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短編 「野波博士とわたしの奇妙な自由研究 《前編》」

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主な登場人物

 わたし:彩萌あやめ
    物語の語りべ、主人公

 望帆ちゃん:野波望帆のはみほ
    幼なじみ、クラスメイト

 望帆パパ:野波博士のははかせ
    天才発明家


 
毎年、夏の終わり
ツクツクボウシが鳴く頃になると

もう夏休みも終わりか. . . と、
ユウウツな気分になる。

特に夏休みの宿題ともなると
先生から色々とたくさんの
宿題を出されるものだから
毎年、決まって悩んでいる。

(小学生もなかなか大変よね。)

わたしと言えば__ 

遊びたい気持ちが素直に
がまん出来ない性質たちだから
誘惑に負けてしまい
夏休みも終わるころになると
怠け者の自分を呪いながら
宿題を片付けてゆくのだった。

(そうだ!今年の夏休みは
 幼なじみの望帆みほちゃんと一緒に
 宿題を済ませよう♪)

7月中に宿題を済ませれば__

わたしの描く理想の夏休み

(プールサイドのビーチチェアに
 ゆったりと寝そべりながら
 サングラスをかけて
 トロピカルジュースを片手に
 優雅なひとときを__ 
 なーんてね♡)

そんな想像に心をときめかせながら
お友達の野波望帆のは みほちゃんのお家の
ピンポンを鳴らす。

(はーい!どなた?)
 
望帆ちゃんのママの声がする。

「望帆ちゃん居ますか?」
 
「いるわよ〜。ちょっと待っててね? 
望帆さん?彩萌あやめちゃんが来たわよ〜!」

「はーい!」
と奥の方から聞き慣れた声がする。

「彩ちゃん、お家に上がって。」

「ありがとう!ところで
夏休みの宿題のことなんだけど。」
「一緒にやらない?
今年は嫌なことは早めに済ませて
有意義な夏休みにしたいの。」
と訊ねてみると、

望帆はなんと3日で
やるべき宿題を済ませたと言う。

「えぇ〜っ⁉︎ 早っ!」
望帆はクラスの中でも
一番成績が良かった。

(さすがにデキるよね。)

感心すると同時に
目論見が外れたわたしは
拍子抜けしてしまった。

望帆は言う。
「でもね。自由研究だけがまだ
出来ていないんだ。」
 
「あのね? 彩ちゃんさえ
良かったらだけど. . . 。」
 
望帆パパの研究のお手伝いを
一緒にしないかと言う。

望帆パパは学者さんで
何かの研究をしていることは
知っていた。

「いいの?」

算数や理科が苦手のわたしにとって
自由研究だけでも一緒に出来るなら
これほどラッキーなことはない。

わたしは二つ返事で
「ご一緒させてね♪」と応えた。




「海に行くぞ。」
とギョロリとした澄んだ眼で
望帆パパが言った。

「彩萌ちゃん。
親御さん達にはワシからも、
しばらくウチの望帆と一緒に
夏休みの想い出づくりを楽しませて
もらうと言っておいたから。」
 
(あぁ!なんてラッキーなの⁉︎
 まさか、泊りがけ旅行にも
 一緒に連れて行ってもらえる
 なんて。)

「ありがとうございます!」

小学生最後の夏休み__
ワクワクが止まらない。

わたしたちを乗せた車は
しまなみ街道を走る。

車窓を眺めると
自転車ツーリングの人たちの
往来が多かった。

わたしと望帆ちゃんで
自転車の人たちに
手を振っていると、
にこやかに笑顔で応えてくれる。
親指をグッと立てる人
投げキッスをする人

わたしたちも
投げキッスをお返ししたりして
キャーキャーと笑いの絶えない
ひとときが過ぎてゆくのだった。

わたしたち一行は
車からチャーター船に乗り換えて
瀬戸内海のとある離れ小島へと
向かう。

よく晴れた空と
透き通る海の青に
チャーター船のつくりだす
さざ波の白い稜線が映える。

島に着いてからは
望帆パパが海鮮バーベキューを
ご馳走してくれた。

見晴らしの良い高台から
海を望む。
夕焼け空がオレンジ色に
海を染めていくのを眺め
ゆっくりと時間が溶けるような
感覚に心まで洗われた。

そして、
望帆パパは今回の旅の目的を
説明しはじめるのだった。






望帆パパが言うには
"物体が宙に浮く"ってことを
長年、研究し続けていて
ようやく目処がたったらしい。

あまり難しいことは
良く解らないけれど、

(でも、それってすごくない?)

望帆パパの話は熱を帯びる。

ギョロ目の眼を爛々と輝かせ
少年のように澄んだ目をして、
話を続けていたが、
興奮すると頭を掻く癖が
あるらしく、

まるで学校の音楽室に飾ってある
ベートーヴェンの肖像画みたいに
ボサボサ頭を掻きながら
熱心に喋っていた。

そして、
ある装置の前で、小さく透明な
結晶の粒をつまんで

「見てごらん。」

すると、差し出した手から
結晶の粒が宙に浮きだした。

「えぇっ!おじさん⁉︎
 魔法使っているの?」

わたしは思わず驚嘆の声を上げた。

望帆パパは嬉しそうに
「こんなのは序の口だよ。
 明日は試験場に行くから
 見てごらんよ。」

明日の朝には、望帆パパの
試験場でのテストを
実際に見せてくれることになった。



                    《後編へつづく》

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※この物語はフィクションです。

登場人物は架空の設定であり、
実在の人物と何ら関係ありません。

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