメる風潮があった。

少女はその陰湿なイジメを見るに耐えかね
ある日、いじめられっ子を庇ったことがある。

そうすると、
何故かその少女の意見は間違っていると

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