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回送電車 #2000字のホラー

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜
 
「お客様様!起きて下さい!」
その声に気が付いて
私は眠りから醒めた。

「この電車は回送ですので、
 降りて下さい。」

帽子を目深に被った駅員に
促されて私は電車を降りた。

乗り継ぎの電車が来るまでの間
家に連絡しようとするが
スマホが見つからない。

(あれ? おかしいな?
 どこかで落としたのか?)
 
ふと、さっきの回送電車の中に
置き忘れたのだと思い直した。

まだ回送電車は停車しているが、
車輌内の灯りは消えていた。

電車の扉の外側には
「開」「閉」の押しボタンが
あるが、押しても反応しなかった。

しばらくすると、先ほどの駅員が
通りがかった。

「あのぅ、すみません。
どうやらスマホを座席に置き忘れたみたいなので、自分が座っていた座席の辺りを調べさせてもらっても
いいですか?」
と声を掛けた。

駅員は
「そうなんですか?承知致しました。少々お待ち下さい。」
 
駅員はそう言って
電車の最後列にある車掌室に向かい
小走りに駆け出した。

ほどなく、車輌内に灯りが点いた。

駅員が戻ってくると、
「今から開けますね。」
と言って、「開」ボタンを押すと
扉が開いた。

「お客様、どうぞお探し下さい。」

「ありがとうございます!」
私は駅員に礼を言って、
自分の座っていた座席まわりに
スマホが落ちていないか
探し始めた。

4〜5分程、車輌内を探し回るが
しかし、見当たらない__。

(やはり、思い過ごしだったか?)

駅員も一緒に探してくれたが、
ヒョイと肩をすくめて

「見当たらないですね。」
 
とジェスチャー交じりに言った。

途方にくれて
しぶしぶと引き上げるしかないと
思ったその時

落雷の鋭い閃光が一瞬ほとばしる。その途端、
車輌内の灯りが消えた。

(停電かな?)
 
私と駅員は顔を見合わせて

私は駅員に向かって
「スマホは紛失と言うことで、
 付き合ってもらってありがとうございます。」と言い、

「とりあえず、一旦出ましょうか。」
とお互いに相槌をうって
暗がりの中で扉のボタンを
探した。

駅員はペンライトを持っていたので
その灯りを頼りに「開」のボタン
を探し出した。

しかし__
扉のボタンを押しても
開かなかった。
 
駅員も首を傾げながら
「おかしいですね。完全にロックされてますね。」
 
駅員はいくつかのドアも開かないか
試していたが、同じようにロックされていた。

駅員はトランシーバーで構内と
連絡を取ろうとするが、電源自体が
入らなくて、うんともすんとも
反応がない。

やけに冷える。
車輌内が冷凍庫のように
白い霜があちらこちらに
貼り付いている。

駅員が
「何か異変が起こっているようです。」
 
車窓はすっかり霜に覆われており、
駅員は手で霜を取って、外の景色を
確認した時

「あっ!お客様!」
と叫び声を上げた。

「どうしたんですか?」
と私も窓の外を見ると
信じられない光景が目に飛び込んできた。

「こ、これは. . .⁉︎」
私はこの事態を飲み込むのに
頭が混乱した。

「どうやら、この車輌は宇宙空間に
あるようです。 信じられないことですが. . .。」
と駅員は言った。

「どうやら、そのようですね?」
私は駅員と顔を見合わせ
眼下に広がる地平線を眺めていた。

その時、
"ガシャン!"と
隣りの車輌からガラスの割れたような音が聞こえる。

「. . . ⁉︎ 」
 
私と駅員は顔を見合わせ
隣りの車輌の様子を確かめに
連結部の扉を開けると
生温い湿った風が通り過ぎる。

そこには見えるのは
とても雰囲気の暗い
墓地のような場所へと繋がっている。

「一体どうなってんだ?」
私は声を上ずらせて叫んでいた。

駅員は恐怖に慄きながらも
冷静を装い、
「お客様。どうにも尋常では
ありません。」
 
「ところで、お客様の置き忘れた
スマホはこれでございますか?」
と差し出す。

「あゝ、ありがとうございます。
そのスマホが私のです。」
と返答した。

「よかったです。どうやら私の役目が果たせて良かったです。」
と駅員は言うと
突然に河の風景が
眼前に広がり出して
駅員の正体がおぼろになり、
影だけがうごめいている。

「. . . ⁉︎ 駅員さん?」

私は現在ここに居るのは、時空の
歪みとやらに巻き込まれてしまったのだろうか?

影法師は語り出す。
「三年前、ワタシをあの駅のホームから突き飛ばしたのはアナタですね?」
 
私には皆目、見当がつかない。

「いや、私はそんなことはした覚えがない!」
 
影法師は続ける。
アナタではないのかな?」
 
「違う!私はしていない!」
と返答する。

そうすると
かなり遠くの方から
けたたましい駅のベルのような
音が響いてくる。

私の意識は遠のいてゆく。
一条の光が「開」のボタンを照らしている。

無我夢中になって、そのボタンを押すと、扉は開かれた。

私はホームの上にドサリと身を投げ出すように倒れ込んだ。

気がつくと
私のスマホの画面に
三年前のホーム転落事故の
無残な画像が映し出されている。

(何故?)
 
そして__
回送電車はギシギシと音を立てて
夜の帳へとその姿を消していった。

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