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短編集

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小説家になりたい夢__ ショート・ストーリーを中心とした物語です。
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短編「約束の翼 〜 一陣の風のように」4《最終回》

短編「約束の翼 〜 一陣の風のように」4《最終回》

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第四話《最終回》 「一陣の風のように」

次のレガッタ大会に向けて部員同志のチーム・ミーティングがある。

その席で、監督は紫釉の本当の病名と本格的な抗がん剤治療に入ることを部員に公表した。

部員たちは衝撃を受け、ざわざわと動揺し始めた。

ちはるは緊張した面持ちで部員に直訴する。

「次の大会はわたしに舵手(コックス)をやらせて下さい!」

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短編「約束の翼 〜 一陣の風のように」3

短編「約束の翼 〜 一陣の風のように」3

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第三話 約束の記憶

ちはるは一瞬耳を疑った。

「監督?紫釉くんがホントに言っててるのですか?」

監督は
「あゝそうだ。それと岡崎のことについてはもう一つ伝えておかなければならない。」

ちはるは「何なんですか?」と訊き返す。

 監督は重苦しい胸の内を明かすようにちはるに告げるのだった。

「岡崎はメニュエール病なんかじゃあない。アイツは白血

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短篇 「気骨」

短篇 「気骨」

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老剣士は若い弟子に
剣術稽古をつけるのが
唯一の生き甲斐だった

若い弟子は
この老剣士から
学ぶことが多く
人生の師と仰いでいた

稽古は苛烈である

時に老剣士は面を外しては
「思い切りかかって来なさい」
と愛弟子を鼓舞する

弟子は躊躇するものの
「無心で撃つべし」
と言う老剣士の気魄に押されるように
意を決して打ち込んでゆく

面を外し

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短編「約束の翼 〜 一陣の風のように」2

短編「約束の翼 〜 一陣の風のように」2

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第二話 紫釉《しゆう》

ちはるは漕艇部に入部すると
今までぼんやりと眺めていただけのボート競技の奥深さに魅せられていった。

ボート種目は大別すると
オール2本で漕ぐ種目とオール1本で漕ぐ種目に分かれている。

"スカル"はオール2本で漕ぐ。
乗員は漕手の人数によって1名(シングル)〜4名(クォドルブル)に分かれる。

オール1本の種目は
"舵手

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短編「約束の翼 〜 一陣の風のように」1

短編「約束の翼 〜 一陣の風のように」1

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第一話 ちはる

「キャッチ ソーオッ! キャッチ ソーオッ!」

遠くから"エイト"の勇ましいかけ声が響く。

朝焼けがあたりを照らし始める刻
薄紫色に染まった水面をスラリとした白い艇身が波飛沫を切り裂くように滑べりゆく。

"エイト"は近づいたかと思うとすぐさま遠のいて__
薄明の霧がかった遠く水平線の向こう側へと霞んで消えてゆくさまが幻想的に

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短編「桜の記憶」

短編「桜の記憶」

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当時、学生だった僕にとって
社会人として働いている彼女Sの存在は
まさに憧れのお姉さんであり
高嶺の花だった。

初めてデートの約束を取り付けて
憧れのSと念願のデートの行き先は
京都の清水寺に決まった。

向かう道中は産寧坂(三年坂)を登る。

冷たい風に入り交じる草木の爽やかな薫りは
桜の花びらを撫でるように
生命の息吹きが駆

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短編「夜明けのLukta-Gvendur」

短編「夜明けのLukta-Gvendur」

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カチンと
Zippoの金属音が響く。

暗がりのガレージでライターを灯し
すっかりと乗らなくなったオンボロ車のエンジンをかけてみる。

ようやくキー穴を探し
セルを何度か回してみたが
エンジンはかからない。

(ダメかな?)

諦めかけた時
ふいにカーステレオから懐かしいジャズが聴こえてきた。

(バッテリーは残っていたんだな。)

すっかり銀髪に

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短編「Swallow Tales」

短編「Swallow Tales」

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五月だというのに
季節外れの猛暑が到来した

まだ来ぬ梅雨を通り越して
湿り気のない暑さを凌いでいると
一羽のツバメが飛んで来た

わたしは恐る恐る
窓をほんの少しだけ開けてみる

彼は群れから離れて
一番乗りに飛来したけれど
この突然の暑さで
むしろ取り残された風に
目を円くしている姿に
愛らしさがあった

彼とははぐれ者同志と

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短編「職人気質」

短編「職人気質」

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入社して2年目
工業の業界で働き出して間もない頃のこと。

当時は腕一本で頑固一徹に働いてきた
戦前生まれの職人さんが多かった。

職場の課長は当時30代後半のいわゆる
団塊の世代であり
それよりもさらに上の世代となる熟練工の方は
既に50歳を過ぎており
歴戦を潜り抜けてチェスのポーンが
プロモーションしたような
《昇格:将棋の歩兵から"と金"に成

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短編「冬の終止符」

短編「冬の終止符」

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或る雪の降る夜だった

彼からの別れの電話
もう繋がることはないことを
悟ったあの日の夜

それ以来
ひたすら仕事をすることで
彼のことを忘れようとしていた

オフィスに独り__
時計を見ると22:00

外の寒さは厳しそうだと
ふと窓ガラスの霜をそっと手で拭うと
凍りついた窓に雪の華が咲いている

(すっかり遅くなってしまったようね。)

いつも

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短編 「雲は散る 空に儚き 夢の跡」

短編 「雲は散る 空に儚き 夢の跡」

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わたしはあの日の出来事が脳裏に焼き付いて
離れることがない。

少年の瞳を持った男
Rと言う人物の生涯について、
わたしが見た出来事を筆にしたためる__ 。






それは__
青い光で激しく動いていた。

肉汁から作り出した培養基に
眩く光る物体が見える。

目に突き刺さるような放射が広がる。
Rはついに発見したのだ__ 。

内側を

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回送電車 #2000字のホラー

回送電車 #2000字のホラー

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「お客様様!起きて下さい!」
その声に気が付いて
私は眠りから醒めた。

「この電車は回送ですので、
 降りて下さい。」

帽子を目深に被った駅員に
促されて私は電車を降りた。

乗り継ぎの電車が来るまでの間
家に連絡しようとするが
スマホが見つからない。

(あれ? おかしいな?
 どこかで落としたのか?)

ふと、さっきの回送電車の中に

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短編 「野波博士とわたしの奇妙な自由研究 《後編》」

短編 「野波博士とわたしの奇妙な自由研究 《後編》」

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翌朝、
宿泊していた民宿から
少し離れたところに行くと、
そこには
大きなレールがあった。

(わぁ!すごいジェットコースター
 みたい!)

「これはね。今までの常識が
くつがえるような技術なんだ。」
と望帆パパは言う。

レールの一番下には
木造りのトロッコが一両ある。

「このトロッコには
 超電導の装置が設置されている。  

 物体に

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短編 「野波博士とわたしの奇妙な自由研究 《前編》」

短編 「野波博士とわたしの奇妙な自由研究 《前編》」

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毎年、夏の終わり
ツクツクボウシが鳴く頃になると

もう夏休みも終わりか. . . と、
ユウウツな気分になる。

特に夏休みの宿題ともなると
先生から色々とたくさんの
宿題を出されるものだから
毎年、決まって悩んでいる。

(小学生もなかなか大変よね。)

わたしと言えば__ 

遊びたい気持ちが素直に
がまん出来ない性質だから
誘惑に負けて

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